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令和 2年 4月号 196

ぼた

ボタンエビ刺身


標準和名トヤマエビのボタンエビ

トヤマエビは一般的に堂々とボタンエビの名称で流通しており、あやかりの偽名ではなく地域によってはこちらが本物のボタンエビとの名を譲らない。

ボタンエビ

下の画像が標準和名としては本物のボタンエビで、通称「本ボタンエビ」で流通している。

ボタンエビ

どちらもタラバエビ科タラバエビ属に属し、ボタンエビ(トヤマエビ)は学名 Pandalus hypsinotus、英名 Coonstripe Shrimp であり、本ボタンエビは学名 Pandalus nipponensis、英名 Botan Shrimp である。

本ボタンエビとボタンエビ(トヤマエビ)との見た目の違いは、ボタンエビの方が全体に赤い色味が濃く、腹部と脚部に暗褐色の縞模様があり、背中の中心となる頭胸甲部の正中隆起が本ボタンエビよりも高く発達しており、頭胸甲に白い斑文があるのもボタンエビの特徴である。

上のエビの部位説明に少し難しい専門用語がでてきたので、以下にエビ模式図貼り付けるので、これでそれらの意味を理解してもらいたい。

ボタンエビ

本ボタンエビは日本海側には生息せず、宮城県沖以南の東京湾や高知県土佐湾などでも、昔は漁獲されていたようだが、今では静岡県の駿河湾などでほんの少しだけしか獲れない希少種となってしまっていて、水産流通の魚種としては商流から外れたエビとなっている。ところがボタンエビの方は日本海の北側、釧路沖、オホーツク海などで漁獲され、主たる漁場である北海道の噴火湾沖では2018年度に253dが漁獲され、下のグラフにあるようにその資源量は悪くないようであり、中水準にあるとされている。

ボタンエビ

噴火湾のボタンエビは水深80〜100mの海域に生息していて、産卵後の1歳までは春夏の年2回脱皮し、1歳まで雄として成長した後、2歳の冬に75%の個体が雌に性転換する。つまり若い時はすべて雄で、ある年齢になるとほとんど雌になって子供を産み子育てに専念するのだ。この面白い不思議な現象を雄性先熟という。それから雄は冬に、雌は夏に年に1回脱皮して成長するようになり、この脱皮期に交尾し抱卵するようになる。そして下画像のような姿の抱卵期間は非常に長くて、6ヶ月から7ヶ月間にも及ぶらしい。

ボタンエビ

噴火湾のボタンエビ漁は、下の図のような方法でおこなわれている。

ボタンエビ

今はちょうど噴火湾の海老カゴ春漁の最盛期に当たり、巻頭の画像は3月下旬に噴火湾で漁獲され、鮮度の良い生の状態で送られてきたボタンエビである。新鮮なボタンエビを刺身や鮨で食べることはとても贅沢なことであり、その透明感のある身に含まれたねっとりとした甘みはやはり格別なものがある。

市場で生のボタンエビは相当な高級品として扱われており、その仕入れ価格は大きさと鮮度にも依るが、1尾は最低でも200円はするので、同じような赤い色をしたエビの一つであるアルゼンチンアカエビの10倍位はするものだと覚悟しておいた方がよい。このように高価なためにスーパーマーケットの魚売場に並ぶことはほとんどなく、料亭や高級鮨店などの業務筋が主に仕入れていく存在なのである。


南九州で赤エビとも呼ばれるタカエビ

ボタンエビは高いのでなかなか手が出ないが、同じように赤いエビが南九州の鹿児島などで漁獲され、非常に手ごろな価格で手に入るのを読者の皆さんはご存じだろうか。

毎年1月から3月までは禁漁であり、この4月から漁が解禁されて旬となるエビの名前は地方名タカエビ、標準和名はヒゲナガエビである。

タカエビ

ヒゲナガエビという名称は画像にあるように触覚の髭が非常に長いことから名づけられたようであり、熊本などでは赤い色からアカエビとも呼ばれている。このエビはクダヒゲエビ科に属し、鹿児島では生食を主体として食べられているが、なぜか価格は比較的抑えられたレベルで取引されているようであり、その理由はボタンエビなどと比べると少し水分が多めなためか、それとも全国に流通することはほとんどなく地元でしか消費されていない知名度の低さ故なのか、その理由はもう一つ理解できない。

以下の画像は、10年以上前に筆者が指導させてもらっていた企業の魚売場でのものだが、当時のタカエビはこんなに山盛りで安く売られていたが、今も価格的な販売の状況は大きく変わっていないのではないかと思われる。

タカエビ

そしてこのタカエビは以下の画像のように刺身にすると1パック380円の売価はつけられるので、その売価は低くても値入率はとんでもない高いレベルを確保できることになっていると思われる。

タカエビ

タカエビ

タカエビは鹿児島の魚売場にとって商売の上でも「美味しいエビ」であるに違いない。


以前、ボタンエビと呼ばれていたアルゼンチン赤エビ

この赤い色をしたタカエビは水深200〜600m深海の砂底に生息し深海底引き網で漁獲されるが、タカエビが属しているクダヒゲエビ科の仲間には、同じ赤い色で今や魚売場のなかで代表的なエビの一つとして数え上げられるようになったアルゼンチンアカエビ(以後はARアカエビと記す)がいる。

