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平成28年 6月号
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125 メバル薄造り(平成26年5月号)
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118 生秋鮭焼霜刺身(平成25年10月号)
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114 イサキ姿造り(平成25年6月号)
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平成30年 1月号 169

sushi

sushi

魚屋鮨スタイル


世界はSUSHIブーム

今回は「スーパーを経営している社長さんに読んでほしい」との思いを記してみたい。

筆者はスーパーの魚売場で鮨商品をいまだに販売せず、寿司商品一般は「すべて惣菜売場に任せる」という旧態依然たる販売手法を続けている会社が日本にはまだまだ多い事実に対して「なぜ、いまだにそうなのか?」と大いなる疑問を感じているからである。

寿司という食べ物は、世界中の至る所で世界共通語 SUSHI として人気を得ていて、その勢いがとどまる事を知らないほど世界中で食されるようになっている。

これは最新のものではないが、以下のような記事も過去に発表されている。

海外のSUSHIレストランの店舗数が推定で3万を超え、本家日本の総事業所数と逆転した。世界的な健康志向の高まりや新興国での可処分所得の向上などで、世界最大のハンバーガーチェーンの店舗網に肩を並べる規模に成長した。従来の高級感に加え、低価格化やメニューの多様化が進み、すそ野が急速に広がった。テークアウトなどファストフード感覚での楽しみ方も市民権を得始めており、今後も市場は年率2桁伸長を維持しそうだ。
米国の日本食材流通業者や農水省などからの聞き取りを基に推定したところ、スシや刺身などを提供する海外の日本食レストランは昨年末までに3万店舗を上回り、マクドナルドの総店舗数(約3万3千店)に近づいたとの見方が強い。
農水省が2008年にまとめた資料によると、当時の海外の日本食レストラン店舗数は推定で2万〜2万5千店。約5年で最大5割増えた計算になる。主要市場の北米は以前の1万店規模から現在は1万5千店に膨らんだ。従来の「健康志向・高級感」に加え、客単価が1人10ドル以下のテリヤキ店などがロール(巻物)を提供、中間層や若年層にもすそ野が広がった。
メニューの多様化も成長要因の一つだ。現地のし好に合わせたフュージョン型が一段と進化し、ネタに水産物や日本食材を使わない「脱・水産物」型のスシが登場。小麦などを一切使わない「グルテンフリー」、肉や魚、乳製品を含まない完全菜食者向けの「ベガン」など、異なる宗教や食生活に配慮したメニューも豊富になった。
一方、総務省統計局経済センサスによると、日本の寿司店の事業所数は11年時点で2万8865店。06年の同局事業所・企業統計の調べに比べ1割強減った。ただ、低価格帯の回転寿司市場は依然として成長しているとの見方が強い。
海外の日本食の需要をめぐってはスシ以外にカレー、ラーメン、おにぎりなどB級グルメの知名度が向上。国内の中堅の回転寿司チェーンに加え、居酒屋、焼肉業者なども新たな外食需要の掘り起こしに向け海外進出を加速している。

2012年10月17日みなと新聞の記事より

 

上の記事で総務省統計局の事業所・企業統計の調べによると「日本の寿司店は06年に比べ1割強減った」と記されているけれど、これは地方を中心に家業として家族経営していた寿司屋さんが減っているのであって、寿司の売上規模総体が減っているわけではないと推測される。

その後2017年時点で、外務省が調査し農林水産省が推計した海外の寿司を含む日本レストランの数は約11万8,000店となり、2015年比で33%増となっている。最多のアジア地域で53%増の約7万店、中東は58%増の950店、中南米では48%増の4,600店となり、これまで和食店が少なかった地域で大きく伸び、その世界的な和食ブームを牽引する中心的存在となっているのは SUSHI なのである。


日本における惣菜寿司の現状

日本でも寿司の人気は同じようなもので、老若男女そして年齢を問わずあらゆる世代から支持されていることは言うまでもないが、例えば小売業としてのスーパーがその流れに乗って惣菜部門で寿司の売上を大きく伸ばしているかと言えば、必ずしもそうではないようである。

