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令和 7年 10月号 262
オオヤマトカマス
何とも、でっかいアオカマスだなと思ったら・・・
いつもお世話になっているスーパーの魚売場に、開店時間の10時より2時間前の8時頃に裏口から入ると、魚売場のアイランドケースの氷の上に、この魚が山積みされていた。色と形からすると、これはアカカマスとは違うようだが、アオカマスにしてはでっかいなあ・・・、と思いながら怪訝な顔をしていると、仕入れを担当した方が、この魚はアオカマスだと説明してくれた。だが、それにしては筆者がこれまで見てきたアオカマスの3〜4倍くらいの大きさはあるだろうと感じた。
持ち帰って、体長と重量を計ってみたところ、44p、493gの大きさだった。
(上の画像は秤の上で魚体が曲がり、形が寸胴に丸く変形して見える)
これらの画像だけでは、その大きさがもう一つピンとこないかもしれないので、同時に購入した決して小さくはないサイズのアカカマスと比較した画像をお見せしよう。
更に、これよりもっと分かりやすいのは次の画像だろう。
4kg箱23尾入りの生サンマを一緒に並べてみた。比較を目的として同時に購入した生サンマは1尾175gだったので、大サイズレベルの大きさだと言って差し支えないだろう。その大きなサンマの約3倍ほどもあるカマスなのだから、やはり「でっかい」のである。
このカマスはよく見かける普通のアオカマスではないと思って調べてみたところ、標準和名はオオヤマトカマスという名称であることが判明した。一般的にアオカマスと呼ばれているのはヤマトカマスであり、生物学的な分類ではどちらもスズキ目サバ亜目カマス科カマス属である。このため、ヤマトカマスもオオヤマトカマスも魚市場での名称はどちらもアオカマス、クロカマス、ミズカマスなどと呼ばれていて、あまり明確には区別されずに扱われているようである。
しかし、生息域に関してはヤマトカマスが北海道から九州までの沿岸域であるのに対して、オオヤマトカマスは九州の南の南西諸島からオーストラリア付近までの暖かい海域に生息しているという違いがある。
この大きさをどう活かすか
オオヤマトカマスの大きさを明らかにする目的でアカカマスも同時に購入したのだが、この際に大きさだけではなく、アオカマスとアカカマスの身質や食感の違いについても、自分なりに確認し言及してみたいと考えた。このため、オオヤマトカマスだけではなく、アカカマスについてもそれなりの数の画像と文字数を費やすことにして、前半にオオヤマトカマス、中盤以降はアカカマスという順序で記し、その違いに触れていくことにしたい。
先ずオオヤマトカマスは、魚体を触ってみるとアオカマスに見られる特徴の一つである「身質の柔らかさ」が同様にあると感じた。そのことから推測されるのは、やはりアオカマスと同じように水っぽさもあるはずであり、水分を制御することがオオヤマトカマスを美味しく食べるポイントになるのではないかと考えた。そこで、その片身は常道である昆布締めで水気を吸収し、この大きさを活かして棒鮨(押し鮨)にすることにした。
オオヤマトカマスの三枚おろし作業工程 | |
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1,下身の胸ビレ横に切り込みを入れる。(ウロコ取り作業の画像は割愛) | 9,頭部側に向けて切り進み、下身を分離する。 |
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2,上身側の胸ビレ横に切り込みを入れ、頭部を切り離す。 | 10,二枚におろした後、まだ中骨が付いたままの上身。 |
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3,内臓が付いたままの頭部を左へ引っ張り分離する。 | 11,上身の背ビレ際から切り入れ、山高骨の方へ切り進む。 |
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4,腹部の中心を縦に切り開く。 | 12,上身の尻ビレ際から切り入れ、山高骨の方へ切り進む。 |
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5,出刃包丁の刃先を使って内臓をかき出す。 | 13,頭部側に向けて切り進み、中骨から上身を分離する。 |
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6,血合いをしっかり洗い流す。 | 14,上身の腹骨を欠き取る。 |
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7,魚体の水気を切って、下身の尻ビレ際に切り入れ、山高骨の方へ切り進む。 | 15,下身の腹骨を欠き取る。 |
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8,下身の背ビレ際に切り入れ、山高骨の方へ切り進む。 | 16,三枚おろしが完了。 |
オオヤマトカマスを三枚におろした際の感覚的な印象は、事前に推測した通りにアオカマスと似たような身質の柔らかさを感じたが、それだけでなく大きいだけに身割れも目立ち、小さく切って形を整える商品には不向きだろうとも感じた。そのような身質を踏まえたうえで、以下のように昆布締めをおこなうと、その身が程よくカチッと締まり、その後の作業が扱いやすくなった。
オオヤマトカマスの昆布締め作業工程 | |
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1,上身を押し鮨にすることにして、小骨を抜き取る。 | 6,羅臼昆布の上に上身を載せる。 |
