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令和5年 6月号
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鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ

令和 6年 5月号  245

シロアマダイ


なかなか扱う機会がない、超が付く高級魚

シロアマダイ

過日3月中旬、4年ぶりにこの魚を扱うことができた。魚種名はシロアマダイ。様々な魚に接する機会がある筆者もこの魚を扱うのは久しぶりのことだった。高級料亭の料理人さんにとって、この魚を扱うことは珍しいことではないのかもしれないが、スーパーマーケットの魚売場にシロアマダイが陳列されることはほぼ皆無とも言える。シロアマダイは非常に高い価格で取引される「超」高級魚なので、筆者もこの魚を調理する機会はほとんどないのだ。

ちなみに、以下の画像はシロアマダイと比較すると漁獲高が少し多い分、価格も安めであり、超が付かない高級魚のアカアマダイである。

アカアマダイのことは、FISH FOOD TIMES 平成26年4月号と平成20年2月号で記していたので、こちらを参照してほしい。今月号では過去2回扱ったアカアマダイの内容と重複しないよう気をつけながら、以下にシロアマダイのことを記していきたいと思う。

巻頭画像の「シロアマダイの刺身と鮨コラボ」は、ちょうど4年前の4月に筆者が関係するスーパーの新規オープンの際、生魚対面裸売りコーナーに品揃えされた生魚の見せ筋商品の一つとして仕入れられていたものであり、その当日の昼までに筆者が商品化して魚売場に出した商品の一つである。

シロアマダイは何といっても仕入れ価格が大衆魚とは比べものにならないほど高く、10,000円/kgどころではなく30,000円/kgを超えることもあるとのことだ(ちなみに、高級魚天然トラフグは5,000円/kgから10,000円/kgほど)。シロアマダイの価格は以前からこういう驚くような相場状況だから、スーパーの魚売場で刺身や鮨に商品化しても、本来あるべき姿のまともな値入率で商品に売価をつけると、お客様から見れば「何だ、この売価は・・・、まともか?」と問われることになってしまいかねない。シロアマダイの刺身や鮨を何ら工夫もせずに単品で商品化すると、とんでもない売価をつけなければならないことになるのだ。

普通であれば、お客様が売価を見て呆れかえるかもしれないような魚の仕入れは控えるはずだが、この時は新店のオープン当日ということで、半分はお祝い気分で、ほぼ儲けなしの売価設定を魚売場の責任者は了解してくれていた。今後お客様が継続的に来店してもらえることを期待して、お客様サービスの仕掛けの一つなのだが、こういう無理矢理儲けなしにした売価でも、やはり他の魚と比べると、あまりにも「高い」のである。

そこで、コストパフォーマンスに劣る単品のシロアマダイの刺身や鮨を作るのは少量だけにして、巻頭画像のような商品を作ってボリューム感をだし付加価値を高めることにしたのだ。この他に巻頭画像と同じ考えのもとに、これも本物の陶器や磁器のように見える違うデザインのプラスチック容器を使って、以下のような商品も作ってみた。

シロアマダイ

巻頭画像とこの商品画像とは容器を変えているが、刺身と鮨の内容としてはほぼ一緒であり、湯霜の身と皮なしの身の切れ数を変え、盛りつける場所と方法も変えることで二つの違いを出している。


アマダイ類の資源と漁獲状況

シロアマダイはどうしてこんなに高いのだろうか。そもそもアカアマダイやキアマダイを含めたアマダイ類は白身の高級魚として知られているけれど、その資源と漁獲高はどうなっているのだろう。

2021年度農林水産省海面漁業調査のデータによれば、全国のアマダイ類漁獲高は1,233tであり、このうちの山口県が301tで全国1位、2位は長崎県で205t、3位は島根県116t、この上位3県で622tであり、ちょうど半分の割合を占めている。

以下の表は、FISH FOOD TIMES 平成26年4月号で紹介していたものだが、この表に示されている2011年までのアマダイ類漁獲量の時系列数字と2021年の数字を比較すると、アマダイ類の漁獲高は全体として10年前の頃と大きく変化していないように見える。

日本のアマダイ類はもともと東シナ海とその周辺地域が主漁場であり、桁違いの1万トン以上も漁獲されていた1980年代の頃は主に延縄漁船による漁がおこなわれていた。しかし、1990年代に中国の刺し網漁船や底引き網漁船が東シナ海での漁を活発化してきた影響を受け、日本のアマダイ類延縄漁は衰退していくことになり、アマダイの漁獲は急減していったのである。

このようなアマダイ類の低迷する漁獲状況を打開するために、アマダイ漁獲実績の多い山口、長崎、福岡などの県は「アカアマダイ種苗放流事業」を実施し、その他に宮崎や和歌山などの幾つかの県でもこれと同じように種苗放流を開始した。そうした漁業資源対策を打つことで、アカアマダイの資源尾数は1999年の調査開始から、その後は徐々に資源回復が見られるようになったとのことである。もし底引き網や底刺し網などの漁法によってアカアマダイがまだ小型の内からの無理な乱獲などをしなければ、アカアマダイについては将来的に持続可能となる資源レベルへと近づいてきているようである。

