SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
https://secure02.blue.shared-server.net/www.fish-food.co.jp/ |
ようこそ FISH FOOD TIMES へ
鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ
令和 5年 8月号 236
全方位鮨鉢盛り
おもてなし
過日7月中旬に、筆者は大事なお客様をおもてなしすることになった。そこで、鮨と刺身をご馳走することにして作ったのが今月号の巻頭画像である。
8月はお盆の帰省シーズンにあたり、各家庭では日頃とは違う大人数が集まるシーンも増えると考えられ、自宅での会食に備えて鮨や刺身の大型容器入り商品のニーズも高まるはずである。そういうタイミングに合わせて、昨年 令和4年8月号 No.224のFISH FOOD TIMES では「おもてなし旬鮮刺身鉢盛り」を提案していたけれど、今年の8月号では7月に作成した鮨鉢盛りを題材として利用し、「おもてなし鮨鉢盛り」をテーマにしてみたいと思う。そして特にその内容としては、「おもてなし時の鮨に使う容器の形と並べ方はどうあるべきか」を中心に考察し記述することにしたい。
鉢盛りという言葉は全国区ではない
筆者は九州福岡生まれの福岡育ちである。学生時代を含めた7年間は東京に在住していたけれど、東京から離れて以降約半世紀、居住地として福岡から離れたことはないので、謂わば地方の田舎者の一人である。そんな筆者は、九州地方で盆や正月の時に各家庭で準備される大きな容器に入れられた鮨や刺身のことを普通に鉢盛りと呼んできた。お恥ずかしいことに筆者はこの鉢盛りという言葉はてっきり全国で通用する言葉だと思い込んでいたのだが、実は全国で通用しない言葉らしいのだ。
少し調べてみると、九州では福岡・熊本・佐賀ではだいたい通用する言葉であり、長崎・大分・宮崎・鹿児島では、この言葉を使ったり使っていなかったりの地域差があるようだ。そして沖縄は、鉢盛りではなくオードブルの言葉が一般的のようだが、フランス語のHors-d'oeuvreの言葉が入ってくる以前の昔はいったい何と称していたのだろう。沖縄の宮廷料理トゥンダーブン(東道盆)の漆器で作られた赤い容器を見ると、これはオードブルではなく間違いなくウトゥイムチ(おもてなし)の鉢盛りだと筆者は思う。
九州以外では、愛媛県で鉢盛りの言葉をよく使うらしく、他に盛り鉢という言葉も使っているようであり、高知県では有名な皿鉢料理が鉢盛りと同じ位置づけになるようである。しかし、これ以外の地方では鮨や刺身の大皿盛りのことを特別な言い回しで表現していないようであり、敢えて言えば「舟盛り」は存在していても、「鉢盛り」という特別な意味合いの位置づけを表現する言葉は使われていないようである。
それにしても、鮨や刺身の大皿盛りをフランス語のHors-d'oeuvreの言葉で括ってしまうなんて、日本の食文化の一つとして全く相応しくないのではないかと筆者は思う。仕出し弁当や会席膳といった言葉が鉢盛りと同様なものになるのかと思われるが、こういう言葉は割烹や料亭などで使うのは理解できるとしても、例えば魚屋鮨でこの言葉を使うのはちょっと違うのではないかと考えてしまう。
鮨や刺身の大皿盛りのことは「鉢盛り」の言葉こそが適切であり、鉢盛りという言葉を全国の共通語にしたいとの思いがある筆者は、ある意味でこの言葉遣いの確信犯でもある。この言葉に馴染みのない人には申し訳ないけれど、以下は引き続き鉢盛りの言葉を使用して記述していきたい。
鮨鉢盛り容器の形と並べ方
一般的に鮨盛り合わせという言葉があるが、この言葉と鮨鉢盛りはどのように使い分けたら良いのだろう。鮨盛り合わせについては、1,000円以下から3,000円くらいの売価までは鮨盛り合わせの表現で問題ないと思うけれど、これが5,000円以上の売価の商品になると、同じ鮨盛り合わせという商品名で良いのかと筆者は感じてしまうのである。
3,000円から5,000円の中途半端な売価帯は、その容器の大きさや盛りつけられた内容などによって、そのどちらにも転ぶ場合がでてくるのではないかと考えられるが、とりあえず基本的にお祝いやおもてなしの場にそれを出しても恥ずかしくない、と思われる5,000円以上の売価の商品を鉢盛りと表現することにする。
例えば、この生本マグロの大トロ・中トロ・赤身が入った40カン盛りである。
