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令和 6年 9月号  249

ニザダイ(新)


お手頃価格なのだが・・・

8月の下旬になって筆者がいつもお世話になっている魚売場に行くと、ニザダイが裸売りの量販コーナーにたくさん陳列されていた。そして非常に安い価格を提示されたこともあって、筆者はこのニザダイを9月号のテーマにすることを決定し購入することにした。

ニザダイという魚は、8月と9月に定置網などに大量入網することが、静岡県水産技術研究所伊豆分室の発表資料で明らかにされている。その資料に掲載されている以下の画像は、2021年8月静岡県伊東魚市場に水揚げされた3.9トンのニザダイであり、一つの漁場で1日に水揚げされたものとのことである。

このような形でのニザダイの大量入網は、ほぼ毎年のように1日または数日限りで発生していて、主に夏から秋に集中する傾向があるとのことだ。静岡県水産技術研究所伊豆分室は、静岡県伊豆東岸の大型定置網における1987〜2021年の月別漁獲量及び漁場別漁獲量の数字を元にしてニザダイの漁獲特性を分析した。その結果、ニザダイの月別漁獲量(1987〜2020年平均値)は、以下のグラフが示しているように8月9月に突出して多く、その他の月は少ないことがわかったのである。

ニザダイの産卵期は春とされていることから、産卵のために大群で浅瀬に集まってきたとは考えにくく 、この現象を引き起こす要因は何なのか、今のところ明確になっていないとのことである。

FISH FOOD TIMES では No.65 ニザダイ平造り(平成21年5月号)でニザダイを記事にしていたので、今月号の対象魚種として採りあげると2回目の出番となる。例のごとく、筆者は今月も取り扱い魚種の選定に悩んだ末のことなのだが、15年前に記したニザダイの記事内容はあまりにも簡単で、内容が充実していたとは言えず、筆者としてはもっと深く突っ込んだ形で見直してみたいと反省していた魚の一つだった。

一般的に、ニザダイはどちらかと言えば美味しくない魚との評価があり不人気で、魚市場での取引価格も安い価格帯に低迷している。安い価格で仕入れられることから、売価も自ずと買い易いものになるのが普通であるにも拘わらず、魚売場ではお客様に見向きもされない傾向にある。このため魚売場の担当者は基本的にニザダイを積極的に仕入れることはなく、魚売場に商品として並んでいるのを目にすることはほとんどないと思った方がよいだろう。

海の中のニザダイは、漁師さんだけでなくアングラーからも狙い撃ちされることはなく、釣れてもリリースされるような存在だから、沿岸や岩礁域に豊富に群れていて、個体数は安定した数を維持しているようである。そして漁獲圧力がかからないことで豊富に棲息しているニザダイは、主食となる海藻などをどんどん食べることから、水産漁業の側面からは厄介な問題を引き起こす魚の一つに挙げられているのだ。

問題とは「海の磯焼け」である。これは海の底の海藻が生えなくなる現象で「海の砂漠化現象」とも呼ばれている。一般的に磯焼けという言葉は、藻場の枯死や衰退によって、藻場に依存して活きているイセエビやアワビなどの漁獲が、著しく減少してしまう現象を表す言葉として用いられている。藻場というのは海藻や海草がつくる森林状や草原状の群落のことで、魚介類の産卵や棲息の場所でもあり、沿岸漁業を支える重要な基盤なのである。

この海の磯焼けの原因の一つとなっているのが「植食性魚種」の爆発的増加というものである。 ニザダイも植食性魚種の中の一種であるが、ニザダイだけでなく、イスズミ、アイゴ、ブダイといった植食性魚種は集団で藻場を食い荒らすので、これが磯焼け加速の原因ともなっている。しかし、魚市場ではこれらの魚の価値がほとんど評価されず、商品として取引の対象とならないことが多いため、漁師さんの漁獲対象とならず海の中でどんどん勢力を増しているのである。


植食性魚種を美味しく食べる例

これらの植食性魚種に共通しているのは「一種独特の臭い」がすることである。この臭いがニザダイなどの魚が嫌われる原因となっているので、臭いを克服して美味しく食べる方法を見いだせば、植食性魚種の価値が増して数多く流通するようになり、海の磯焼けが減少することにつながることになるはずである。