日本のスーパーが寿司商品の売上をそのニーズの高まりほど順調に伸ばせていない要因というのは、その中心となるべき「にぎり寿司をお客様が求めるレベルに応じた魅力的な商品として提供できていない」からと言うより、正確に言えば「構造的に出来ない」からである。

昔から歴史あるスーパーで寿司というのは、お弁当やおにぎりと同列の米飯商品として巻き寿司、イナリ寿司、ちらし寿司などを元々惣菜部門で扱ってきたのだが、近年になって惣菜部門でも扱うようになってきた「にぎり寿司」というのがどんなものかは説明をするまでもなく、普通は外部メーカーなどで作られた下左画像のような冷凍のネタを真空の容器から取り出して、機械で作られたシャリ玉の上に単に乗せただけのものであり、下右画像のそれは言わば「寿司屋さんのにぎり寿司ではなく、惣菜部門の乗せ寿司」が基本となっているのである。

寿司  寿司

スーパー惣菜部門のにぎり寿司というのは、このような作業をパートさんと呼ばれる寿司の未熟練者が、他の米飯商品と同じ感覚で「画像や工程が記されたマニュアル」にしたがって、ネタをシャリに乗せていくのが普通の姿なのである。パートさんには基本的に何の権限もなく単に指示された事を黙々とこなしていくだけだから、一度規格化された商品がそのまま毎日同じように売場に出されるだけとなっている。

時々は特売で数量が増加したり、節分やひな祭り、盆や正月などの行事催事の時にイレギュラーな商品が企画されるけれども、基本的に仕入れ面で冷凍ネタが主体となる形から大きく外れることはない。

そんな解凍されたネタをシャリに乗せただけの「にぎり寿司と呼ばれている乗せ寿司」が、今時の舌の肥えたお客様に受け入れられてどんどん売上を伸ばしていけるだろうか・・・。よほど何か特別な手でも打たない限り、その売上はせいぜい現状維持が関の山だろう。

そんな商品レベルに危機感を感じた一部の会社は、冷凍ネタから少しでも脱皮したいということで「冷凍されていない生魚の養殖魚」を使っているところもある。例えば下画像の惣菜にぎり寿司は筆者が惣菜部門のにぎり寿司の指導の中で作ったものなのだが、上の段に生の養殖カンパチ、生サーモン、生の養殖鯛の3種の魚を使っているので、上画像の冷凍ネタだけの商品に比較するとそれなりに魅力的な商品になっているはずである。

寿司

普通これらの生魚養殖魚の寿司ネタは、外部の下請け企業や企業内のセンターなどでカットされたネタを仕入れるのがほとんどであり、惣菜部門の作業場で生の養殖魚を自らカットしているのは極く少数に留まると推測され、少なくとも惣菜のにぎり寿司商品のレベルアップのために、生の養殖魚をインストアでカットして寿司商品に盛り付ける努力をしている店が多少存在していること自体は評価したい。

しかしそこには養殖魚での限界も垣間見えるのである。それは第一に最近の養殖魚の高止まりした仕入れ価格によって、魅力的な売価を維持しようとすると値入れ率が低下してしまう問題、第二に養殖魚のアイテムがそもそも上画像のような代表的な魚種に限られていることによって、売価を高く出来る付加価値商品を展開する上では限界があること、第三に冷凍ではなく生魚ということから生じる消費期限と鮮度管理、そしてそこから派生するロスと利益率の問題、など避けられない課題がどうしても出てくるのである。

つまり惣菜部門でのにぎり寿司の強化は、以上に記してきたようなことから構造的に無理な面が多々あり、惣菜にぎり寿司の売上を今以上に伸ばしていくことにはどうしても限界があることに早く気づくべきなのだが、不思議なことに日本のスーパーの経営者の多くは「にぎり寿司を惣菜部門で販売していてはこの先売上に限界がある」ことに気づかないのか、それとも現状のにぎり寿司の販売スタイルに何らの疑問も感じていない、としか思えない現象が今の日本全国各地のスーパーにはまだまだたくさんあるのだ。


