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令和 7年 8月号 260
レンコダイ
今が旬
旬真っ盛りのレンコダイが3尾手に入ったので、今月号はこの魚を取り扱うことにした。正式和名ではキダイと称するらしいが、筆者はこの魚のことをかつて一度もキダイという名称で呼んだことはない。
レンコダイ(キダイ)
キビレアカレンコ
レンコダイそのものは、筆者自身の居住地が福岡という地域柄ゆえ馴染み深い魚の一つである。そういう筆者が、キビレアカレンコという非常に紛らわしい姿形をしたレンコダイが存在していることを知ったのは、水産コンサルタントの仕事で南西諸島や沖縄などに行き始めてからのことだった。実際にキビレアカレンコを初めて目にした時の印象は、「ん・・・?、レンコダイだけど何か少し違うな・・・?」というものだった。
その違いを簡単に表現すると、キダイは「ヒレが赤くて、肌が黄色っぽく」キビレアカレンコは「ヒレが黄色くて、肌が赤っぽい」 という特徴で見分けられる。そしてキダイはその身質が少し水っぽくて柔らかいのだが、キビレアカレンコの身質はキダイのような水っぽさはほとんどなく、特に柔らかくもなく、身はしっかりしていると感じられる。
16年前のFISH FOOD TIMES No.64 お祝い鯛姿造り(平成21年4月号)の記事で扱ったレンコダイは、筆者が新たにその存在を知ってから使用してみたキビレアカレンコだったが、今回記事として取り扱うのは身質が少し水っぽくて柔らかいキダイの方であり、この魚をレンコダイの名称で以下に記していくことにしたい。
レンコダイの位置づけ
レンコダイはキダイもキビレアカレンコも魚市場では明確に区別せず、どれも総称してレンコダイの魚名で扱われ、マダイと比較すると少し低い位置付けでの評価をされていて、市場価格もそれに応じた価格で取引されている魚である。
以下の画像は、長崎県対馬の高浜漁協で定置網から水揚げされたばかりの特大サイズレンコダイ(キダイ)である。この画像を見たら分かるように、実に見事な光り輝くほれぼれするような美しい姿をしていて、その見た目はマダイに決して劣らないと感じる。
海の中でレンコダイは群れて棲息していて、その魚群に網を入れると連れだって獲れることから、その魚名が付けられたとも言われ、昔は以西底引き網漁業で東シナ海などにおいて大量に漁獲されていた。筆者も以前福岡市の長浜魚市場に毎朝通っていた頃、岸壁に接した競り場のコンクリート上に、サイズを段分けされたレンコダイが、背中を上にした縦置きでトロ箱にギューギュー詰めにされ、山積みされていたのをよく見かけたものだ。マダイに比べると比較的小型であり、しかも大量に漁獲されることで大衆魚そのものの扱いだった過去の事実があり、そういうことから刺身などの生食には使わない安物の惣菜魚としてのイメージが定着してきたようである。
また、上画像にあるような定置網で漁獲された鮮度の良いレンコダイを実際に刺身などの生食をしようとすると、その身質の水っぽさが美味しさの邪魔をする嫌いがある。このため、それらを美味しく食べるためにはひと手間加えて水分を制御する必要があるという面倒臭さも、マダイに比べて評価が低い要因の一つではないかと思われる。
更に、レンコダイの漁獲は底引き網か定置網が主たる方法のようなので釣りものは少数であり、いわゆる活魚などで歯触りを楽しむ食感を味わうことが難しく、しかも本来的にレンコダイは柔らかい身質であることなども、評価が高まらない理由にもなっているのかもしれない。
その身質を活かす
このように、レンコダイが少し水っぽくて柔らかい身質であるというのは厳然たる事実なのだから、このことを前提として販売するための提案をしていかなければならないだろう。
先ず第一に、その身質を活かしてレンコダイを最高に美味しく食べる方法として挙げられるのは、塩焼き料理であろう。もし、レンコダイとマダイの両方を同時に塩焼きにしたとして、これらを食べるとすればそのどちらを選ぶかと問われれば、筆者は迷うことなくレンコダイの方を選択する。
筆者の経験上で言えば、レンコダイの塩焼きが焼き上がって、それを食卓に持ってきて、直ぐに焼き立てのレンコダイの表面にお箸を入れた際、そこから湧き上がるように出てくるホワホワの蒸気は、まさにレンコダイの身質が抱えている水気によるものであり、この水気が豊かで柔らかいレンコダイ塩焼き料理の食感はマダイのそれとは別格の味わいだと筆者は感じる。
そういう筆者の思いもあって、レンコダイ3尾の内の1尾は塩焼きにすることにしたが、そのまま丸の姿ではあまりにも普通で面白くないと考え、10%の塩水で立て塩にした開きの商品を作ることにした。
レンコダイ甘塩開きの作業工程 | |
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1,ウロコを除去する。 |
8,頭部を半割にして魚体を開く。 |
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2,エラ膜を切り、出刃包丁の腹を使って、エラを外側に押さえつける。 | 9,腹腔内の内臓を洗い流す。 |
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3,出刃包丁の腹でエラを押さえ、魚体からエラを分離する。 | 10,腹腔内を掃除し終えた状態。 |
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4,魚体頭部の直後から、上身側中骨の上を切り開く。 | 11,10%の立て塩を作り、30分間浸漬する。 |
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5,山高骨を越えて切り進み、尻ビレ際まで切り開く。 | 12、立て塩の浸漬を終えたら、表面の水分を拭き取る。 |
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6,魚体を反転させ、頭部直後の切り口に出刃包丁の刃先を切り入れる。 | 13,容器にキッチンペーパーを敷き、身の方を上にして置く。 |
