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令和 3年 5月号  209

モンゴウイカ

モンゴウイカ商品


モンゴウイカの漁獲がピークを迎える5月

5月はモンゴウイカが産卵のために水深10m以内の沿岸浅瀬に集まってくることから漁獲しやすくなり、この時期は年間で一番多く漁獲される季節となる。

モンゴウイカの標準和名はカミナリイカだが、筆者はこの名称をこれまで一度も使ったことがなく、自分的にはモンゴウイカの名称が一番ピッタリとくる。このモンゴウイカという名称は今や水産業界ではヨーロッパコウイカなどの輸入の大型コウイカのことを指すことが多くなっているということなのだが、本家本元は日本近海から東南アジアの海で獲れる以下画像の大型種を指すのである。

モンゴウイカ

魚市場に水揚げされてから4〜5時間ほどしか経過していない、鮮度の良い2kgの大型モンゴウイカ

 

モンゴウイカという名称は、下画像で一部を強調している丸い紋が表面にあることからきている。この模様はコーヒー豆とか唇のようだとも表現されることもあり、英名ではKisslipとも呼ばれることもあり、学術的には眼状紋と表現されているので、その喩えとしては目のようだということだろう。

モンゴウイカ

これに対して、形が良く似ているけれど紋がないコウイカは以下の画像である。

コウイカ

イカの体表には無数の色素細胞が散在しているので、このように体色を変化させることができる。また、2本の長い触腕は、目の下のポケットに畳まれて隠され、見えなくなっている状態である。

 

上の二つの画像を比較すれば、その違いは明確に判断することが出来ると思う。だが、さらにその違いがよく分からなくて混乱するのが、以下画像の南西諸島に生息する大型イカのコブシメである。

イカの血色素には銅イオンが含まれているので青い血であり、このように青っぽく見えることがある。

 

コブシメは南西諸島でクブシミと呼ばれ、モンゴウイカ、コウイカと同じコウイカ目コウイカ科コウイカ属の一種である。筆者が南西諸島や沖縄での経験から知る限りでは、大型のモンゴウイカよりも更に大きくなり2sや3sは珍しくなく、筆者自身5kg以上の大きさを解体したこともある。


イカの分類とその資源

以上の記述で、モンゴウイカと似ているコウイカ、コブシメとの大体の違いは理解できたのではないかと思うけれど、そもそも日本人が好んで食べているイカにはどんな種類があり、どういう風に区別されているのか、そのあたりを少し整理してみよう。

イカは動物の分類学で軟体動物門に属し、脊椎動物門に属している骨のある魚類、節足動物門に属すエビやカニなどとは違う別の大きなカテゴリーである。軟体動物門には二枚貝や巻き貝あり、これが大勢を占める主流なのだが、イカが貝と同じカテゴリーに属していることは不思議なことだと思えるかもしれない。しかし、同じ似たもの同士という証拠があり、それはイカの舟と呼ばれる石灰質や透明な甲は学術的に「貝殻」であるということから立証できるのである。

またイカはタコと同じく頭足網に分類されているが、これは頭から足が生えているという意味なのである。一般的なイカのイメージは下のイラストのようなものだと思うが、これは動物学的にはまったく逆さまに描かれていることになるのだ。正確にはイカは頭の前に足があるので、分類として「頭足網」に入ることになるのだ。

だから、イカを描いたり写真に撮ったりする時は、このイラストのような形は間違いであり、正しくは上に掲載しているイカの画像のように、足を上に向けて配置しなければならないのである。

また、ついでに足のことに関して補足すると、皆さんは「イカの足は何本?タコの足は何本?」と質問されて、どう答えるだろう。多くの人は「このイラストのような足6本は間違いで、10本が正しく、タコは8本だ」と答える人が多いのではないだろうか。

ところが、正しくは「イカもタコも8本」なのである。実はタコもイカも第一から第四が左右に一対あって合計8本であり、イカの場合は2本の長い触腕がプラスされて合わせて10本となる。さらに我々が普通に足と称している部分は動物学的に正しく言えば「腕」であり、イカもタコも第一腕から第四腕が一対あり、イカは「足10本ではなく、腕10本」が正しい表現となるのである。

その腕10本のイカ類はどのような種類があり、主に日本人が食べているのはどんなものかを図式すると以下のようになる。

イカ類は大別すると、このようにコウイカ目(英名 cuttlefish)とツツイカ目(英名 squid)に分けられ、世界の海に450種類ほど生息しているらしいが、日本人が加工用や生鮮用を含めて食用として食べているのは、ほぼこの17種類に含まれていると考えて良いであろう。

世界の海に生息しているイカの資源量は、推計に依れば最低2,000万dから最高3億dの間ほどだとされ、ほぼ1.5億d前後だと見て良いだろう。FAO 国際連合食糧農業機関 ( Food and Agriculture Organization of the United Nations )の統計によると、現在の漁法、利用法によるイカ資源活用は200万dほどであり、日本はその内の75万dを消費しているとのことである。その中で、モンゴウイカは全世界で毎年30万dほどが漁獲され、日本ではその内の3万d前後水揚げされているようである。


