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令和 3年 2月号 206
ホウボウ姿造り
魚鑑
今冬は寒さ厳しく雪が多いけれども、このような寒い季節に美味しくなる魚の一つがホウボウだ。そのホウボウのことを武井周作が江戸時代の天保2年(1831年)に著した「魚鑑(うおかがみ)」という本で記していることに冒頭で少しだけ触れてみよう。
その一節に「肉雪白、味甘美し、冬月のは上撰なり」とあり、その意味するところは「ホウボウの身は雪のように白く、味は甘くて美味しく、冬の寒い時期のホウボウは、日本酒でいえば上撰の味に匹敵する」ということになるだろう。
このように、日本では昔から今頃の季節が一番美味しいとされてきたホウボウのことを、以下に今月号で取り上げてみようと思う。
特徴溢れるその姿
ホウボウはカサゴ目コチ亜目ホウボウ科ホウボウ属に属していて、全国の浅い海の砂泥地から水深600mにもなる深い砂泥地などにも生息している。
ホウボウは画像のように特徴的な姿形をしており、魚体表面に魚鑑では「瑠璃色の円点」と表現されている斑点が無数にあり、さらに長い形状をした胸ビレは魚鑑で「表は淡赤、裏は深緑」と表現されている。
ちなみに、ホウボウと良く似た魚であるカナガシラは以下の画像である。
カナガシラはホウボウによく似ているが、魚体表面にホウボウに特徴的な「瑠璃色の円点」がないのと、胸ビレがホウボウよりも小さくて赤く、ホウボウの「表は淡赤、裏は深緑」という深緑色の部分もない。
魚鑑のホウボウの説明には「ひれしたにとげあり」と軽く流された表現もあるが、このことはとても軽く扱うことの出来ないホウボウの持つ大きな特徴の一つである。
それは上画像の丸で囲った部分だが、この役割はWIKIMEDIA COMMONSのWeb画面で発表されている以下のフリーソフトウェア動画を見るとよく理解できる。
これは葛西臨海水族園の水槽で撮影された動画のようで、ホウボウの胸ビレの一番下にある感覚器官を備えた3本の鰭条(きじょう≒ヒレのトゲ)が、カニの脚のように動いて砂の上を歩いている様子が映されている。つまりホウボウは合計6本の脚のようなものを持っていて砂の上を自由に歩くことが出来るので、ホウボウの字はアチコチと方々を歩き回る字を使って「方々」とも記されるようだ。
昔はホウボウの頭が武士の鎧兜に似ていることから、特に武士階級では縁起の良い魚として祝いの席にも使われてきたとのことであり、また目出度い魚の役割の一つとして、赤ちゃんが生まれて3ヶ月前後におこなわれる「お食い初め(箸初め)」にもマダイと同じような位置づけで使われてきたのである。カナガシラもホウボウとほぼ同じような使われ方をされるが、長崎市ではカナガシラを「金頭」と書いて金運を呼ぶ縁起物として扱い、また節分には別名「ガッツ」と称してカナガシラを煮付けや塩焼きにして食べる珍しい風習がある。
ホウボウは江戸時代まで上流階級が食べる高級魚として「君の魚」の別名があるほどであり、一般庶民階級では縁起の良い魚、目出度い魚の代表選手の一つとして知られていたのである。
ホウボウの姿造り
このようにホウボウはとても目出度い魚なので、やはりこの魚に最適な商品化の形は姿造りであろう。以下にその作業工程を二つに分けて紹介しよう。
1 ホウボウの三枚おろし作業工程 | ||
ホウボウ | 4,エラの付け根2ヶ所を切り離し、内臓を一緒に除去する。 | 8,下身側のヒレ際から包丁を入れ、背骨まで中骨の上を切り進む。 |
1,小さなウロコを掻き落とす。 | 5,血合いや内臓が残らないように洗い流し、水気を拭き取る。 | 9,頭部の方から包丁を入れ、尾ビレまで大名おろしで切り離す。 |
2,エラ膜を切り、アゴの付け根を切り離す。 | 6,背側を下にして、腹ビレの下に包丁の切り込みを入れる。 | 10,上身側も頭部の方から切り進めて、そのまま尾ビレまで切り進む。 |
3,カマの付け根から腹部を二つに分割する。 | 7,胸ビレを残したままにして、頭部を切り離す。 | 11,三枚おろしにした状態。 |
2 ホウボウの姿造り作業工程 | ||
---|---|---|
1,腹骨の下に刃先を食い込ませ、端の方へ切り進める。 | 6,皮を除去した上身。魚鑑の「肉雪白」とはこの状態のことか・・・ | 11,右上と左上にレモンの輪切りを据え、刻んだ皮を盛り付ける。 |