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7,魚体を起こし、頭部の中央に出刃包丁の刃先を強く押し込んで半割にする。(レンコダイ頭部の骨はやたらと硬く、切れる出刃包丁と強い力が必要だ) | 14,冷蔵の中に30分間放置する。 |
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表面を軽く干して、水分を軽く飛ばした状態にしたレンコダイ甘塩開き |
このレンコダイ開きはもちろん塩焼きにして食べたが、1尾が450gもの大きさのものを開きにすると、グリルに入れるのも難しく、焼き上がりを盛りつける皿も相当大きくしなければならないので、開きの状態ではなく真ん中から縦半分して焼いた。ところがこの焼き上がった半身の塩焼きを皿に盛ると、中骨付きの皮を表側にすると左頭にはならず、中骨無しは骨がないので身が左右にやたらとそり上がってしまい、両方とも非常に見かけの悪い料理となってしまった。
レンコダイを立て塩に漬け、冷蔵庫内で軽く水分を飛ばした開きの味は最高に美味しかったのだが、焼き上げて皿に盛った料理の見かけは上記したようにあまり良いとは言えず、ここで公開するのは恥ずかしいと感じたことから、今回その画像は省略することにした。食卓の上で開き魚を食べるシーンを考えると、生魚の開きを商品化する際はサイズが大きければ良いということにはならず、せいぜい1尾300gくらいまでにしておかなければならないということだろう。
頭付き二枚おろし切身
レンコダイの残りの2尾は刺身と鮨と切身にすることにした。刺身用に1尾使うとして、鮨と切身には半身ずつで商品化をおこなった。
レンコダイ骨付き半身の切身商品化 | |
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1,エラ膜に切り込みを入れる。 | 6,山高骨の上を尾ビレ側から頭部に向けて切り進む。 |
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2,腹部を縦に切り開く。 | 7,下身のカマ横に切り込みを入れる。 |
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3,エラと内臓を除去する。 | 8,尾ビレ際を切り離す。 |
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4,腹腔を水洗いし、水分を拭き取る。 | 9,下身を切り離した状態。 |
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5,下身の腹ビレ際と、背ビレの際の両方から、中骨の上を切り開く。 | 10,上身側から横半分に切り離す。 |
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レンコダイの頭付き二枚おろし切身 |
この切身は以下の画像の煮魚料理にした。火を通しても身は固くならず、柔らかい食感は食べやすく、味も良く浸みていて、これも美味しくいただけた。
昆布締め
次に、レンコダイの残りの1尾は刺身にすることにした。刺身にするとは言っても、ご承知の通りレンコダイは少し水気が多く、柔らかい身質なので、普通に皮引きをして刺身にしたのでは、味について高い評価は得られないと判断し、最後の1尾は三枚おろしにして、切身にした残り半身分を合わせた三枚分の半身を昆布じめにすることにした。
魚を昆布締めにすると、魚肉の水分が昆布に吸われて身が締まり、昆布のグルタミン酸が魚肉に移り深い味わいとなる。特にレンコダイのような水分が多く軟らかい魚は、肉質が締まり旨味を補完できるのを期待してのことである。
最後の1尾は、以下のように普通の三枚おろしにした。
レンコダイの刺身用三枚おろし作業工程 | |
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1,タスキ落としで頭部を切り離し、内臓を除去し、水気を拭いた状態。 | 5,上身の背ビレ際から、中骨の上を山高骨の方へ切り進む。 |
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2,下身の尻ビレ際から、中骨の上を山高骨の方へ切り進む。 | 6,上身の尻ビレ際から、中骨の上を山高骨の方へ切り進む。 |
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3,下身の背ビレ際から、中骨の上を山高骨の方へ切り進む。 | 7,尾ビレ際から頭部側へ山高骨の上を切り進む。 |
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4,尾ビレ際から頭部側へ山高骨の上を切り進む。 | 8,上身と下身の腹骨を欠き取る。 |
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レンコダイの三枚おろし商品 |
これで半身が合計3枚となったので、これらをすべて昆布じめにした。
レンコダイの昆布締め作業工程 | |
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1,三枚おろしの半身に残っている血合い骨を抜き取る。 | 5,ペーパーに湿らせた酢で昆布の表面を拭き、魚体にピッタリとくっつける。 |
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2,容器に給水紙を敷いて、3枚の半身を並べる。 | 6,昆布じめにした魚肉の全体にラップを巻き、一晩冷蔵庫で寝かせた。 |
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3,半身の両面に軽く振り塩する。 |
7,翌日になって、表面のラップと昆布を取り外す。 |