モンゴウイカの解体処理と副産物

モンゴウイカは群れを作らないので、主たる漁法の底引き網でも漁獲効率が悪く、先に図で示されているように年間の中で産卵時期の5月を挟んだ3ヶ月ほどに集中して漁獲されている。筆者は4月下旬に、まだ透明感が残っている約2sの新鮮なモンゴウイカを手に入れて以下のように調理した。

コウイカの仲間は全てそうなのだが、とにかく「墨袋の処理」を第一に心がけなければ大変なことになってしまう。特に大型のモンゴウイカの場合は本当に慎重に事を運ばなければ、まな板の上だけではなく、作業場のそこら中がイカ墨だらけという悲惨な「惨事」が待ち受けている。何を隠そう、筆者自身も過去に何度も惨事を経験しているのだ。

モンゴウイカの内臓分離作業
モンゴウイカ モンゴウイカ
1,逆手包丁で舟の両側に浅く切り口を入れる。 5,墨袋を破らないよう、指でつまんで慎重にゆっくりと内臓から引き離す。
モンゴウイカ モンゴウイカ
2.舟の端を持って抱え上げ、上に持ち上げて胴体から分離する。 6,墨袋を除去したら、食用にしない内臓を切り離す。
モンゴウイカ モンゴウイカ
3,胴体から離れるまで舟を引っ張る。 7,大きな肝臓を切り離し、ゲソ部位と分離する。
モンゴウイカ モンゴウイカ
4,舟を分離したら、次に内臓を持ち上げ、慎重に外套膜から引き離す。 8,食用にしない内臓及びゲソの部位。

 

モンゴウイカの解体は墨袋さえ破裂させなければ、とりあえず成功である。昔ヨーロッパではコウイカの墨は筆記用のインクとして使われていたので、コウイカの学名はセピア色のSepiaなのである。しかし今やインクとしての価値はないモンゴウイカのイカ墨はさっさと捨てるに越したことはないと思うのだが、現在もイタリアではイカ墨スパゲッティなどの材料として使われている。

このイカ墨には苦い思い出がある。筆者は2017年にイタリア旅行をした時、ベネチアの運河に面したレストランでイカ墨スパゲッティを注文し食したが、食後1時間もしないうちに猛烈な便意に見舞われ、地上の交通手段が徒歩しかないベネチアの街中を必死の思いで便意を我慢してホテルまで辿り着き、やっとホテルの部屋でアレを放出したのである。同行した妻もまったく同じ症状だったので、これは間違いなくイカ墨スパゲッティにやられたと判断した。そう思ったのは、何故なら沖縄でよく食べるシロイカ(アオリイカの沖縄での呼び名)のイカ墨ジューシーとは明らかに色が違って黒色が強く、多少生臭いのかなとは感じていたのだ。しかし本場イタリアのイカ墨スパゲッティはこんなものなのだろうと思いながら食べたのが大失敗だった。

ちなみに、沖縄でシロイカのイカ墨を使ったイカ墨ジューシー、イカ墨ソーメン、イカ墨汁などのイカ墨料理は、筆者はとても好みの上品な味だと感じていて、好きな沖縄料理のなかで上位にくる位置づけなのだ。だからイタリアでもイカ墨料理を楽しみにしていたのだが、イタリア滞在2日目の夜の出来事に懲りて、その後イカ墨料理は一切注文しなかった。

イカ墨という副産物のついでに、もう一つの副産物について軽く触れておこう。

モンゴウイカ

上の画像はイカチチと呼ばれる内臓物である。まるで魚の白子のような色と形をしているが、白子ではなく抱卵腺という部位である。これはイカが卵を産む時、その一つ一つ包む卵嚢(ランノウ)となる成分を分泌する役目を果たす機能を持った部位である。見た目も触った感じも中身の状態もどれもが白子のようにしか思えないので、白子だと思っている人も多いようだが、イカの白子は精包という爪楊枝のような大きさのカプセルに入っているらしいが、実は筆者もそれがどれなのか確認できていない。

このイカチチはメスに2個入っていて、今回は2個だけで料理にならないので捨ててしまったけれど、スルメイカの産卵漁場に面した長崎県対馬ではスルメイカのイカチチが「イカの子」という名称で、産地限定の人気商品として売られている。

さらに、これは副産物と表現するのはどうなのかという思いもあるゲソについて記していこう。それは、これこそがモンゴウイカの部位の中で一番食べ応えがあり美味しいのではないかと思うからである。

イカゲソ唐揚げ作業工程
モンゴウイカ モンゴウイカ
1,大きな漏斗を切り離す。 5,切り分けられた部位。
モンゴウイカ モンゴウイカ
2.口球(カラストンビ)の横に切り込みを入れる。 6,下味をつけ小麦粉片栗粉を1対1にする。
モンゴウイカ モンゴウイカ
3.口球を除去する。