2,端の形を整えて腹骨を切り離す。 | 7,姿造りにするために、中骨を曲げる目的で刃元を使って、中骨の一部に切り込みを入れる。 | 12,上身を削ぎ造りで切るために、柳刃を引いて切り入れる。 |
3,下身側も腹骨の下を切り進め、腹骨を除去する。 | 8,姿造り用に台作りをした状態。 | 13,皮一枚残す程度で刃先を止め、峰を起こして切り離すことで、切り角を立てる。 |
4,上身と下身の両方の小骨を骨抜きですべて抜く。 | 9,皮を熱湯でボイルして冷やし、水分をなくしておく。 | 14,右端から順に左へと盛り付けていく。 |
5,上身と下身の皮を除去する。 | 10、ある程度水分を除去した皮を小さく刻む。 | 15,上身だけの片身分を使ったホウボウの姿造りが完成。 |
目出度い魚ホウボウの価値を最大限に高めるには、このような姿造りにするのが一番良いと思われるが、これには刺身材料として上身の半身分だけしか使っていないので、この原価は1尾の半分で計算すれば良いことになる。
同じ半身分の刺身でも、右下の薄造り刺身はとてもボリュームがあるとは言えないと思う。ホウボウは姿造りにするかしないかでこれだけのボリューム感と見た目から来る価値の違いが生じるのだから、それらの売価も大きく変えて差別化をして販売したら良いのではないかと考える。
ホウボウは日本で昔から縁起の良い魚として祝いの席に使われてきた歴史があるので、特に姿造りは目出度い魚の役割の一つとして、例えば赤ちゃんが生まれて3ヶ月前後におこなわれる「お食い初め(箸初め)」などには最適の商品としてお客様に提案してみてはどうだろう。
実は筆者は先の12月、孫のお食い初めを祝うために約2kgの天然マダイを購入し、以下の画像の鯛姿造りを作って息子と嫁をもてなした。
コロナ禍にある御時世だから、外に出て店でお祝い行事をするより、家庭内で少しでも豪華なものにしようというニーズは必ずあるはずである。だが普通の家庭の人が、筆者のように自分でこのようなものをつくることが出来る人はほとんどいないはずであり、例えば今月号の巻頭画像にあるホウボウ姿造りというのは、これまで高級魚ゆえに高値で扱われてきたホウボウも随分こなれた価格で手に入るようになっているので、お客様に値頃感のある売価で提供できるのではないかと考える。
昔は高級だった魚の価格低迷を活かす
最近ホウボウは手に入れやすい価格となってきている。
このことから、以下の画像のように開きや切身として販売することも出来るはずである。
ホウボウが高級魚として扱われていたのは昔の話で、最近は上のグラフに表示されているレベルの相場で推移しており、価格的に今ではもう高級魚とは称せないほど大衆化した魚だと言えるであろう。
ところが、名実ともに高級魚として君臨してきた魚たちが今や往事の2〜3割安は当たり前で、なかには半値に落ち込んだ価格でもなかなか売れないとの嘆きがアチコチから聞こえてくるのだが、それは言うまでもなくコロナ禍による飲食業界需要の激しい落ち込みが起因しているのである。
2020年の春頃から一気に暴落した高級魚の相場は一端僅かに回復したかに見えたけれども、今や昨年以上の激しい相場低迷状況となっていて、漁師さんは出漁を見合わせて水揚げを調整し価格を維持しようとしているけれど、それでもなかなか価格回復の兆しは期待できない状況である。
今や水産物の生産や流通にかかわる業界から頼みの綱にされているのは、スーパーの魚売場などの小売業界なのである。長い間にわたり販売の低迷に苦しんできたスーパーの水産部門は昨年の春頃から前年超えが当然といった状況となり、今もそのトレンドに大きな変化はないようだが、これも今後コロナ禍の終息が見えるか見えないかに大きく左右されるであろうことが予想される。
スーパーの魚売場は、昨年からかつてないコロナ禍の追い風に背中を押されて業績は順調であり、このような時こそ魚売場の「あるべき姿」は何なのか原点に立ち戻って見直し、ポストコロナの時になってもお客様の期待に応えられるよう、今こそしっかりと準備してほしいものである。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 3年 2月 1日