魚屋鮨

日本に限らず世界の老若男女に支持されている SUSHI という食べ物は、巻き寿司(ROLL SUSHI)、ちらし寿司など様々なバリエーションもあり、にぎり寿司という形だけではない魅力があることから、日本でも世界でもまだまだ売上げが伸びていくことは間違いないと考えられ、過去にその売上の底上げに貢献してきたトップバッターとして最初に挙げなければならいのは回転寿司であろう。

回転寿司のルーツは昭和33年(1958年)4月に東大阪市にオープンした元禄産業(株)の「廻る元禄寿司1号店」だ。元禄産業(株)の創設者であり、回転寿司の生みの親、故・白石義明氏がビール工場の製造に使われているベルトコンベアにヒントを得て「旋回式食事台」を開発した。それまで高級な食べ物の代名詞であった寿司を手軽な大衆食にして今日の回転寿司業界隆盛の基礎を築き、寿司の大衆化路線に多大な貢献してきた。

そして回転寿司の次に来るのは「魚屋さんの鮨」であろう。魚屋さんの鮨はどこが最初に起ち上げたのか、歴史的な位置づけはもう一つ明確ではないのだが、筆者が少しだけ調べたところでは東京都立川市の株式会社魚力が平成2年10月に江戸前寿司のテイクアウト販売を開始したと社史に記されていて、それ以外に明確な記述のあるところは今のところ見つからないので、ここではとりあえず「魚力」が魚屋鮨を日本で最初に開始したとしておこう。

さて読者の方は、これまでの記述で「寿司」の文字を使ってきていたのに、急に魚屋鮨という言葉が出てきて「鮨」の単語を使い始めたことを変に思われたかもしれない。これは筆者が魚屋の場合は「旨い魚」と表現されている「鮨」の文字を使うべきだとの思い込みがあり、筆者の水産指導関係先では「鮨」の使用を強く勧めているし、スーパー業界のディフェクトスタンダード業界紙である月刊食品商業の誌面で発表する筆者の記事には「寿司ではなく鮨の文字の使用」を編集者にはお願いしている。

このように「鮨」の文字にこだわる理由は、過去に筆者は紙版での FISH FOOD TIMES を平成3年の1月から編集人として発行に関わり、結局その紙版は平成7年11月に廃刊の憂き目となったのだが、 平成6年8月の第43号で「魚屋鮨」という言葉を筆者は初めて使ったのだ。実はこの「魚屋鮨」という言葉は、その時に筆者が自分で考えてつくり出した造語なのである。

鮨

上記したように魚屋鮨は魚力という魚専門店が、商品の一つとしてパックされた刺身のような容器に入れられた鮨の販売を始め、これが好評だったことから他の魚専門店でも同じように魚屋鮨に取り組むようになって、今や魚屋企業と呼ばれる企業の売上の中で売上の大きな柱に成長していると推測されるが、一方でやはり同じようなテイクアウトの寿司で一時代を築いた「小僧寿し」のことにも、ここで触れないわけにはいかないだろう。

小僧寿しは1964年創業の「スーパー寿司・鮨桝」が前身であり、1970年にチェーン展開を始めた小僧寿し本部は、1980年代に直営店、フランチャイズ加盟店合わせて2000店舗を数え、1991年にはチェーン全体の売上高が1000億円を超え、1990年代前半は営業利益8億円前後を稼ぎ出していたのだが、2000年代に入ると販売競争に負けて赤字体質に陥ってしまい、その後業務提携や資本提携と解消などを度重ね、現在は会社存続が疑われるほどの厳しい状況となっているようなのである。