その対応策の一例として、全国回転寿司チェーンのくら寿司がニザダイに廃棄予定のキャベツを与えて養殖した「キャベツニザダイ」 を販売していることが挙げられる。

以下の括弧内はくら寿司の発表資料。

「当社は、担当者がテレビで知った「ウニのキャベツ養殖」をヒントに、キャベツをえさにした実証実験を行ったところ、においを軽減できることが判明。本来ニザダイが持つ良質な脂のりや身質をおいしく味わえる商品にできたことから、2020年11月、10店舗にて試験販売し、好評をいただきました。それを受け、この度、供給体制を整えたことで初の全国販売が実現しました。今回は九州地方の定置網で漁獲したニザダイに廃棄予定のキャベツを与え養殖し、約14万食分の販売を予定」 

くら寿司はキャベツニザダイの試験販売を終え、2022年11月からは全国販売に踏み切っているとのことであるが、いっぽう魚小売の現場ではくら寿司のような対応策は何も執られることはなく旧態依然のままである。

FISH FOOD TIMES としては、 No.65 ニザダイ平造り(平成21年5月号)で充分に表現できなかったことを補足する意味でも、またくら寿司のような大々的なことは出来ないけれど、魚の小売り現場で働く人たちにニザダイを販売するためのヒントとして、少しでも参考になることを筆者なりに提案できないものかと考え、チャレンジしてみたニザダイを美味しく食べる方法を以下に記してみたい。


ニザダイの調理

これが今回入手した1.3kgのニザダイである。

以下のように活き締めされていて、鮮度的には良いレベルだった。

ニザダイは海藻などを食べたら、これらをしばらく胃の中に溜め込んで発酵させるとのことであり、その時間をかけた発酵の過程で胃の内蔵物の臭いが身に移ってしまい、それが一種独特の臭いの元となっているようである。

以下の調理作業工程は臭いの元となる内臓を出来るだけ傷つけずに元の形のまま除去することを意識した方法である。

ニザダイの内臓除去作業
1,下身側のエラ蓋横に切り込みを入れ、腹ビレの後ろまで切り開く。 5,ある程度内臓を引き出したら、頭部と内臓がつながったまま胴体から分離する。
2,上身側のエラ蓋横に切り込みを入れ、腹ビレの後ろまで切り開く。 6,腹腔内部の血合いに出刃包丁の切っ先で切り込みを入れる。
3,頭部と胴体がつながった硬い背骨を、出刃包丁の刃元を使って切り離す。 7,ササラやスプーンなどの道具を使って血合いと内臓の残り部分を除去する。
4,頭部を付けたままの状態で、手の指を腹腔内部に入れ込み、内臓を潰さないように掴んで引き出す。 8,内臓を何一つ残らずきれいに除去した後の状態。

 

ニザダイの頭部と内臓を除去し終えたが、内臓は脂肪の塊のようにカチッと固まった状態であり、青魚系の赤身魚類によくあるような内臓が形を崩して流れている状態ではなかった。扁平形の魚にしては胴体も丸々としていて厚みがあり、それはまるで産卵を控えた魚が脂肪をしっかり蓄えて旬を迎えているような状態だった。ニザダイの産卵期は春ということなので、旬は冬から春にかけてということになるが、上記したようにニザダイが主に漁獲される時期が8月9月に集中しているという事実も含めると、ニザダイの旬は夏なのではないかと思ってしまいたい気持ちにさせられる。

頭を落とし内臓を除去し、丸々と太ったニザダイの見た目からすると、これは美味しくない魚であるはずがないと思ってしまう。その太ったニザダイを三枚おろしにしたが、扁平形の魚体なので以下のように片面おろしの方法でおこなった。

ニザダイの片面おろし作業工程
1,下身側の尻ビレの際を山高骨に向けて切り開く。 5,腹骨は、包丁の刃先で引き切りするのではなく、刃先を押しこんで切り離す。
2,山高骨の手前で切り開くのを止めず、山高骨を超えて背ビレの方へ切り進む。 6,腹骨を切り離したら、そのまま山高骨を超えて、尻ビレの際の方に切り進む。
3,背ビレ際を頭部側から尾ビレ側へと切り開き、下身を切り離す。 7,尻ビレ際を頭部側から尾ビレ側へと切り開き、上身を切り離す。
4,上身側の背ビレ際を山高骨の方に向けて切り進む。 8,多少乱暴に扱っても身割れする恐れはなく、三枚おろしができる。

 

三枚におろしてみると身質がしっかりしていて、多少乱暴に扱っても身割れする恐れはなく、例えばスズキのように、どんなに丁寧に扱っても直ぐに身割れを起こしてしまう魚とは全く対極にある身質である。