この売価がいくらになるかは、企業や店によって値入率設定の考え方は違うと思うので、筆者が想定売価をつけるのは控えることにしたいが、たぶん間違いなく5,000円以上の売価にはなるだろう。
こういう商品は鮨盛り合わせという言葉の範疇ではなく「鮨鉢盛り」と表現したいのである。そして、以下の画像は、筆者の感覚からすると「鮨盛り合わせ」なのである。
つまり、上の40カン入りは二〜三人以上で食することを想定しているので鉢盛りであり、下の18カンは内容は豪華であっても、一魚種一カンが6種あり、一人前のボリュームとして商品化しているので、鮨盛り合わせなのである。
上の二つの商品の中身はあまり違いはなく、並べ方も横一列が5段なのか3段なのかだけであり、これは容器の大きさから数量に違いが出てきているけれど、基本的にこの大きさによって鮨鉢盛りと鮨盛り合わせという違いを出し、これらの商品が置かれるであろう食卓の違いを想定しているのだ。
つまり、容器が大きいか小さいか、中身の数量が多いか少ないかであり、これが以下のように60カンになっても作り方に大きな違いは出てこない。
この60カン入り鮨鉢盛りの売価は10,000円前後にならざるを得ないだろうけれど、18カン入り鮨盛り合わせと作り方に大きな違いはなく、これらは魚屋鮨の基本パターンとして多くの企業がマニュアル化している方法である。この方法であれば、あまり考えることなく機械的に鮨を順番に並べていけば良いので、主に作業を担う女性のパートさんからも「サイズは大きいけど、盛り付けはあまり難しくない」として歓迎されるはずである。
ところが、これが以下の画像のような、形が少し変化して角丸(カドマル)と呼ばれる容器に入れられると反応は少し違ってくる。このような角丸容器に入れられた66カン入り鉢盛りになると、途端に人によって盛りつけ具合に色々と違いが出てくるのだ。そして商品の均一な統一感が薄れ、鮨の盛り方に乱れが生じることがあるから、こういう容器を使って商品としてマニュアル化することは嫌がられることになることが多いのだ。
その嫌がられる理由として、この商品の並べ方は、まず一段目に1種8カンが横に一列来て、次から横一列に2種5カンが五段、そして最後に2種4カンが一列となる。これは角丸という中途半端に変形した容器の形であるが故に、最上段と最下段は横一列10カン並べるのは難しく、カン数を8カン一列にして違いを出さざるを得ず煩雑さが加わるためである。
丸い容器のメリット
以上の18カン入り鮨盛り合わせから、66カン入り鮨鉢盛りまでの4種比較してみてみると、鮨の並べ方は基本的に「横一列で一定方向」を向いていることに変わりはない。これらには正面と裏面があって、食卓に据えられた際、正面に当たる位置に座るであろうお客様扱いの人には好都合だが、これらをお金を出して準備した人が座ることになるかもしれない、鉢盛りの裏面の方はあまり良い場所ではないのだ。
お盆の席などで、兄弟姉妹や親類縁者などが集う大きな食卓を想定してみると、こういう正面と裏面が出てしまうことは、もし避けられるものなら避けたいものであろう。
この問題に対処して解決する方法として、以下の画像のような方法がある。
その一つは、こうやって丸皿に放射状に鮨を並べることである。13種48カン入りの鮨鉢盛りであるが、これなら裏も表も生じない。この丸い容器にこの並べ方であれば、自分好みの鮨が手前の方にあるか、それとも向こう側にあるかということを別にすれば、全ての方向が「正面」ということになるのである。
例えば、以下の画像のように丸皿に横一列で盛りつける例もある。しかしこれでは丸皿の形を活かした盛り付けとは言えない。これでは上辺部や下辺部とその他の場所で、並べるにぎり鮨のカン数を更に大きく変える必要があり、盛り付けの全体バランスをとるのが角丸容器以上にとても難しくなる。
この丸皿の鮨鉢盛りも、これまで紹介してきた画像と同じで筆者が作成した商品のうちのひとつであり、これの作成日情報は11年前の2012年4月となっていた。確か水産部門ではなく、惣菜部門の寿司商品化モデルを依頼された時のものだと記憶している。
完成したこの商品の出来映えを自分なりに評価してみると、残念ながらあまり良い出来とは思っていない。この大きさの容器に内容量が60カンというのは数量が過大であり、少し無理をしてにぎり鮨を容器に詰め込んだという印象を免れない。このためにところどころで形が歪になった部分が生じていて、横一直線になるべきところが変に歪んでカーブしたり、全体的に均一なバランスがなくなってしまっている。