筆者はその小僧寿しの大規模フランチャイジーの一つだったスーパーに一時期水産部門の指導で関わったことがあるけれど、内部から見たその製造と販売の手法は惣菜部門のにぎり寿司と何ら変わることはなかったと記憶しており、違うのはスーパーの店内ではなく独立したフランチャイズ小型店が多かっただけのことである。

小僧寿しが競争に負けて風前の灯火の状態となってしまっている要因は、冷凍ネタやセンター機能を活用した商品内容では惣菜寿司とほぼ同じでも、着実に店舗数を増やし続けるスーパーにシェアを奪われ、また店舗での商品購入スタイルの面では、利便性で宅配寿司チェーンに足元を掬われてきたようである。そしてその大勢の原因としては「回転寿司チェーンの台頭」と「魚屋企業による魚屋鮨の着実な業容拡大」に、基本的な商品内容の違いを突きつけられて勢いを削がれたことにあるのではないかと思われる。


魚屋鮨に取り組む姿勢とその一例

ここでは回転寿司チェーンのことはさておいて、魚屋鮨のメリットについて記してみよう。

かつてスーパーの経営者が米飯の一環として「にぎり寿司」をスタートした経緯は、同じ酢飯を使う商品なのだからとの発想だったと思われるが、その上に乗せるネタをどう手当するかという時に、便利なカットされた冷凍ネタがあるから、これを使えば何ら問題はないということになったのだろうと推測され、大半のスーパー経営者は同じように考えたことで全国各地に今のような「にぎり寿司も惣菜部門で販売するのが当たり前」という状況が生まれたのだと思われる。

一方「魚屋鮨」の方は 、魚を主体的な原料として使う「にぎり鮨」というのは、魚力のような魚屋企業が販売している刺身の薄造りをシャリ玉の上に乗せたものなのだから、酢飯を作業場に導入して薄造り刺身と合体すれば、テイクアウトのにぎり鮨を販売出来るようになると考えて売場で展開したところ、生魚を使用したネタの新鮮さや冷凍ネタにはない豊富な種類などが評価されて人気となり、今では魚屋企業の売上の中で大きな柱を形成するまでになっていると推測できる。

さて皆さんは、上に記したどちらの方が今後お客様に支持される販売形態として残っていくと思われるだろうか。

基本的に小僧寿しと同じ仕組みで運営している惣菜のにぎり寿司は、たぶん安価で購入しやすいベース商品としてしぶとく生き残っていくかもしれないが、売上を今後も拡大し続けられるかという意味では大きな期待は持てないと考えるべきであり、やはり「魚屋鮨」こそが将来的に大きな展望を描けるであろうと考えるのが妥当な結論であり、その勝機を見出せるような手を打つことが経営者としては至極まともな判断だと思われるのだ。

ところが中には「魚屋さんの寿司」を過去に手がけたけれども失敗したので、今はにぎり寿司も惣菜に任せていると応えられる社長さんもいらっしゃるのではないかと思う。しかしそれはもしかすると、魚屋さんの寿司とは名ばかりの冷凍ネタで惣菜部門のにぎり寿司とまったく同じような感覚で運営をしていたり、もしくは水産部門の担当者が余計な仕事を増やされたことには関わりたくないとばかりに、寿司の作業には何も関与せず少数のパートさんに任せっきりで、何の魅力もない魚屋さんの寿司売場になっていたのが原因ではないだろうか。

つまり魚屋の鮨を成功させようと思えば、惣菜部門がやろうとしても難しいと感じてしまうような鮨が並んでいる「本気で本格的な魚屋鮨」をやるしかないのである。

鮨

 

魚屋鮨に本気で取り組めばどんな結果が待ち受けているのか、経営者なら聞きたいところだと思うので、筆者の現在の指導先の例を、会社名を伏せて二つだけ紹介しよう。

一つは二桁の店舗数を持つレギュラーチェーン企業のA社、もう一つは単独店舗のB社としておこう。

A社は全店11月度水産部門売上高の中で鮨商品群売上構成比は合計22.3%、B社は同じく鮨商品群の売上構成比30.1%となっていて、両社とも鮨商品群が水産部門の中で売上高トップの位置付けとなっている。