ニザダイを三枚おろしにしたので、これを刺身、鮨、素揚げ、唐揚げの4種の料理にするための準備作業をおこなっていくことにした。15年前のFISH FOOD TIMESの記事は平造り刺身だけを紹介していたが、今回はどのように前回との違いを出していくかを思案し、ニザダイの固い皮を活かした料理が出来ないものかと考えた。魚の皮を活かすには炙りが良いだろうと考え、その工程を加えることにしたが、ニザダイの小さなウロコを除去する作業は一切おこなわず、ウロコも一緒に食する料理という方向性で作業をおこなった。

1,先ずは上身の調理作業

上身を二分割にして、皮引きと炙りにする作業工程
1,上身側の腹骨の下に、出刃包丁の刃先を切り入れる。 6,頭部側と尾部側に二分割する。
2,腹骨の下を端まで切り進めたら、最後に切り整える。 7,尾部側の皮上に切り込みを入れる。
3,血合い骨は非常に抜きにくいので、柳刃に持ち替え、血合い骨の左側に浅く切り込みを入れる。 8,外引きで皮を引く。尾部のくびれ部分には硬い骨質板があり、柳刃の刃先は少し浮き加減に入れなければならない。
4,同じく、今度は血合い骨の右側も浅く切り込みをいれる。 9,尾部側の皮を引いた状態。
5,骨抜き道具を使って血合い骨をすべて引き抜く。 10,二分割した残りの頭部側は、皮をしっかりと炙る。

 

2,下身の調理作業

下身の皮を炙りにして二分割する作業工程
1,下身の腹骨の下に刃先を切り入れる。 5,少し長めの時間をかけて、しっかりと皮を炙る。
2,端まで切り進めたら、最後に端を切り整える。 6,皮を炙り終えた下身を、皮と身が馴染むように冷やし込む。
3,骨抜き道具を使って血合い骨を引き抜くが、上身と同じく血合い骨の両脇に切り込みを入れて骨を抜きやすくしている。 7,二分割する時は、炙った皮がずれて皮がむけないよう気をつけて切り込む。
4,砕氷を敷いて網を被せ、その上に皮が付いたままの下身を載せる。 8,包丁の刃先を前後に大きく動かさず、押し切りするようにして二分割する。

 

3,刺身と鮨の作業工程

ニザダイの刺身と鮨の作業工程
1,皮引きした上身の尾部と炙りにした下身の尾部。 6,炙りの尾部を鮨ダネにカット。
2,皮引きした尾部を背身と腹身に分割。 7,刺身用の背身は、手を使って皮を除去して、これを炙りにする。
3,炙りした尾部をを背身と腹身に分割。 8,皮なしの背身を平造りにする。
4,左側二つは腹身、右側の二つは背身。 9,平造りを意図的に湾曲状に並べる。
5,皮なしの尾部を鮨ダネにカット。 10,皮なしの炙りにした背身は薄造りにして、カーブを描くように並べる。

ニザダイにぎり鮨

上段が皮なしで下段が皮付き炙り。炙りにした皮付きの鮨ダネの皮は細く、身から外れてしまい、皮の存在感はほぼ無い状態になってしまった。

ニザダイ刺身

左側は皮なしの平造り。右側は皮なし炙りの薄造り刺身。

 

こうしてニザダイの刺身と鮨は完成した。そして、これらを味わった結果、その感想としては炙りという作業を加えても一種独特の臭いはやはり少し残ってしまうものがあり、完全に臭いを退けることは出来なかった。臭いによる違和感に順番を付けるとすれば、それが一番強いのは平造り刺身、二番は炙りの薄造りだった。ところがにぎり鮨については、炙りが有りも無しの分も、どちらも臭いの存在が希薄で一番美味しく食べられたと感じられた。これはたぶん鮨飯との相性が良いのではないかと思われた。


ニザダイ料理

ニザダイの料理をする前の準備段階で、切身の皮に両方とも炙り作業を加えているのは上記したとおりである。炙りにした皮の焼いた香ばしい臭いが、ニザダイが抱える一種独特の臭いを打ち消してくれるのではないかと考えたのである。このことはあくまでも頭の中で描いた予想でしかなく、実際どうなるかはやってみないと分からなかった。

ニザダイを料理するには、煮付けや塩焼き、ムニエルなど、様々な料理にすることも可能だったが、美味しく食べるための実験的な意味合いを込めて、一つは単純に塩コショウだけの「素揚げ 」、二つ目は多少の味付けをした「唐揚げ」をすることにした。このように油を使う料理という共通の方法で味を比較してみることにしたのである。