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4,魚体表面に滲み出てきた水分を拭き取り、昆布の上に並べる。 | 8,昆布じめが出来上がった状態。 |
昆布締めの刺身と鮨
レンコダイの昆布締めは皮を付けたままでおこなったので、皮を炙りにして刺身と鮨にすることにした。
レンコダイ昆布締め炙り刺身平造り作業工程 | |
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1,昆布締めをしたレンコダイの皮をバーナーで炙りにする。 | 6,上身の腹身を平造りにする。 |
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2,炙りにしたレンコダイ1尾分の上身と下身を準備する。 | 7,下身の背身に2筋の飾り包丁をする。 |
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3,上身の背身に飾り包丁を2筋入れる。 | 8,下身の背身を平造りにする。 |
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4,上身の背身を平造りにする。 | 9,下身の腹身に1筋の飾り包丁をする。 |
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5,上身の腹身に1筋の飾り包丁をする。 | 10,下身の腹身を平造りにする。 |
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レンコダイ昆布締め炙り刺身平造り |
レンコダイを昆布締めにした結果、昆布に水分が適度に吸収されて身が締まり、その身に歯ごたえがでることになった。また、皮の表面を炙りにしたことで風味が増して、非常に味深いものになったのだった。
最後はレンコダイ昆布締め炙りのにぎり鮨である。筆者は鮨職人ではないので、鮨は上手でもないし得意でもないことは事前に申し上げておきたい。つまり、我流なので鮨の知識として参考にもならないとは思われるが、こうやっておこなったという事実を画像で示しておきたい。
特に、画像の中で違和感を感じられるのは、ビニールの手袋をつけてにぎり鮨をしていることではないだろうか。しかし、魚屋鮨は基本的に酢水を使用する場面はなく、水産部門の鮨製造作業はすべてビニール手袋を使っておこなうので筆者も同じようにしている。この点は鮨の専門家からすると許せないことなのかもしれないが、魚屋鮨はこれが普通の形であることを理解してもらいたい。
レンコダイ昆布締め炙りにぎり鮨作業工程 | |
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1,昆布締めをしたレンコダイの下身を左の姿勢で切り入れる。 | 6,右手のシャリを左手の鮨ダネの上にのせ、左手親指で割りを入れる。 |
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2,皮一枚を残して柳刃の峰を起こし、それから引いて切り、小刃を立てる。 | 7,右手の2本指でシャリを押さえ、左手親指を添えながら、四角く形を整える |
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3,半身で7カンの鮨ダネを切り終えた。 | 8,左手の指先の方へシャリを転がし、鮨ダネを上向きにする。 |
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4,左手に鮨ダネを持ち、右手にシャリを丸める。 | 9,鮨ダネを上向きにして、再び右手の2本指で上から押さえる。 |
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5,右手人差し指の腹にワサビをつけ、左手の鮨ダネ上にわさびをつける。 | 10,にぎり鮨の7カンをにぎり終えた。 |
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レンコダイ昆布締め炙りにぎり鮨 |
良い塩梅が肝
昆布締めを炙りにしたレンコダイにぎり鮨は、刺身同様にとても美味しかった。こうして3尾のレンコダイを塩焼き、煮魚、刺身、にぎり鮨の料理にしてみると、レンコダイはその身質故に塩の使い方一つで美味しさを左右できることが分かる。このような料理で塩を上手に使うことを「良い塩梅」と表現するが、特にレンコダイ料理は「良い塩梅が肝」だと感じられる。
塩梅という言葉は、料理の味付けに使われる塩と梅酢の組み合わせを指していたとのことである。昔食酢がなかった時代は、塩と梅酢で味を調えていたため、そのバランスが良い状態を「良い塩梅」と表現していたらしい。 今やこの「良い塩梅」という言葉は、料理だけでなく具合や加減、そして健康のことなど、様々な状況を表現する言葉として使われるようになっている。
今年になって、たまたま筆者は生まれて初めて、庭に実った梅をちぎり、それらを梅干しにしていた。そういうことで、梅酢というのがどうやって出来るのか知ることが出来ていた。やはり、梅干しを作る際も「塩加減」一つで梅酢の出方が随分と違うということを自ら実体験していたのである。もちろん塩加減が変われば味も変化することも自分の舌で確認をしている。
レンコダイはマダイよりも格下に見られ、それに見合った価格で取引されているけれど、塩加減一つで美味しい料理になるのだから、販売するに当たってはそのことを踏まえた料理提案をしていくべきであろう。同じように、水気が多く身が柔らかい身質を持つ、カマス、イトヨリ、アマダイなどは、レンコダイと似たような魚として塩加減が料理の肝となると思われ、読者の皆さん方はこの他にも筆者が知らない同じような身質の魚をご存じかもしれない。
出来れば、色んな魚を「良い塩梅」にしてほしいものである。
水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 7年 8月 1日