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平成24年 9月号 No.105



コノシロ糸造り

 

 


9月の美味しい魚は「サンマ」ときたのでは、あまりにも常識的で面白くもない。

この季節はサンマの他にも色々な魚が美味しくなってくる。

サンマ以外の美味しい魚のことを、お客様にきっちりと伝えることなく、魚が売れないのを景気や魚離れ現象のせいにしている売り手には歯痒いものがある。

例えばサンマは、アジ、サバ、イワシ、イカを含めて五大魚種と呼ばれるとのことで、魚売場はこの五大魚種プラス地場魚や高級魚を含めて、15アイテムもあれば、魚売場の丸魚の品揃えは充分だ・・・との意見がある。

本当にそうだろうか・・・。いやいや、そうではないだろう・・・。

売り手自身が基本的な魚種以外のことをあまり知らず、適切な売り方が分からないので、多くの丸魚を品揃えして、値下げや廃棄につながり利益が低下するのを恐れ、色々な魚の様々な美味しさをお客様に伝えることを、屁っ放り腰で尻込みしているから、ますます日本の家庭で魚を食べるシーンがどんどん減ってきているのではないのか。


日本人が魚を食べなくなったことを、「事象」として眺め、「結果論」として解説し、「対処療法」の策しか打てない。

魚を食べなくなった人達の動きをトレンドとして捉え、そのトレンドに合わせる方策に振り回されているだけで、根本的に魚売場はどうあるべきかが分からず、将来を見据えた建設的提案が出来ない。

そこには根本的な「あるべき論」が存在しないのがそもそも問題なのだ。


「そこそこの売上とまあまあの利益」を確保しようとして、「リスクのある品揃えはしない」という事なかれ主義が、魚売場を魅力ないものにし、魚の売上が上がらず漸減傾向に追いやっているのである。

例えば、この魚はどうであろう。

 

 

その反応として「あーッ・・・、なんだァ〜、コノシロかァ〜・・・」と小馬鹿にしたような見方をしていないだろうか。

シンコでもコハダでもなくコノシロの大きさになると、普通は非常に安い価格になり、その価格で安物魚の代名詞として軽く見られることが往々にしてある。

だからと言って、シンコやコハダとなれば逆に価格は割高だし、その調理の面倒くささから、魚売場では商品としてまともに扱ってもらえないのだ。

つまりコノシロという魚は、大きくても小さくても魚売場では敬遠され、サンマのように脚光を浴びることのない実に可哀相な魚だとも言える。


考えてみればサンマとコノシロとの相違は色々とあるけれども、サンマは安くて美味しくて栄養も豊富という点だけではなく、コノシロのように小骨が多い事もなく、調理も普通は大名おろしで充分であり、売り手側にとって「実に扱いやすい優等生」なのである。

安くて美味しく料理も簡単なサンマを、お客様が歓迎する側面はもちろんなのだが、サンマは売り手側が作業的に苦労することなく、楽な商売が出来ることも、五大魚種の一つとして位置づけられている大きな理由のようなのだ。

アジ、サバ、イワシ、イカという他の五大魚種も全てその共通項に当てはまり、売り手側と買い手側の利害が一致する魚が五大魚種という存在だと言えるようだ。


コノシロという魚は買い手側のお客様が敬遠しているというよりも、売り手側の「作業効率的な間尺に合わない」との理由で疎んじられているのが真相で、お客様は五大魚種から外れたコノシロという魚だけではなく、その他の種々様々な美味しい魚を食べる選択の幅を狭められているということになる。

安くて美味しい魚があれば、五大魚種以外の魚も食べてみたい気持ちがあっても、売り手側の「間尺に合わない」との一言で切って捨てられているとすれば、このことは魚食文化を誇ってきた日本にとっては、まさに「悲劇」というものであり、こういう実態が「魚離れ」を引き起こしている一面だと言うことが出来ないだろうか。


今年のサンマは漁が遅れ気味で、型も小さく価格は比較的高い傾向にあり、売り手はサンマ商戦として決して楽な年とはなりそうもないようである。

一方下の画像は漁獲されて5〜6時間しか経過していない死後硬直状態のコノシロだが、1箱に約50尾前後入っていて、仕入れ原価1,550円という安さであり、1尾当たりの原価は約31円でしかないのだ。

 

 