このように「横一列に一定方向を向いた盛り方」をするのであれば、丸い形の容器を使う意味はほとんどないのであり、単純に長方形の容器の方が間違いなく形を整えやすく見た目が良くなるのだ。つまり鉢盛りに大型の丸い容器を使うのであれば、にぎり鮨を放射状に並べてこそ丸い形を活かしたメリットを享受できるというのが理解できるはずである。
放射状で全方位が正面の盛りつけ
そこで、今回は食卓を囲む合計人数が大人5人であるということを前提として、正面と裏面が生じない「丸い形の容器ににぎり鮨を放射状に並べる全方位方式」で鮨鉢盛りを作ってみることにした。その一つが、今月号の巻頭画像にしている以下の画像である。
容器は直径33pの透明プラスチック製淺型の丸皿である。この容器は浅型なので、たぶん主な用途としてはフグの薄造りなどの盛りつけを想定した容器と考えられ、昨年 FISH FOOD TIMES 10月号 No.226 トラフグ刺身 の時に筆者が使用したものと同じである。
にぎり鮨を盛りつける前に、先ずは熊笹を縦半分にカットして放射状に敷いた。このプラスチック製の淺型丸皿は、透明の地に金色の細い模様が入っているだけなので、清涼感はあるけれど色合いが乏しく、色の変化を与える目的で熊笹を敷くことにしたのだ。
にぎり鮨の盛りつけ方法は、先に掲載している円形の皿に並べた48カン入り鮨鉢盛りは同じ放射状であるが、これは外側から盛りつけて中心部へと順に中を埋めていった。しかしこの場合は全く逆で、まず中心部に生本マグロ大トロを5カン置き、それから大トロと大トロの間に生本マグロ赤身を据え、次に大トロと赤身の間の位置に中トロを挟むという具合に進めていった。次はカンパチ腹身を中トロと赤身の間、カンパチと中トロの間に生サーモン、同じく間を空けて反対側の中トロとカンパチの間にホタテ貝柱を最後に盛りつけ、6種類、各5カンずつで合計30カンである。そして最後に仕上げの「紅一点」として、中心の核となる場所に、まん丸のシャリの上にイクラをこぼれるようにタップリ盛りつけて鮨鉢盛りが完成である。
言葉で説明すると煩雑なようだが決してそんなことはなく、要するに「同種のにぎり鮨の間に別種のにぎり鮨を入れていくこと」を繰り返すだけのことであり、ランダムではなくしっかりと法則性があるので、写真などの見本となるものがあれば、パートさんでも再生産はそれほど難しくないと考えられる。
そして、この皿だけでは5人分としては物足りない量なので、違う魚を使って同じようなものを直径30pでも作ってみた。それが以下の画像である。
容器の大きさが一回り小さいので25カン盛りとなったが、盛り付けの方法は基本的に上の鉢盛りと同じである。少し違うのは、外側の方は放射状にするのは無理があり、多少斜めにして置いていること。さらに、赤ムツと赤カマス5カンずつを2回繰り返していて、ハガツオは5カンだけであり、魚は3種類で25カンの鉢盛りを作っていることだ。(ただし、これも真ん中にイクラのこぼれ盛りがひとつあるので、正確には26カン盛りである)
こちらの小さい容器の方は、3魚種とも天然魚であり、天然魚にぎり鮨鉢盛りなので、別の日に同じものが出来るとは限らないが似たようなものは出来るはずである。すべての魚を皮付きのまま炙りにして鮨ダネにしている。反省点としては、赤カマスは昆布締めをした後に炙りをしたけれど、食感として皮の歯応えが残りすぎかなと感じられ、後ひと手間加えて「狭い間隔の飾り包丁」を皮の表面に数多く切り入れるべきだったと思った。
5人が食卓を囲んで、丸皿に放射状の形で盛られたにぎり鮨は大小二つの鉢盛りが並べられ、狙い通りに食卓のどの位置からでも正面も裏面もなく、この方法でのにぎり鮨の盛り方は正解だと思った。
放射状に盛る刺身の難しさ
とりあえず、にぎり鮨の鉢盛りは筆者が思い描いた形に近いものを作ることが出来た。しかし、刺身を丸皿で放射状に作るとなるとこれはハードルが高い。以下の画像のトラフグのように単品の魚種であれば、丸皿の薄造りが既に一般化しているので、フグではなくてもヒラメなどで応用することで商品化しやすい。
このフグの薄造りのように、大きさ、形、厚み、方向、立体感などを均一に放射状の形にすべてを盛りつけるというのはなかなか簡単ではなく、いわゆる職人技の世界である。
上画像は、昨年 FISH FOOD TIMES 10月号 No.226 トラフグ刺身 の巻頭画像であるが、これは筆者が意図的に完全な放射状ではなく、途中で円形にするのを中断し、正面はこちらという形にしている。その理由は、これを食してもらったお客様は一人であり、大人数の会食ではなかったので、敢えてお客様の方に刺身の顔を向ける形にしたからである。