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2,キッチンペーパーの上に骨抜きした上身を置き、振り塩をして暫く放置する | 7,上身の表面全体を覆うように、上からも羅臼昆布を載せる。 |
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3,酢を含ませたキッチンペーパーで羅臼昆布の表面を湿らせる。 | 8,下に敷いていたラップを上にも被せて全体を包む。 |
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4,羅臼昆布を上身の長さに合わせてカットする。 | 9,3時間ほど寝かせたら、昆布が水分を吸収し、程よい固さに締まる。 |
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5,バットにラップを拡げ、その上にカットした羅臼昆布を載せる。 | 10,被せた昆布を外して完成。 |
昆布締めをしたオオヤマトカマスは程よくカチッと締まって、とても扱いやすくなった。これまで小さなアオカマスを何尾分もまとめて昆布締めをした時よりも、オオヤマトカマスは身が厚くて重量感があり、以下のように棒鮨にしていく際も「これはきっと美味しいはずだぞ・・・」と期待感を抱かせるものがあった。
オオヤマトカマスの棒鮨作業工程 | |
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1,昆布締めした上身を頭部側から尾部側へ一定間隔で切り込みを入れる。 | 9,鮨飯の上に炙った上身を載せる。 |
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2,最初の切り込みと交差する形で、同じように切り込みを入れる。 | 10,手前側から向こう側へ巻き簀を巻く。 |
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3,バーナーで表面を炙る。 | 11,四角形の棒をイメージして巻き終え、飛び出た左右の鮨飯を押し戻す。 |
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4,ラップを巻いた巻き簀に、準備した約250gの鮨飯の半分ほど載せる。 | 12,巻き簀の巻きをほどいて完成。 |
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5,鮨飯の中央にガリを適量並べる。 | 13,棒鮨の中央で二つに切り分ける。 |
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6,ガリの上に残りの鮨飯を被せる。 | 14,切り分けた二つを前後に並べ、さらに二分割する。 |
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7,鮨飯を準備し終えた状態。 | 15,棒鮨が四等分された。 |
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8,鮨飯の上に刻みネギを適量振りかける | 16,四等分を更に二等分して、合計で八分割にした。 |
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八分割した内の四個を盛りつけ、オオヤマトカマス棒鮨が完成。 |
オオヤマトカマス棒鮨の食後感を記そう。それは、実に美味しく最高レベルの美味しさだった。読者の皆さん方はサバの押し鮨を好まれる方もいらっしゃると思うが、あの型枠に入れてカチカチになったサバの押し鮨とは別世界の代物なのである。
この美味しさのポイントは、オオヤマトカマスの身から水分が適度に出たソフトな食感である。サバ鮨のような「型枠で整えた押し鮨」では味わえない食感があり、そこに昆布締めの旨味と炙りの香ばしさが組み合わされた味のハーモニーは、本当に素晴らしい五つ星の世界だと感じたのだった。
残りの半身
オオヤマトカマスの半身は上出来だったが、残りの半身については少し頭を悩ますことになった。後の半身も昆布締め商品にするのではあまりにも能がないし、体長は44pもあるので長いままで焼魚や煮魚の商品には難しい。そのまま刺身にするには水っぽさが美味しさを損ね、刺身にした場合は身割れによる型崩れの恐れもある。ムニエルやソテーには細長い形ではたぶん様にならないだろうと考えた。
そこで、一般的に小さな切身が使われる竜田揚げにしてはどうかと思いついた。細長い形のオオヤマトカマスは小さな切身に適していると判断したのだった。
オオヤマトカマスの竜田揚げ作業工程 | |
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1,オオヤマトカマスの下身。 | 5,醤油、酒、味醂の同割りに、生姜、ニンニクの摺りおろしを加えた漬けダレを準備する。 |
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2,皮側を下にして、尾部側から切る。 | 6,漬けダレに切身を漬ける。 |
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3,2〜3p幅で頭部側へ切り進める。 | 7,切身をタレ漬けしたら、表面に軽く片栗粉をまぶす。 |
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4,半身を5切れにカットした。 | 8,180℃の油でキツネ色になるまで揚げる |