A社は筆者が水産部門の指導に入って平成30年に11年目となり、残念ながら10年前の正確な数値を持ってはいないけれど、当時水産部門の中で鮨商品は1店舗が細々とやっている状態だったので、全店の中で鮨の売上はほぼゼロに近い数字だったと記憶している。そして現在全店を平均すると鮨商品売上構成比20%を割ることは有り得ず、鮨商品の売上を高められる行事催事が存在しない11月度の22.3%の実績が、年間で一番低い売上構成比だとみて良いだろう。

10年前、A社の社内における水産部門構成比は5〜6%程度だったが、今では2017年度全店ベースの水産部門売上構成比は上期累計実績で10.07%になっている。社内で水産部門売上構成比をこれだけ持ち上げることができた最大の要因は、何と言っても鮨商品群と刺身商品群の着実な売上増にあり、中でも鮨商品群は全店でほぼゼロの売上だったのが、最低でも22%以上となるトップの売上構成比にまで伸びているのだから、鮨商品は水産部門売上高伸長の最大の貢献商品群なのである。

次にB社は、6年前にテナントの魚屋さんの撤退が決定し、それに伴って水産部門を直営に切り替えることになり、筆者はその立ち上げ前から作業場の設計や商品化マニュアルを含めたコンサルティング指導役として声をかけていただいた。その直営水産部門は丸5年を経過した現在、立ち上げ当初のちょうど2倍の売上にまで伸長している。

B社水産部門の中で、鮨商品群の売上構成比は上記したように平均30%を超えているのだが、この数字は嘘でもなんでもなく本当の数値である。歴史的にほんの僅か5年しか経っていない魚売場なのだが、この店の特徴としてまず挙げられるのが「鮨や刺身の鉢盛り特注が入らない日はない」ことだろう。

こんなことを記すと「そんなバカな、スーパーの魚屋では有り得ない!」と言下に否定されるかもしれないが、これも又筆者は嘘を言うつもりは全くなく、特に何の行事もない普通の日でも平均すると3,000円から4,000円の鉢盛りの注文が、ほぼ毎日のようにお客様から電話で入っているのは事実なのだから信用してもらうしかない。

鮨

 

ついでにA社の場合の鮨や刺身の特注鉢盛りのことに言及しておくと、最初は3,000円レベルから恐る恐るスタートした鮨と刺身の鉢盛りは、今では7,000円から8,000円のものが各店で特に珍しくもなく次々に注文が入るようになっており、盆や正月は年々その売上を伸ばし続けていて、一体どこまで鉢盛り関係の売上が伸びるのか先が見えないほど、鉢盛り関係は他社を圧倒して差別化できる販売状況となっているのも本当のことである。


商圏を超えてお客様を呼べる魚屋鮨

このA社とB社は、利益率で言えば必ずしも高いレベルを維持しているわけではなく、まあ平均的なものでしかないけれど、両社に共通して言えることは「お客様の魚売場に対する評価はとても高く、特に鮨商品の評価は非常に高いものがあり、このことで魚売場は商圏を超えた遠くの地域から鮨の魅力でお客様を呼び込める店の差別化部門になっている」のである。

またもう一つ両社に共通していることは、鮨と刺身という技術とセンスで差別化できる商品の販売力があるので、仕入れ価格が高くて手を出しにくいことが多い白身系の高級鮮魚であっても、あまり躊躇することなく積極的に仕入れることができるのだ。このように両社ではそれらの高級魚を鮨や刺身という商品に変えて「お金」にする術を持っていることも大きな特徴として挙げられる。

さらに普通の魚売場は仕入れに尻込みする、仕入れ価格が最低でも3,000円〜4,000円/kgほどの生本マグロについても、両社は共に養殖ものではあるけれども通常の仕入れとして生本マグロを1尾単位で購入し、以下の画像のような養殖生本マグロの使用を前提とした鮨や刺身を、定番商品として展開しているのも両社に共通している点だ。