7.180℃の油で揚げる。

モンゴウイカ モンゴウイカ
4,部位を一つ一つ切り分ける。 イカゲソ唐揚げが完成

 


身厚で少し固さを感じるモンゴウイカの作業ポイント

モンゴウイカの副産物はこの他に耳(ヒレ)の部分を中華炒めの材料に使用することもあるのだが、副産物のことはもうこれくらいにして、商品として一番お金になるはずの外套膜(身)の部分に移っていこう。

モンゴウイカは身は、アオリイカ以上に厚く、ヤリイカよりも固さを感じるが、スルメイカほどの固さではない。そして、旨みはアオリイカほどにはないと思われ、甘みもヤリイカほどではないけれど、スルメイカより旨みは濃いと感じる、というのが筆者のモンゴウイカの味に関する感想である。

5月は産卵の季節だからと言って、他の硬骨魚類のように栄養分が卵巣の方に移行してしまうということもないようであり、獲れ立ての生モンゴウイカは冷凍ものにはない舌に絡みつくような独特の粘り気があり、4月から6月頃までの獲れ立て生モンゴウイカは、まさに生の旬を味わうことが出来る。

その生モンゴウイカの身を以下のような工程で商品化した。

モンゴウイカの薄皮除去作業
モンゴウイカ モンゴウイカ

1,外套膜内側にある内臓と接点になる固い突起(筆者は勝手に乳首と名づけている)2ヶ所を削り取る。

4,裏表をひっくり返し、柳刃包丁で切り込んだ部分を起点として、表側の薄皮を三角形部分の方へとめくる
モンゴウイカ モンゴウイカ
2,内側の表面を乾いたタオルで擦り、隅々まで薄皮を除去する。 5,特に大型のモンゴウイカの薄皮は残すと固い食感となるので、出来るだけ余すところなく全体の薄皮を除去する。
モンゴウイカ モンゴウイカ
3,外套膜の広い面の一部を残し、柳刃包丁で浅く薄皮を残す程度の深さに斜めに切り込みを入れる。

薄皮を除去したモンゴウイカ

 

次は刺身と鮨の作業工程。

モンゴウイカの刺身と鮨の作業工程
モンゴウイカ モンゴウイカ
1,一丈(約8p)幅を目安に広い方から三角形へ、筋繊維に沿い冊取りする。 5,炙りをした表面を冷やし込み、表面を下にして、薄くそぎ造りをする。
モンゴウイカ モンゴウイカ
2,大きさを揃えるのが難しい三角形部に飾り包丁を一定間隔で浅く切り入れる 6,三角形部分の頂点を手前にし、扇を描くような形で切り進める。
モンゴウイカ モンゴウイカ
3,前の飾り包丁と交差する角度で、同じように飾り包丁を繰り返す。 モンゴウイカ炙りにぎり鮨
モンゴウイカ モンゴウイカ
4,飾り包丁をした表面にバーナーで炙りをする。

 モンゴウイカ刺身   

(引き造り、炙り、薄造り)


透明感を残した生イカの価値

さて、今月号は旬を迎えた生のモンゴウイカについてここまで記してきた。先に記したように、モンゴウイカという名称は外国から輸入されたコウイカ類一般を指すようになっているという事実は悲しいことだ。確かにイカ類は筋繊維の密度が高いために冷凍での保存に強く、冷凍してもその身質が大きく損なわれないという特徴を持っているので、特に生のイカにこだわる必要はないというのも理解できる。

しかし、生のイカだからこそ味わえる、舌に絡みつくようなネットリとした舌触りは冷凍したイカで感じることは難しいと思われる。イカ嫌いの人の多くは東南アジア方面から冷凍して輸入されたムキイカで造られた刺身や鮨の「噛み切れないほど歯に応える食感が大嫌い」との意見を耳にすることがある。モンゴウイカは本来身が厚くて固めの身質を備えているのだが、旬の時期に漁獲された生のモンゴウイカはそのことを感じさせないほど程よい食感を提供してくれる。モンゴウイカに限らず、鮮度の良い生イカはイカ嫌いの人に是非食べさせてほしいものである、イカ嫌いが変わるかもしれない。

5月前後のモンゴウイカは産卵のために岸辺の浅瀬に近寄り、雌雄異体のモンゴウイカは最後にオスとメスが絡み合いドッキングし、産卵の役目を果たして1年という短い一生を終える。その生命の営みの一画に分け入って、我々人間がその一部をいただくことは決して罪ではないだろう。

今や水産部門の作業場では、外国から輸入された冷凍ムキイカが幅をきかしていて、元の姿を保ったまままだ透明感が残っているような鮮度の良い生イカを解体し、刺身や鮨にする機会が減っている水産担当者も多くなってきているのではないかと思われる。そういう人達に今月号のモンゴウイカの記事が少しでも役に立つことがあれば幸いである。


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更新日時 令和 3年 5月 1日