アカエビ

以前は今ほどARアカエビの漁獲が安定していなくて、年によって好漁と不漁を激しく繰り返していたことから、別名「オリンピックエビ」とも呼ばれていた2000年代以前の頃、実は日本国内で「ボタンエビ」という名称で販売されていた時代があったのだ。ボタンエビはタラバエビ科であり、クダヒゲエビ科のARアカエビとは別種のエビなのだが、これは昔のARアカエビが水産物商品として全く当てに出来ない存在でしかなかった時代のことであり、現在はもちろんこのような表示をされることはなくなっている。

FISH FOOD TIMESでは、平成25年12月号 No.120においてARアカエビのことを取り上げていた。あれからほぼ7年が経過し、ARアカエビを取り巻く環境もずいぶんと変化してきたので、あの時とは少し違った観点からARアカエビについて以下に記してみたい。

平成25年(2013年)と言えば、下のグラフにあるようにARアカエビがやっと安定した水揚げの基調が出来つつあった頃であり、筆者が指導先企業の水産部門にARアカエビをもっと売り込もうと提案しても、まだなかなか水産担当者は首を縦に振ってくれなかった頃のことである。

アカエビ

アルゼンチンでは昨年まで3年ほど続けて、ARアカエビの水揚量が年間で20万d以上を安定して確保できるようになり、漁獲高は7〜8年前のほぼ2〜3倍になっている。

そして日本への輸入量も、財務省貿易統計によると2019年1年間のARアカエビの輸入量は、2018年比7.8%増の1.6万dあまりだったようで、安定した輸入エビ商材として定着してきているようである。

今やARアカエビがこういう状況になっているなかで、水産部門においては欠かすことの出来ない重要な商材として見られるようになり、魚売場はこれらをフルに活かすことが求められるようになってきていると考えられる。

ARアカエビは、何と言っても刺身や鮨などに活用できる生食対応が最大の強みであり、遠く地球の裏側のアルゼンチンから輸入された冷凍エビでありながら、高価なボタンエビや新鮮な生のタカエビにも負けない力を備えていると言えるであろう。

例えば以下の画像のように、店の魚売場でよく見かけるこんな単純な売り方では、塩焼き用としての目的は達せられても、それ以上の付加価値を得ることは出来ず、ARアカエビの良さをほとんど活かしていないのだ。

アルゼンチンアカエビ

生食用として売るのであれば、刺身単品の場合せめてこんな風にでも手を加えて販売してほしい。

ARアカエビの頭なし背ワタ取り商品
アカエビ
7尾入り 8尾入り
アカエビ アカエビ
5尾入りケン盛り 6尾入りケン盛り

 

そして鮨の単品商品では、こうすると付加価値は高まる。

ARアカエビにぎり鮨
アカエビ アカエビ
5カン盛り 姿にぎり入り5カン盛り
アカエビ アカエビ
炙り7カン盛り 炙り姿入り6カン盛り

 

更にARアカエビを使った刺身盛り合わせの例は、

ARアカエビを使った刺身盛り合わせ
アカエビ アカエビ
4点盛り 5点盛り
アカエビ アカエビ
6点盛り 9点盛り

 

最後にARアカエビを使った鮨盛り合わせの場合は、こんな風にしてみよう。

ARアカエビを使った鮨盛り合わせ
アカエビ アカエビ
9カン盛り 8カン盛り
アカエビ アカエビ
9カン盛り 16カン盛り

ARアカエビをもっと活用しよう

ボタンエビのことを記していたのに、ARアカエビのことに長く触れることになってしまったけれど、図らずも脱線したのではなく、これは筆者の頭の中に最初から描かれていた意図的な流れなのである。

何故ならば、高価なボタンエビを使ってこれだけ多くの商品化は出来ることではないし、実際にこんなに数多くの種類をボタンエビでおこなったこともないのである。もしボタンエビの仕入れ価格がARアカエビ並の低いレベルで手に入るのであれば、ボタンエビを使ってまったく同じことが出来るのだから、読者の皆さんはこれらの商品の中にあるARアカエビをボタンエビだと見なしたら良いだけのことなのだ。

しかしまあ、日本で漁獲されるボタンエビがARアカエビ並の価格になることは、今後ボタンエビの資源量がよほど良い方向へ変化しない限り到底考えられないことである。何しろ噴火湾のボタンエビの資源が256dで中位水準と見られ、ARアカエビは毎年20万d以上の水揚げが続いているのだから、3桁100倍もの資源量の差があるのだ。

アルゼンチンという国は、ARアカエビがオリンピックエビと呼ばれていた頃の水揚げの不安定状況を克服して、20万d以上を毎年安定的に漁獲出来るようになっただけでなく、セミIQFと呼ばれる解凍しやすい形体で全世界に輸出し、しかも生食可能な鮮度を売りにしているというのは、画期的で素晴らしい付加価値を新たに生み出した商品だと評価できる。

ボタンエビは日本でしか獲れないエビの固有種であり、とても美味しいエビであることは間違いないが、やはり絶対量があまりに少なくて、価格としてはとても庶民的なエビとは言えないし、今後もその位置づけは当面のあいだ変わることはないだろう。

いっぽうARアカエビは価格的に決して高くはなく手頃とも言える状況が続いており、この商材をフルに活かさないというのはもったいないと考えられる。このエビにチョットだけ手を加えてやれば、格段の付加価値を生み出せるのだから、上に掲載した商品モデルを参考にして、あなたの店でも価値ある商品を提供してほしいものである。


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更新日時 令和 2年 4月 1日