このようにフグなど単品の魚種を放射状の形にするのは、完璧な円にするにしても不完全な円にするにしても、既に一般化していて何ら珍しいことではないが、色々な魚種を丸皿で放射状に盛りつけるとなると話は別で、実は筆者も2種類以上の魚をフグの薄造りのような放射状の形で盛りつけたことはない。
これは作る途中の工程を想像してみるだけで一筋縄ではいかないであろうことが推測できる。なぜなら、魚はそれぞれ形や大きさが違い、身の色合い・身質・水分含有量など、固有の特徴があるので、これらをフグの刺身のように放射線状に均一に美しく切って並べるというのは大変困難を極めることになるであろうことが予想されるからである。ハッキリ言ってそんなことが、上手に見栄え良く実現が可能なのかという疑問を持たざるを得ないレベルのことなのである。
筆者が今回購入した魚は生本マグロの大トロ・中トロ・赤身、カンパチ腹身、生サーモン、赤ムツ、赤カマス、ハガツオ、イクラの9種(7魚種)である。例えば、これらを透明の淺型丸皿に盛りつけることを想像してみてほしい。どうやったら良いか、筆者は糸口さえつかめなかったのだ。
色々と思案してみたけれど、このハードルの高い課題は次の機会へと後回しにすることにして、上記の魚を使った刺身をより安易な方法、つまり正面と裏面がある作品にすることにして、以下の画像のように作ることにしたのだった。
上の二つは、丸皿のにぎり鮨鉢盛りを作った後、魚だけでなくシャリも含め、その残りの材料を無駄なく使い切ることを課題としたので、結果的にこのような二つの形になり、最後に残ったのは多少多めの切り出しだけだった。
幸いにというか、料理の作成者としてはとても嬉しいことに、作り上げた鮨と刺身の鉢盛り4種はほとんど残らず食べ尽くされたのだ。料理を担当したものとして、これだけのボリュームがあっても、それらがほぼ完食されるという事実ほど嬉しいことはない。
昨年の8月号では、筆者がお客様用に作って準備した鮨と刺身が三分の一ほど残ってしまって残念な思いをしたと記していたが、今年の8月号ではその時とは全く逆の結果を記すことが出来ることになり、お金と時間をかけて料理を準備していた筆者は上々の気分を味わったのだった。
今年のお盆商戦に期待する
さて、今月号の後半は「おもてなし時の鮨に使う容器の形と並べ方はどうあるべきか」というテーマから外れて刺身鉢盛りのことにも言及することになってしまったが、刺身鉢盛りも8月というお盆商戦に欠かせない存在であるので、まったく無関係の内容とは言えないだろう。
読者の皆さんが今月号にアクセスして読まれているのはいつの時点なのだろう。8月1日に読んでもらえるような熱心な読者の方であれば、盆商戦に取り組むに当たって、今月号の内容は売上増のために多少ヒントとしてお役に立つかもしれない。しかし15日を過ぎてから今月号を覗いたのでは、盆商戦の売上増のためには遅すぎてお役に立つことは難しい。
ちなみに、今年の盆時期の人の移動はコロナ禍前の頃にほぼ戻るであろうことが、以下のようにJR各社の予約状況(8月11日〜17日)から推測できる。
JR各社から発表されたこの数字を見ると、今年のお盆期間に帰省などの人の移動は、前年比で50%増くらいにはなりそうな勢いであり、帰省客を迎える地方に位置する店はそれに伴って、今年は売上もそれなりに期待できると考えられる。
お盆における魚売場の売上は鮨や刺身が中心になるはずである。特に鮨は老若男女に大人気であり、筆者の関係する店では、鮨の売上は刺身のほぼ2倍というのが常態化している現実がある。お盆商戦ではその傾向がますます顕著になるはずである。今や、魚屋鮨は水産部門のなかで30%というダントツの構成比を占めることが珍しくなく、その存在感はいやが上にも高まってきていることから、今年の盆商戦において魚屋鮨は大きな期待をして良いはずだ。
今年のお盆商戦では、魚屋鮨の売れゆきの成否がそのまま水産部門トータルの成否につながるはずであり、FISH FOOD TIIMESの読者の皆さんは、是非とも今月号を参考にしていただいて、お盆商戦を成功に導いてほしいものである。
SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
https://secure02.blue.shared-server.net/www.fish-food.co.jp/ |
水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
このホームページへのご意見やご連絡は info@fish food times
更新日時 令和 5年 8月 1日