鮨  鮨

 

一方で下の画像は巻頭に載せている魚屋鮨画像だが、このように旬の鮮魚を活用して鮨専門店にも負けないほどの美味しい「季節の旬魚の鮨盛り合わせ」などを展開できる力も持っている。

鮨

季節の旬魚の鮨盛り合わせ
上段 本鮪中トロ、ヒラス、本カツオ、真鯛湯霜、天然鯛
下段 水イカ、マアジ、赤ウニ、サザエ

 


水産部門の利益構造を変え得る魚屋鮨のメリット

ここでスーパー関係者に問うてみたいのだが、魚売場で一つのアイテムを様々なSKUに展開する場合と、SKUは極力最小限に留める場合とを比較したら、どちらが値入れミックスに有効な手法と考えるだろうか。もちろんその答えは、手間はかかるけれども出来るだけSKUを拡大する方が値入れミックスをするには有利である、ということは敢えて説明するまでもないだろう。

例えば、この何年か全国各地での水揚げが好調で資源回復が顕著な傾向にあり、相場も弱含んでいる鮮魚のマイワシは、皆さんの店の魚売場でどのような商品としてSKU展開されているだろう。まさか、丸のままパックしてラベルをつけて「お客様、ハイどうぞ」なんかで済ませてはいないだろうとは思いたいが、巻頭の画像にもある以下のような魚屋鮨は品揃えされているだろうか。

 

鮨

マイワシたっぷり鮨盛り合わせ
上段 マイワシ5カン
下段 生マグロ、マダイ、生サーモン、ブリ、本カツオ

 

今の水産部門が扱う魚の中で、筆者が一番面白い魚と見ているのはマイワシである。過去に FISH FOOD TIMESではマイワシのことについて、約2年前の No.142 マイワシづくし(刺身&鮨) 平成27年10月号 で、それまで何年間かの数値データから判断し、以下の文章のように「マイワシはこれから面白い存在になる」と予測していた。マイワシのことは月刊食品商業誌2016年4月号でも、同じく以下のように記しているのでご参照あれ。

これから先マイワシの漁獲が増え続けるかどうか予断を許すところではないが、例えばサンマについてはこれまで何年間かの動静から見ると先行きには不安の方が大きいけれども、マイワシとサバについてはサンマとは逆にこの先の漁獲は少し明るい状況もほの見えているのではないかと感じるものもある。

東北大学名誉教授の川崎健氏が「レジーム・シフト(基本構造の転換)」という考え方を1985年に発表したが、これは「気候や海洋環境が数十年単位で変化する為、魚の数も周期的に変動する」という仮説だ。その後様々な研究によって、アリューシャン列島付近で冬に発生する低気圧の活動の弱まりというのが、イワシの増減の環境要因の正体である事が判ってきたのだが、それは低気圧の活動が弱まると海水の温度が上がり、餌のプランクトンが減少してイワシの稚魚の育成が悪くなり、温暖な海域に生息するカツオやマグロが北上し、稚魚が彼らの餌になってしまうからだということだ。

煽ることの好きなマスコミが、この地球上から消えてしまうのではないかとも表現した「幻の魚イワシ」は数十年単位どころではなくて約100年周期で大きな増減を繰り返すという説もあり、海の牧草とも呼ばれていた多獲性魚種マイワシが今後どうなっていくのか興味あるところである。少なくとも現時点で言えることは「こんなに美味しいマイワシという魚を卑しい下級魚として蔑むべきではない」ということである。

今年のサンマの不漁というタイミングを捉えると、マイワシを見直すには良い機会かもしれない。

 

そして今や2年前に記した予言通りの状況となりつつあるのだが、その時マイワシを活用した各種商品化方法を紹介し、マイワシという安価な魚を鮨や刺身など様々なSKUに商品展開することによって値入ミックスをおこない、結果として大きな利益に結びつけられることを伝えるのが狙いだった。

