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令和 4年 9月号 225
サンマにぎり鮨
今年のサンマはどうなる
この画像は2017年11月3日に北海道厚岸漁港で筆者が撮影したサンマ水揚げの様子である。
この時期は既に魚群の主体が三陸沿岸の方へと移っているタイミングにも拘わらず、厚岸魚市場の屋内競り場にはタンクと呼ばれている1トンコンテナが数え切れないほど並び、そのなかにサンマが溢れるほど満載されていて、魚市場に水揚げされたサンマの圧倒的な量に驚かされるものがあった。
この光景はサンマがたくさん獲れていた頃のことだと思われるかもしれないが、実はサンマ漁が「歴史的な大凶漁」と言われた年の画像であり、この2017年度において全国のサンマ漁獲高合計は77,169トン、史上最悪のサンマ不漁年だったのだ。
しかし上にグラフにあるように、翌2018年度のサンマ水揚げ高は119,930トンとなり、前年比55%増となって胸をなで下ろしたのだが、それも束の間のことで翌年2019年以降は再びサンマ漁は減り続けることになり、とうとう昨年2021年度の全国サンマ水揚げ高は16,643トンまで下がってしまったのである。
そして今年はどうなることか気になるところであり、7月末に水産資源研究所から今年度のサンマ漁予報が発表された。以下がその内容の一部抜粋である。
これを要約すると、今年のサンマは「昨年よりも多少漁獲は増えるかもしれないが、型は小さく、南下の時期も例年より遅いだろう」との発表内容である。
改めて言うまでもないが、サンマは回遊魚であり、上の図にあるように太平洋の公海から、秋になると日本近海にやってくるので、日本では昔から秋の季節到来を物語る「秋の風物詩」として扱われてきた。ところが、サンマは日本近海にやってくる前の太平洋上で、外国の漁船が大量に漁獲するようになったことから、日本近海へのサンマ来遊量が少なくなり、サンマの漁獲高もそれとともに減ってきたと考えられている。
以下のグラフを見ていただきたい。このグラフがそのことを示している。
1980年代まで世界でサンマを漁獲していたのは、基本的に日本とプラスアルファでロシアのみであった。その頃までは日本がサンマ漁獲のほぼ100%近くを独占していたと見て良いだろう。しかし、1990年代に入ると台湾がサンマ漁を開始し、その後に韓国も加わって、日本のサンマ漁獲高シェアは5割ほどになっていった。更に2010年代になると中国がサンマ争奪戦に参戦し、それに留まらず1980年に独立したばかりの太平洋の小さな島国バヌアツ共和国までもがサンマ漁を開始したのである。そして日本のサンマ漁獲高シェアは2割ほどまで落ち込んだのである。
各国のサンマ漁獲量のことについては、サンマの資源管理策を話し合う北太平洋漁業委員会(NPFC)の年次会合で討議がされている。この会合は日本や中国、台湾、ロシアなど9カ国・地域が加盟する枠組みであり、昨年の会合では2021年と2022年の2年間の漁獲枠は33万トンで合意された。ところがこの数字は2020年の4割減の枠と報道されているけれど、実は2020年の漁獲実績は14万トンなのである。しかも、日本の2021年の漁獲枠は15.5万トンに設定されているけれど、2020年の漁獲実績はその5分の1の3万トンしかなかったのだ。さらに2021年は上記したようにその半分の16,643トンまで激減している。
昨年の北太平洋漁業委員会(NPFC)で出されたこの数字は、現状のサンマ漁獲実態にまったく合っていないため、まったく意味がないと言える。つまり漁獲枠が実態よりも大過ぎるので、実質的には「獲り放題」なのである。この獲り放題状態が今後も続くとすれば、サンマの資源はどんどん痩せ細っていって、更に漁獲高は下がり続けることになるかもしれない。
少なくなって高くなったサンマをどうしたら良いか
サンマの資源状態はこういう現実にあるのだから、その価格も過去に刺身に出来る鮮度の生サンマを1尾100円で販売していたという事実は既に昔話になりつつあるようだ。
サンマの販売に関して筆者がこれまでで一番驚いたこと、それは沖縄で北海道沖や三陸沖で漁獲された解凍サンマが1年中大きな存在感を示していたことである。通常売価は基本的に1尾100円以下が普通であり、それもほとんどが開きに加工されて売られていて、まさにサンマは魚売場の主役の一つといった存在だったからである。