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9,お皿に給油紙を敷きオオヤマトカマスの竜田揚げを盛りつけて完成 |
この竜田揚げの味もなかなか上出来のものになり、その味をしっかりと賞味することが出来た。オオヤマトカマスが持つ柔らかくて水分豊かという身質によって、竜田揚げの外側は歯応えがありながらも、中身はソフトな食感であることが味わい深いものにしていると感じたのだった。
オオヤマトカマスの食べ方は、どちらかと言えば鮮度の良いものをそのまま刺身で食べるより、その身質が柔らかく水分が多いという特徴を踏まえ、昆布締めの炙りや竜田揚げなどのように、少し手を加えた料理が向いているようだと思った。
アカカマスとの比較
ここまで記してきたオオヤマトカマスはアオカマスと呼ばれているヤマトカマスは別種として区分けされているが、本当に大きいか小さいかの違いだけで同種ではないのかと言えるほど良く似ていて、筆者としてはオオヤマトカマスは「大アオカマス」と称してもいいのではないかと思っている。
いっぽう、通常魚売場でカマスと聞けば「アカ?アオ?どっち・・・?」というやり取りから、商品化方法や売価などが決められていくはずである。一般的に、標準和名アカカマスは本カマスと呼ばれ、アオカマスは標準和名ヤマトカマスであり、別名でミズカマスやクロカマスなどとも呼称されていて、魚市場での扱いについてはアカの方がアオよりも高く取り引きされているのはご存じの通りである。
しかし魚売場において、アカカマスがアオカマスよりも特別に高い売価をつけられて売られているかと言えば、必ずしもそうではないような現実がある。実際のところ、アカもアオも単に「カマス」という商品名で明確に区別されずに売られていることも多いような気がする。魚売場ではお客様にアカカマスの価値を十分に伝えきれないでいて、例えば以下の画像のように、アカカマスはアオカマスと同じような商品化方法で扱われているというのが実状ではないかと思われる。
そこで今回は、その比較という意味でアカカマスを生食の鮨と刺身にすることで、アオカマスとの違いを記してみることにした。
アカカマスの鮨と刺身の刺身作業工程(上記と同じような解体工程は省略) | |
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1,アカカマスの重量は229g。 | 4,魚体は大きくないので、内引きで皮を引く。 |
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2,三枚におろすとアオカマスよりも身質は固く、身割れも少なかった。 | 5,下身も内引きで皮を引く。 |
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3,魚体が細長いことから、半身の形で商品化することになり、小骨抜きは必須の作業である。 | 6,皮を引いた状態。 |
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下身を5カンの鮨ダネにしたアカカマスにぎり鮨 | |
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上身を半身のまま平造りにして、二山に盛りつけたアカカマス刺身 |
アカとアオはマダイとレンコダイ
完成したアカカマスの鮨と刺身を食してみて感じたのは、アオカマスとは別物であるという印象だった。アカカマスは身質がしっかりしていて、アオカマスほど柔らかくはなく、水分もミズカマスと称されるアオカマスのように多くはない。
カマス類に向いた料理と言えば、真っ先に挙げられるのは塩焼きだと思われるが、これはレンコダイなどと同じように、身質の水分の多さを活かした美味しい食べ方ということだろう。このことは間違いなくアオカマスには適切だと思われるが、アカカマスは果たしてどうなのだろう。
残念ながら言い訳になってしまうが、筆者自身も「アカもアオも同じような扱いをしてきた」というこれまでの事実があり、その点ではあまり偉そうなことを言えないのである。だが、こうやって今回オオヤマトカマスとアカカマスを比較する機会に恵まれ、違う角度からこれらを見てみたことによって新たな発見があったのである。
他の魚で喩えてみると、マダイとレンコダイの違いに近いものがあると言える。アカカマスがマダイで、アオカマスがレンコダイである。読者の皆さん方は、たぶんマダイが刺身や鮨などの生食用を主体とすれば、レンコダイは塩焼きなどを想定した商品化をするというように、これらは基本的に違う方向性で料理提案や商品化をされていると思うが、アカカマスとアオカマスも似たような扱いをしたら良いのではないかと考える。
基本的にアカカマスもアオカマスも比較的こなれた価格で流通しており、秋の季節になると安定的に入荷が見込まれ、魚売場でも扱う機会が増える魚の一つである。今年は昨年までとは様変わりして生サンマの漁獲が増大し、そちらの方に目がいっているかもしれないが、カマスも美味しい魚なのでこの季節に見逃さないでほしいものである。
生サンマだけでなく、スルメイカの漁獲が大きく回復しつつあり、ヨコワ(本マグロ)にいたっては増えすぎていて、漁獲枠との絡みで定置網漁業者を困らせる厄介者のようになっているとのことだ。今年の全国の9月度水産部門は生サンマがグイグイと売上を引っ張っているようであり、ヨコワもスルメイカも売上に貢献するとなると、2025年下期の水産部門は相当良い数字が期待できるのではないだろうか。
そういう追い風の環境の中で、今月号で紹介したカマス類の販売も忘れないでほしいものである。
水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 7年 10月 1日