しかしいくら安くても、これをそのまま丸魚でパックしただけでは売れない、というよりもお客様にそんな売り方をしてはいけないのである。

なぜならコノシロは小骨が多いので、小骨を切る処置をして提供すべきだからだ。

それは例えば以下の画像のようになる。

上の二つは皮目から骨切りをした塩焼き用とフライ用であり、下の二つは身の方から骨切りをした三枚おろしの商品である。

いずれも原価はしれたものであり、3尾分でも実に安価なレベルで収まる。

 

 

    

 

このように骨切りをして、これらが1パック200円や300円の商品ならば、売り手側は充分すぎるほどの値入率を確保しながらも、お客様は価格とボリュームのバランスの良さから喜んで購入するはずだ。

安くても美味しくなければ意味はないと反論されるかもしれないが、コノシロの漢字は「魚偏に祭」と記すように、昔は秋祭りなどで重宝されていたようで、9月頃から晩秋にかけての時期に、一番脂が乗って非常に美味しくなり、見かけによらず脂肪分の高い白身の魚として、なかなか味わいのある魚なのである。


更に付加価値を高める手法が以下の商品である。

糸造りの刺身やヌタ合えの材料としての使用を想定したもので、

 

 

身の方から細く糸切りにし、

 

てんこ盛りにして、白ゴマをトッピングする。

 

これは比較的安価なトレーで和え物用を想定し、大衆的な感覚に仕上げているが、巻頭画像は高価な見栄えの良いトレーを使い、刺身として上品な感じに仕上げている。

しかしいずれも魚の材料だけならコノシロ2尾分ほどなので安いものだ。


そして更に価値を高める手法は、コノシロではお馴染みの酢の物である。

シンコやコハダのにぎり鮨のネタにする時は酢じめにするのだが、これは小骨が酢で柔らかくなる効果を狙ったものであり、コノシロの大きさの場合もやはり酢じめすると、骨切りした後に残った小骨も柔らかくなって食べやすくなる。

 

1、三枚おろしの身を10分間ほど塩で締める。 2、塩を洗い落として、酢に20分間漬ける。
3、3ミリほどの厚さに切る。 4、塩もみをして短冊切りにした大根・人参と、適量の酢味噌を切ったコノシロと一緒に混ぜる

 

コノシロの酢味噌合え


魚が売れない、魚の売上げが下がり続けている、そして特に丸魚は売れない、だから「コノシロ」のような下魚を扱う必要はない、と切って捨てる考えの人がいる。

しかしそういう考え方がますます魚が売れる可能性を狭めることになっているのだ。

コノシロは安い魚ではあるけれど、決して不味い魚なんかではない。

比較的割安な価格で手に入るこのような魚を頭から否定するような魚売場は、同じような理由で他の魚も次々とはね除けているはずであり、そこには五大魚種しかなく、魅力ない魚売場となり、更に売上は下がり続けるだろう。

魚売場を運営する立場に都合の良い魚だけを集めた魚売場なんかクソ面白くもない。


今や全国各地で魚のカテゴリーキラーが繁栄を謳歌しているいっぽうで、大手スーパーの魚売場はどんどん魅力をなくすという際だった現象があるけれども、これはその考え方の違いによって魚売場が大きく変化してしまった結果なのである。

魚のカテゴリーキラーは五大魚種以外の品揃え努力を決して怠っていないのに反して、大手スーパーのほとんどは「売れないとする魚の品揃えを無用としてカット」している。

大手スーパーが売れないと決めつけた魚を、カテゴリーキラーがしっかり品揃えし、その品揃えがあることによって大手スーパーの魚売場を差別化しているとすれば、そのことによってお客様の魚売場を見る目が変わってくるのは当然の帰結である。

日本の中でも特に関東地区の魚売場はこの現象が顕著なかたちであらわれており、カテゴリーキラーはますます元気で、大手スーパーの魚売場は実に憐れなものだ。


魚の品揃えの中でも、特に生魚という鮮度感や質的高級感を如実に表す商品によって、圧倒的な逆差別化を受けた場合は、その地位を逆転するのは簡単ではなく、抜本的な戦略の見直しをしない限り、ますますその差は開くばかりである。

戦略的観点からコノシロのような下魚と呼ばれている可哀相な魚達をないがしろにせず、もう一度「魚種の品揃えの重要性」を見直してみることが重要なのである。

下魚どころか「雑魚(ザコ)」とまで称されて蔑まれている魚達は本当にダメなのか、売り手側が端に「魚のことを勉強不足で知らないだけ」なのではないのか、そのあたりのことをよく考えてみてほしいものである。


更新日時 平成24年 9月 1日


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