筆者は九州福岡で生まれ、今もそこに在住しているのだが、筆者の育ってきた環境の感覚からすると、サンマと言えば塩干品の塩サンマのことであり、生サンマは刺身に出来る鮮度の特別な位置づけとして捉えていた。ところが筆者が2008年から沖縄のスーパーの水産部門の指導をすることになって魚売場の実状を観察したところ、開きにした解凍サンマが魚売場のメイン商材の一つとなっている事実を見て驚いたのだった。
沖縄で生まれ育った人たち(ウチナンチュ)は魚を網で焼いて食べる食習慣がほぼ無いので、ウチナンチュの各家庭のキッチンのグリルはほぼ1年中使わないところが多いと聞いている。その代わりに魚はフライパンを使いバターで焼くことなどが多く、そのための好適な魚となるとアジの1尾丸ものとかではなく、形として解凍サンマ開きの方が断然好都合なのである。しかもサンマは価格が安くて美味しくて、開きにしてあるので便利で、料理に手間もかからないことから、サンマはウチナンチュの皆さん方のニーズに沿った優等生として捉えられていると筆者は理解した。
このように沖縄の魚売場で大きな存在感を示してきた解凍サンマ開きは現在どうなっているのだろう。2021年2月に筆者の沖縄での13年間の水産部門指導が終了したことで、今はその実態が見えなくなっているので自分なりに推測をしてみると、高くなってしまった日本産の冷凍サンマに取って代わり、台湾や中国からの輸入冷凍サンマが仕入れられ、相変わらず安い解凍サンマが開きで売られているのかもしれない。しかしもし仮にそうだとすると、それらは太平洋上の公海で漁獲されたサンマのはずだから、まだ脂が乗っていない痩せた細いサンマが大半ではないかと推測される。
ここ数年、日本におけるサンマの水揚げ産地価格は以下のグラフのような推移をしており、このトレンドが変化して安い価格になっていくことは今の日本の何もかも物価高の経済情勢からして考えられず、台湾や中国からの輸入冷凍サンマにしても、現時点の円安状況ではそれほどメリットを受けられないのではないかと思われる。
沖縄で仕入れられる解凍サンマの規格がどのように変化し、仕入れ原価と売価がどう変化しているのか現状を知ることは出来ないが、ベースとしてサンマを開きという商品形態で販売することは変わっていないだろうと思う。
沖縄の魚売場のメイン商材である解凍サンマの開きは基本的にインストア作業で商品化される。これは、赤身の青魚故にどうしても変色が早いという商品特性があり、開きにしてから出来るだけ短時間の内に売り切らなければ価値が落ちてしまい、販売価格を下げなければならないという要因があるからである。
沖縄のスーパーの水産部門作業場でおこなわれる解凍サンマの開き作業は誰もがなかなかこなれたもので、これに慣れた人の作業スピードと出来上がりは筆者も目を見張るものがあった。そこで、以下に沖縄流サンマ開き作業を紹介することにしよう。
サンマ開きの作業方法 | |
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1,作業の流れ上から、敢えて基本技術の原則から外れ、頭を左、腹を前にし、柳刃の刃元を使って頭部を除去する。 | 6,頭部側を右にして、下身側の腹部を頭部側から尾部側へと浅く切り込みを入れる。 |
2,頭部側を左にして、腹部の上身側に尾部から頭部へ浅く切り込みを入れる。 | 7,この際の注意点は上身側と同様に腹骨を切らず中骨の上を切り進めること。 |
3,尾部の切り口から頭部に向けて切り開いていく。この際に腹骨を切らず、腹骨と中骨の上を切り進める。 | 8,切り開いた下身側を更に奥へと切り込み、中骨と山高骨の間を切り離し、最後に尾部と腹部をつないでいる中骨を切り離す。 |
4,包丁の切っ先を使い、皮一枚を残して、際まで切り開く。 | 9,尾部側を持ち上げ、内臓が残ったままの腹部と分離する。 |
5,腹部の内臓部分をそのままにして、上身側の半身を切り開いた状態。 | 10,内臓がそのまま残っている腹部と尾ビレが付いたままの開き部位に分離した状態。 |
上に紹介した作業方法はマイワシでも同じ方法が可能であり、筆者はウルメイワシでも同じやり方で開きを作ることにしている。
悲観することはない
マイワシのことに触れたついでに、少しだけマイワシのことについても言及してみたい。
日本でマイワシは昭和63年(1988年)には約450万トンもの膨大な量が漁獲されていたが、それ以前の1965年には0.9万トンしか獲れなかった年もあり、その後は平成2年頃を境として漁獲高は漸減傾向を辿っていた。
このようになっていたため、一時期は「幻の魚」とも称されたマイワシは近年になって少しずつ資源回復が目立つようになってきている事実があり、そのことを示しているのが以下のグラフである。