そして次はシロアマダイをどうするかである。漁業者にとってシロアマダイはアカアマダイよりも高い価格で販売できるので、シロアマダイの安定的な漁獲と販売を漁業者からは強く望まれているらしい。しかしシロアマダイの資源そのものが極端に少ないことから、アカアマダイでおこなったような種苗放流という手段は難しく、この方法ではなく「人工種苗生産の技術確立」の方に取り組んでいるとのことである。

山口県水産研究センターは、2019年に全国で初めてシロアマダイ種苗の大量生産に成功した。しかしシロアマダイの人工授精のためには、雌の親魚を活魚で安定して確保する必要がある。山口県は日本海側と瀬戸内海側のそれぞれにシロアマダイが分布しているが、シロアマダイは水深50〜100m程度の砂泥域に生息していて、漁獲のための水深が深いため、生きたまま漁獲することが簡単ではないという大きな課題を抱えている。

つまり、シロアマダイ種苗生産の方法としては技術的に成功したようなのだが、シロアマダイの親魚の生存数そのものが希少なため、これらを生きたままで人工授精に必要なだけ捕獲するのが難しく、このことで養殖事業として軌道に乗せる段階まで達していないようなのである。


シロアマダイを食す

アマダイ類が置かれている状況を知ると、シロアマダイがこれからも当面は超が付く高級魚として存在していくであろうことが推測できる。それでは年間の中でシロアマダイが一番多く漁獲される時期には、価格的に手に入りやすくなるかと言えば、これもまた期待する方が無理のようであり、常に安定した高価格の高原相場が続いているようなのである。

シロアマダイの生殖腺の熟度指数には、12月頃と4月頃の年間で2度のピークがみられるとのことである。このことは同一個体が2回産卵しているのか、早期と晩期に別の個体が産卵するのかは今のところ分かっていないようである。 前回も今回も筆者が取り扱ったシロアマダイは、どちらも旬とされる3月から4月にかけてのことであり、たぶん年間の中で一番美味しいタイミングで扱うことができたのではないかと思う。

ただし、今回も前回もシロアマダイの料理に関しては刺身と鮨だけである。シロアマダイの美味しさをしっかり味わうには、塩焼き、酒蒸し、吸い物など、熱を加えた料理も賞味すべきとのことなのだが、それは今回の場合、購入した量の限界という理由から取り組むことはできなかった。

また、シロアマダイはエイジングに適している魚だということである。今年の3月に扱ったシロアマダイは2尾だったけれど、シロアマダイの1尾は購入した当日に3枚におろして当日の夕食で家族と一緒に食し、残りの1尾は翌日になってお客様に提供した。その時に感じたことは、確かにシロアマダイを三枚おろしにした身は、手で触ってみると前日よりもネットリ感が出てきていて、美味しそうになっていたということである。本来エイジングを味わうのであれば、昆布締めをした方が美味しさを引き出せたのかもしれないが、あまり手を加えるよりもシロアマダイそのものの美味しさを親しいお客様に味わってもらうことを選択したのだった。

シロアマダイの刺身と鮨は皮の下に存在する旨み成分を逃さないために湯霜にして食することにした。以下に三枚おろしを終えた身を湯霜にする工程だけを画像で紹介しよう。

シロアマダイの湯霜作業工程
シロアマダイ
1,三枚おろしにした状態。
シロアマダイ
2,腹骨を除去し、小骨も抜き取り、まな板に並べる。
シロアマダイ
3,まな板を斜めに傾け、90℃前後のお湯をかけ流す。
シロアマダイ
4,皮が縮んだら、直ぐに氷水に入れて冷やす。
シロアマダイ
5,氷水には長く漬けず、直ぐに取り出して、水分を拭き取る。

 

2尾を湯霜にしたが、そのうちの1尾を片身分ずつ使って、それぞれ以下の画像のように、湯霜の刺身と鮨にした。

シロアマダイ   シロアマダイ

地域柄、筆者は昔からアカアマダイを食べる機会が多く、その味は頭に記憶されているはずだったのだが、シロアマダイは人生の中でこれまでに何度食べたのか覚えがなく、その違いを確認するように食してみた。しかし残念ながら筆者は、味覚的な意味でアカアマダイとシロアマダイの明確な区別をすることは出来なかった。

長崎県の対馬で、水揚げされて何時間しか経過していないような鮮度のアカアマダイを筆者は何度も扱ったことがあるけれど、そういう鮮度のものでも、アカアマダイの身はカッチリと固いと感じたことはなく、アカアマダイは基本的に身質は柔らかい魚であるとの思いがある。しかしシロアマダイは調理する際に、アカアマダイと比べると身質がとてもしっかりしているという印象だったので、アカアマダイと身質に関しての違いは確認できていた。