例えばその考えの線上にある、上画像の「マイワシたっぷり鮨盛り合わせ」の10カン入りを500円前後の売価にした場合、最近のマイワシ相場から計算すると値入率はほぼ50%位確保できるはずで、お客様は1カン50円前後でコスパ感たっぷりの新鮮で美味しい魚屋鮨を賞味できて、しかも売り手側も値入率面で充分なものがあり、それは言わば「ウィン・ウィンの関係」となるのである。

このように「SKU商品展開の値入ミックスをフルに活かせるのが魚屋鮨の醍醐味」なのである。

しかしこのことについても「こういうことは水産部門で前処理したものを惣菜部門に部門移動すれば簡単に出来る」と答えられる経営者の方もいらっしゃるが、それは「部門別損益の仕組みがある限り、構造的に無理があるし、決して良好な結果はもたらさない」と断言できる。

よく考えてみてほしい。水産部門担当者はマイワシのような安価な魚に時間と労力を費やして、それを惣菜部門に「ハイどうぞ使ってください」と渡してくれるだろうか、そんな「いいとこ取り」をされるだけで作業に手間のかかる下請けのようなことをするくらいだったら、マイワシを刺身にしたり開きものや皮無しの刺身用短冊の商品として販売する方を選び、惣菜部門に渡すだけの数量は仕入れていないと断ることになるだけである。

水産部門の生魚の仕事は「生魚に包丁を入れたら、その入れた分だけ値入率がアップする」ということを誰でも知っているから、マイワシのように相場の安い生魚に手間をかけた分は、そのまま自分達の利益に結びつけたいと考えるのが普通なのである。そのような水産部門のまっとうな心理を読むことが出来る経営者ならば「そういうことであれば、そのマイワシを鮨の商品化までやって売ってみろ」と、大局的な判断をくだすのではないかと考える。

最近の水産部門は全国どこのスーパーでも売上げが伸び悩んでいて、水産担当者は肩身の狭い思いをしているとよく聞くけれども、上記したように筆者が関係する企業で魚屋鮨の商品販売に成功している会社は月による多少のブレはあるとしても、年間にすると今も着実に売上は伸び続けているのである。

鮨というのは、魚に深く関係しながらこれからまだまだ大きな伸び代を残していると思われる分野であり、水産部門が「刺身商品に続く即食商品」として魚屋鮨に本気で取り組むことになれば、現状の惣菜部門で売り上げているにぎり寿司と比較すれば、その何倍もの売上にすることが可能なのだ。

そしてもしそうなれば、水産部門は魚屋鮨というSKUの拡がりの手段を得て、トータル値入率をアップさせることも可能となり、荒利益率が改善することも期待されるのである。

いまだに惣菜部門でにぎり寿司の売上げ改善をしようと策を練っておられる社長さん、筆者がここまで述べてきたことをどのように受け止められたであろうか。もうそろそろ、その限界に気づいてほしい。にぎり寿司の惣菜部門頼りのやり方をこれからもズルズル続けていたら、その問題に早く気づいて手を打った会社に鮨商品のシェアをどんどん奪われていってしまうことになるだろう。

魚屋鮨のメリットを理解し、それを実現させる方向へと早く舵を取るべきである。

さて、まだまだ魚屋鮨について書きたいことはたくさんあるのだが、そろそろ今月号も終わりにしたいと思う。今月号は日本でスーパーを経営されているトップの方々を読者に想定して記してきたのだが、必ずしもトップの社長さんが読んでくれていなくても、もしその立場として多少は社長に箴言できるような人が今月号を読んでくれて、新年や新年度に向けて会社の方向性を討議する会議の席上などで、上記してきた内容を少しでも参考にしてくれたら嬉しい。

今年も毎月コツコツと魚の情報発信を続けていく所存であり、ご愛読のほどをよろしくどうぞ。


水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新してきたこのホームページへの

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更新日時 平成30年 1月 1日