このように、水産資源研究所がマイワシの資源を科学的に調査した結果、これから先もマイワシ資源は少しずつ順調に回復していくであろうとの予測がこのグラフで示されている。
そのことは同様に、この先サンマも決して悲観することはなく、また資源が復活してくるかもしれないと考えることも出来るであろう。魚の小売関係者はそのことを希望的観測として携えながら、現時点で置かれているサンマの現実を受け止めざるを得ず、粛々とこれから何をすべきか考えていくしかないであろう。
現在及びこの先当面はサンマの水揚げが回復せず市場相場も高い位置づけを維持するとしたら、それに応じた商品展開をするしかないのである。仕入れ価格が高いならば、当然ながら付加価値をつけてお客様に納得してもらう商品に仕上げ、それを承知でお客様に購入していただくようにすべきであろう。
そしてその手立てとして最適な方法は、やはり鮮度の良い生サンマを刺身や鮨という付加価値の高い生食の形で提供するのが一番だと思うのだが、そこで立ちはだかる難敵はアニサキスである。アニサキス対策をしっかりやらなければ、基本的にサンマの生食販売は不可能なのである。
現在、大手を中心としたほとんどのスーパーでは、サンマだけではなくサバもイワシも生食商品として販売することを禁止しているという事実がある。これはスーパー経営者がアニサキス問題を引き起こすことを懸念して、危ない橋は渡らない、更に石橋を叩いても渡らないという歪な安全策を執っているためである。
長く水産関係者として生きてきた筆者は、この事実が我慢ならない。福岡では昔からマサバを使ったゴマサバという刺身が伝統的食習慣の一つとして食されてきた歴史があるが、その福岡に本社があり多店舗展開しているスーパーが、どんなに鮮度の良い天然サバが入荷しても生食用としては売場に出さず、すべて切身用の表示をして販売していて、割高な養殖サバのみをアニサキスの不在が保証されているという理由で刺身用として販売しているのである。
アニサキス対策
サンマをそれなりの価格で売るには生食用の刺身や鮨にすることで付加価値をつけること求められると上記したが、アニサキスという障壁がこのことを阻むやっかいな問題として存在している。
これまでアニサキスを加熱せずに死滅させる方法としては「−20℃以下で24時間以上保存した冷凍」に限られていた。しかし生魚を前提とした刺身や鮨を販売する魚小売業がそんなことやってられるはずがない。現実的な行動としては、魚が入荷して、これらを調理をする時に自分の目で確認して、アニサキスがいたら取り除くという作業をやるしかないのである。
工場レベルとなると、水産加工のジャパンシーフーズ(福岡市、井上陽一社長)と熊本大学産業ナノマテリアル研究所(熊本市)の浪平隆男准教授は、瞬間的巨大電力(パルスパワー)によってアニサキスを感電させることで死滅させる新規の方法を共同開発したとのことである。このことでノンフローズンの生食用刺身に対するアニサキス食中毒のリスクがよりゼロに近づいたということだ。
またブラックライトという紫外線光を当ててアニサキスを発見する機械や簡易装置も発売されているが、コストや時間の点で大きな工場ではそれが出来ても、全国各地の小売の現場でサンマ・サバ・イワシ・アジなど青物大衆魚の全てをそんなことやっていたら埒が明かない。
魚小売のプロは、その経験と知識を駆使して決してアニサキス事件を起こさないようにしなければならないのだ。FISH FOOD TIMES の読者の皆さんはたぶん既知のことばかりだと思うが、ここでもう一度サンマを生食商品として販売するためにアニサキス対策の知識を少しだけ整理してみよう。
アニサキスは魚の内臓に多くいて、氷塩水などの氷漬けに近い状態で冷えている場合は内臓から移動しないが、氷が少なくなってくると内臓から身の部分に移動することがある。だから出来るだけ鮮度の良い内に内臓を除去すればその心配はしなくて良いのだ。しかし、問題は時間が経過してアニサキスが身の方に移動している場合である。身の方に移動した場合でも、まだ時間経過が少なく生食が出来るような鮮度の時は、仮にアニサキスが移動したとしても内臓付近の身の中に潜んでいる可能性が高いので発見しやすい。
例えば「シスト(アニサキスの巣)」は、下画像の白い枠線で囲んでいる部分だが、黒く渦巻いているので比較的誰でも確認しやすい。ただし黒い色は時間が経過するほど黒くなるので鮮度の良い内は確認しにくい点は注意が必要だ。