以下の作業工程は、左の列が素揚げ、右の列は唐揚げである。

ニザダイの油揚げ料理
1,左の切身は塩コショウだけを振りかけ、右は生姜おろし、ニンニクおろし、醤油を切身に適量からめる。
 
2,180℃の高温の油に切身を入れる。   2,切身に小麦粉をまぶす。
 
3,3分間ほど揚げる。   3,170℃で3分間ほど揚げる。
 
4,切身を裏返して1分間揚げる。   4,切身を裏返して1分間揚げる。
 
5,油切りをする。   5,油切りをする。
ニザダイの素揚げ
ニザダイの唐揚げ

 

こうしてニザダイの素揚げと唐揚げが出来上がった。不人気の魚を何とか美味しく食べられないものかと思案して、炙りにした皮を隠し技として活かすようにしてみたのである。そして、その実験の結果はどうだったか・・・。

まず、素揚げは高温の油で揚げたので皮がパリパリとなり、皮そのものの活かし方としては正解だった。身については、独特の臭いはほぼ感じられず特に問題は感じられなかった。これだけの身の厚さがあるので脂肪タップリかと思っていたけれど、身の中に脂っ気はほとんどなくサッパリ味だった。

次に唐揚げは、油が高温ではなかったからか、皮はパリパリ感がなくて歯触りが悪く、素揚げの皮ほど美味しくはなかった。しかし、唐揚げは多少の味付けをしていたので素揚げよりも味わいがあった。脂肪分を感じられないのは素揚げと同じで、皮の風味を活かせない分素揚げよりも味にインパクトがなく、中途半端になってしまった。


未利用魚の活用

さて、今回こうやってニザダイを料理してみると、この魚が不人気である理由も解らない訳ではないというものがあった。だが、この4種の料理は一品当たり100円ほどの原材料原価にしかならないのである。仮にもっと高くなったとしても、せいぜい200円以内で収まるはずである。

読者の皆さん方は、上記してきたこれらの料理に売価をつけるとすれば幾らに設定されるであろうか。ニザダイの一種独特の臭いを消し飛ばす方法は、これ以外にまだ数多くの方法が残されているはずであり、工夫の仕方はまだいくらでも残っていると考えられる。

ニザダイだけでなく、イスズミ、アイゴ、ブダイなどの植食性魚種は、海で人間に狙い撃ちされない立場を謳歌して繁栄しているようである。海の中の生態系が人間好みのターゲットとして漁獲される魚だけが激減し、植食性魚種は漁獲圧力もなく生き延びていくとすれば、やはり海の生態系が不自然な形で変化していくと思われる。

現在水産資源として積極的に漁獲されていない未利用魚に属するニザダイは、水産業界の人たちが知恵を働かせ、もっと活用していくことが水産業界のためになると思われる。上記したくら寿司のキャベツニザダイだけでなく、イオンでは福島県産のアカエイを使ってメンチカツを製造し販売を始めたということである。実はここ1年以上にわたって、FISH FOOD TIMES 平成28年7月号 No.151 アカエイの刺身&鮨 へのアクセス数が極端に増えていて、これはどうしたんだろうと思っていたところ、今年6月にイオンが扱うアカエイの発表があり、なるほどイオン関係者による影響があるかもしれないと筆者は合点がいったのである。

水産資源の枯渇という言葉がマスコミなどで一人歩きしている側面があるが、これは国民的に人気のある魚に限った現象であり、ニザダイやアカエイなどの水産資源として充分に活用されていない未利用魚がまだ数多く存在していることを、マスコミは記事として積極的に採りあげようとしていないのは残念である。

今月号は魚小売関係者の間で不人気な未利用魚の一つであるニザダイを記事として扱ってみたが、ここまで読み進められた読者の皆さんは、今回の内容をどう受け止められたであろうか。もちろん、充分な解決策を提示できたとは思っていないが、15年前の記事よりは内容を深掘りできたのではないかと思うし、なんらかのヒントくらいは伝えられたのではないかと自分では思いたい。

魚を扱って商いしている人は、出来れば一般的に人気の高い魚ばかりを追いかけるのではなく、マイナーな注目されていない魚に目を向けてみるのも、商売の醍醐味の一つになるのではないかと思う次第である。


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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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                 更新日時 令和 6年 9月 1日