シロアマダイはアカアマダイと同じように上品な旨みを抱えている白身魚であり、もちろん赤身系の魚の脂ギトギトの味とは一線を画しているが、先に記したように味覚上でのシロアマダイとアカアマダイの明らかな違いは感じられず、その価格の違いというのは「水揚げ量の違いから来る希少性」の要因が大きいのではないかと思ったのだった。

上のシロアマダイ刺身画像は飾り包丁の切り掛けを横筋に2本入れていて、比較的厚めに切って安定感があるような形に作成している。この横筋の切り口を入れる方法は湯霜や焼き霜の刺身でよく使う技法であり、目的の一つは皮を一緒に食べるので、切れ目を入れて堅さを軽減し食べやすくすること、そして二つ目はこのほぼ真っ直ぐの切り口を入れることで、湯霜で丸く反り返った身を直線の切り口の存在でスキッと見かけよくすることである。

ところが、筆者はこの刺身を食べて「失敗した・・・」と感じたのである。

シロアマダイの刺身を食べて感じたのは、湯霜をした皮を噛み切れず、口の中に残ってしまう部分があり、食べにくい印象を与えてしまうと思ったのだ。湯霜の方法はあまり長く時間を熱湯をかけると、皮の網目模様が熱湯で煮えて残らなくなってしまうから、皮全体が反り返るのを確認して直ぐに氷水に入れている。だから湯霜の方法の問題ではないと思った。つまり、刺身を厚く切りすぎたと判断したのだ。

これは筆者の感覚的なものでしかないのだが、シロアマダイはアカアマダイに比べて身がしっかりしていると上記したけれど、そのように感じるのはシロアマダイの皮の厚みがアカアマダイのそれよりも厚いからではないかということだ。シロアマダイは皮が厚い分、湯霜をした皮は歯応えが強いので、そのことを踏まえた刺身の切り方をしなければならないということである。

前日の夜に作ったシロアマダイの刺身で、そのような食感の違和感を感じたことから、翌日お客様へ提供するシロアマダイの刺身と鮨ダネは思いっきり薄めに切ることにした。以下がその画像である。

シロアマダイ

その刺身は前日に作成したものの約三分の一、鮨ダネは半分ほどの厚さになるように切ったのである。その結果、お客様は「特に皮が口に残るような固さは感じない」と言ってくれて一安心したのだった。


シロアマダイ料理の言い訳

さて、本来ならばここらでシロアマダイに火を通した料理をいくつか紹介したいところだが、なにしろ非常に高い魚なので数多く購入するのは難しく、そもそも手に入れたくても運が良ければ・・・という条件が付くような魚なので、今回は焼いたり煮たり揚げたりの料理はしたくても出来なかったと告白しておこう。

アマダイ類の魚は柔らかくて水っぽい身質が特徴であり、レンコダイやイトヨリダイなどと生息域が似ていて、その身質も似通ったものがある。つまり、レンコダイやイトヨリダイの料理方法をアマダイ類には応用できる。しかし、上記してきたようにシロアマダイは皮の厚みがあって、身質があまり柔らかくなく固めでしっかりしているので、どちらかと言えば今月号で紹介した刺身や鮨の方に向いていると言えるであろう。

アカアマダイ、レンコダイ、イトヨリダイなどを刺身や鮨にするとなると、水分を抜いて身質を程よく硬くするために昆布締めなどにすることが推奨されるが、シロアマダイに関してはその必要はなく、他の白身系の魚と同じような手順で刺身や鮨にすることが出来る。

しかし、今回筆者が失敗した例を記したように、湯霜や焼き霜にするのであれば「薄く切る」ことは必ずおこなった方が良いだろう。もし、その刺身を薄造りではなく平造りの厚い形で提供したいならば、皮を除去する方法で刺身にすることをお勧めしたい。

いっぽう、アマダイ類を料理する時、他の魚にはほとんどない際だった特徴として、ウロコを美味しく食べることが出来ることが挙げられる。シロアマダイもウロコを付けたまま焼いたり揚げたりして食べてみたいものだが今回それは叶わなかった。

だが筆者は、実は最近アマダイ類のようにウロコを付けたまま塩焼きにした魚を食べたのだ。その魚は早くも旬に突入したアブッテカモ(福岡の地方名称)である。正式名称はスズメダイであり、この魚がカジキリという地方名称で呼ばれている対馬で購入して持ち帰り食べたのである。アマダイ類が漁獲されることの多い対馬のことだから、今度はアマダイを購入して松笠焼きにして食べてみたいと思っているが、そのアマダイは「シロ」の方を安く手に入れることが出来れば良いのだけれど、それはやはりなかなか難しいことなので「アカ」で手を打つことになる公算が大きい。

今月号の最後のまとめの章は、何とも言い訳がましくて申し訳ない。 少し中途半端な感も無きにしも非ずだが、なかには、こんな風になってしまう内容の月もあることをお許し願いたい。


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                 更新日時 令和 6年 5月 1日