こうやって、魚小売の現場では自分の目で確認する「目視確認」を徹底するしかない。
ところで、アニサキス中毒の激しい痛みの症状というのは「噛んだり刺したりの物理的な痛みではない」ということはご存じだろうか。アニサキスには口がなく、太さ1ミリもない小さな生き物なので、食中毒は生きたアニサキスが分泌するアレルゲンが胃壁と反応して発症すると考えられている。 初感染の場合は異物反応にとどまるため軽症の緩和型であり、再感染で強い即時型過敏反応を起こして劇症型になる。つまりアニサキス食中毒になってしまった人は、一度目に緩和型アニサキスアレルギーとなり、2回目で劇症型の痛みを感じるということになるのだ。現在14種類のアニサキスアレルゲン確認されているが、サンマを含むマグロやサバなどの赤身魚に多いと言われるヒスタミンによる食中毒(じんましん)の約半分がアニサキスアレルギーではないかと言われている。
なかなか厄介なアニサキスだが、その特効薬として注目されているのが正露丸だ。このことは昨年10月に FISH FOOD TIMES No.214 で言及していたので、まだ目を通していない方は是非とも参照して欲しい。
サンマを刺身や鮨で売ろう
さてアニサキスについて長々と言及してしまったが、これは筆者が「昔に比べて高くなってしまったサンマは、塩焼き用だけでなく付加価値の高い刺身や鮨でも販売して欲しい」という考えあるからである。
過去に特大サイズとされる生サンマを刺身や鮨にして食べたことがあるが、その脂の乗り具合からとろけるような舌触りの美味しさは本当に格別のものだったことを記憶している。そういう特大サイズというのはここ数年なかなか姿を見ることはなく、仲卸業者にお願いしてもサンマの小型化が顕著なのでほぼ手に入らないという状況がある。
2014年9月4日(木)に、その特大サイズのサンマを使用してつくったにぎり鮨が以下の画像である。
1尾の重量は間違いなく200gは超えていたと思うが、正確な重量は量ったわけではないので分からないけれど、海水氷発泡スチロール箱の4kg規格で18〜15尾入りくらいだったと思われ、もう8年前のことなのでその記憶は定かではない。しかし不思議なことに、その時の地域、会社、店舗、そこにいた主立った人の名前と顔、そしてどんな会話をして盛り上がったかなどはこの画像を見ると思い出すことが出来るのだ。筆者自身にとっても、このサンマにぎり鮨はそれほど印象的な作品なのである。
この作品は商品として店には出さず、筆者を含めた参加者ですべて試食してしまったのだが、同時に同じ特大サイズのサンマを使って、炙りにぎり鮨と刺身も商品化していた。以下がその画像である。
今やサンマでもうこんなにボリュームのある豪快な刺身や鮨をつくることは難しいだろうと思う。何しろ上記したように、サンマがまだ成長途上の小さい内に太平洋上の公海で外国漁船に漁獲されるため、残りのサンマが日本近海にやってきても全体が小ぶりであり、大きなサイズまで成長したのをほとんど見かけなくなっているからである。
サンマだけでなく、サバもイワシも青魚はやはり脂の乗りが美味しさの一番の決め手であり、脂の乗りは基本的にサイズの大きさと比例するので魚体が大きいほど価値があるのだ。しかしここ数年、ご存じのサンマ資源状況からすると無い物ねだりをしても仕方なく、それなりに見合った価格で手に入るサイズを仕入れて売るしかないだろう。昔マイワシが幻の魚と呼ばれたように、サンマが幻の魚として扱われるようになることだけは御免こうむりたいものだ。
筆者はサンマ漁業についてアレコレ言える立場ではなく、陸に上がった魚をどうするかしか能はないと弁えている。このため、ひとたび魚が陸に上がってしまったら、それらをどう大事扱ってお客様に美味しく食べていただくか、これについては一所懸命に最善を尽くしていきたいと考えている。
FISH FOOD TIIMES の皆さんは、このホームページで読者として想定している魚小売関係だけではなく、水産関係の様々な立場の人がいると認識しており、そういった人たちにも魚小売に関係する筆者のような人間が、水産について考えていることを知ってもらうことも大事ではないかと思われる。そして、昔から延々と続いてきた「日本の魚食文化」をないがしろしてはいけないという考えは、色んな立場にある読者の皆さんと共有できるのではないかと思われる。
秋の風物詩サンマが幻の魚とならないよう、それぞれの立場で努力していきたいものである。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 4年 9月 1日