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令和 3年 7月号 211
肝なしウスバハギの刺身&鮨
FISH FOOD TIMES 手抜き版を再構築
ウスバハギを採り上げるのは15年前の平成18年1月号に続いて今月号で2回目となる。先月号のタチウオと同じく再登板の魚種となるが、筆者としては先月号で反省を含めたかたちでタチウオを改めて扱い、詳しく記したことを「やってみて良かった」との思いがあり、そのことが今月号のウスバハギ再登場にもつながっている。
平成18年1月号で扱ったウスバハギは、冬場に大きくなる肝を添えた「肝合え(とも和え)刺身」を前提として記していたが、今から考えると本当にこんな内容で良いのかと問われても仕方ない簡単なことしか記述しかしていなかったので、やはり先月号のタチウオと同じように「当時の手抜き記事の汚名挽回」をすることにしたのである。
カワハギと言えば夏でしょ・・・
日本で食されるカワハギは主として、ウスバハギ、ウマヅラハギ、カワハギの3種類である。
上の画像の上段がウスバハギ、中段ウマヅラハギ、下段カワハギである。いづれもフグ目カワハギ科に属している。それぞれウスバハギ属、ウマヅラハギ属、カワハギ属となり、大きな血筋としてはフグの仲間であり、カワハギ科の家系にある親戚同士の間柄である。上画像は面白いことに同じ定置網に3種とも一緒に入っていたらしく、ある時同じ魚箱に入れられて運び込まれたのを筆者が撮った画像である。(ちなみに余談だが、定置網を引き上げる船の上では、これらカワハギ類は獲れても次々と海へ投げ戻されることがある。なぜなら、カワハギ類は頭部の長くて大きい鋭いトゲがあり、定置網から舟への水揚げの途中では色々な魚が混獲されてバタバタ暴れているので、この鋭いトゲで他の高価な魚を傷つけてしまうことが多いらしく、特にあまり市場価格も期待できないウマヅラハギなどは漁師さんに嫌われていて、他の高価な魚を傷つけないために舟の上から捨てられる運命にあるのだ。この日はよほど水揚げ内容が悪かったと思われ、海に戻されず商品となったのである。このことはカワハギに限らず、種々雑多な魚が混獲される定置網の舟上では、シイラなど市場価格の低い魚は同じような運命にあり、漁の内容次第では様々な取捨選択が船上でおこなわれている。)
これら3種はカワハギ家系の従兄弟同士のようなものなので、細部では違った部分が色々あるけれど、やはり従兄弟同士の似たところもたくさんあり、その一大特徴は名前が示すとおり、厚い頑丈な皮を手で引っ張って剥ぐことが出来ることにある。以下はそれらの皮を剥いだ状態で、それぞれ色合いが微妙に違うのが理解できると思う。
ウスバハギ
ウマヅラハギ
カワハギ
3種の中で価格的に一番高いのは漁獲高が一番少ないカワハギであり、一番安いのは一度に大量に漁獲されることもあるウマヅラハギ、そしてウスバハギはその鮮度一つでカワハギ以上に高くなることもあれば、ウマヅラハギ以下の安い時もあって、相場の上下幅が特に大きいという特徴を持っている。
カワハギの価格が一番高い理由は、その身質が一番刺身などの生食に向いているからであり、ウマヅラハギは基本的に量的な面から手に入れやすく、その価格面から切身や干し物加工品などにされることが多く、もちろん鮮度が良ければ刺身にすることもある。そして今月号の主役であるウスバハギは、その身質が刺身・鮨にも向いていて、切身などにも幅広く応用できる使い勝手の良さを持っている。
これら3種とも、それぞれ刺身や鮨に出来るけれど、やはり夏こそ刺身にする意義があると言えるだろう。読者の皆さんは「夏のカワハギは冬のフグ」という言い回しを聞いたことがあるのではないかと思う。まさか、冬のトラフグのテッサと夏のウマヅラハギの薄造りを同じだと思う人はいないと思うが、ようするに旬から外れた夏のトラフグよりも、夏場にせっせと栄養を溜め込んでいる時期に当たるカワハギ科の刺身を食べた方が美味しさの点で理に適っているという意味である。
下画像は、ある年の5月に取り扱ったウマヅラハギの肝と魚卵の大きさの様子であるが、このようにまだ初夏の時点で肝や魚卵がこれだけ成長しているのだから、肝が更に大きく成長する冬の時期よりも身に栄養を溜め込んだ状態は夏の方が上をいくのではないかと推測できる。
つまり、カワハギの仲間の刺身を食べるなら「夏でしょ・・・」ということなのだ。
何のためのどんな役割? 非常に固く、丸い骨
カワハギ科の魚の刺身については、上述したように15年前の平成18年1月号でウスバハギ、10年前の平成25年5月号No.113ではウマヅラハギについて記していた。今のところ、まだカワハギはテーマとして採り上げたことはなく、その内に記事として扱うことになるかもしれないが、どちらかと言えば漁獲量が少なくて価格が一番高いために天然よりも養殖の方が注目されており、タイやカンパチのように養殖物が主流となる可能性もあり、記事にするとすればそういった観点から扱うことになるかもしれない。
ウマヅラハギについては、No.113でそれなりに詳しく触れているので参考にしてほしいが、ウスバハギとの共通点も多いことから、今月号ではその記事と同じようなことをダブって説明することもでてくるかもしれず、その点は説明の成り行き上どうにもならないこともあるのでご容赦願いたい。
先ずはウスバハギの皮剥ぎまでの作業工程を画像で説明しよう。
ウスバハギの皮剥ぎ作業工程 | |
---|---|
1,尻ビレを切り離す。 | 7,魚体を裏向け、皮をそのまま尾ビレ側に大きく引っ張り、全ての皮を除去する。 |
2,背ビレを切り離す。 | 8,腹部の切り込みから、肝臓を傷つけないように注意して、内臓を指で掴み出す。 |
3,腹ビレが退化した長い骨と胴体の間に切り込みを入れる。 | 9,内臓を除去した後に、肝臓を潰さないよう慎重に取り出す。 |
4,長い骨を胴体から切り離す。 | 10,頭部を下に向け、頭部と顎の間に切り込みを入れ、エラの付け根を切り離す。 |
5,皮を剥ぎ易くするために、おちょぼ口を切り離す。 | 11,出刃包丁の切っ先に近い裏腹部分をエラに当て、エラを押し倒すようにして、手前に引き出す。 |
6,切り離した口を起点として、腹部から背ビレの方に向け皮を剥ぐ。 | 12,出刃包丁でエラを除去した状態。 |
皮を剥いだウスバハギ |
以上が筆者お勧めのウスバハギの皮剥ぎまでの作業工程なのだが、またいっぽうでウスバハギよりも小型のウマヅラハギなどでよく使われる別の方法もあるので、比較するために以下に紹介しておこう。工程の説明は上画像と同じようなものなので短文に簡略化して記述することにする。
頭部を分離して皮を剥ぐ作業方法 | ||
---|---|---|
1,尻ビレと背ビレを切り離す。 | 5,刃元で背骨を切り離す。 | 9,頭部の皮を外す。 |
2,腹ビレが退化した長い骨を切り離す。 | 6、切り口から上身下身とも斜めに切り込みを入れる。 | 10,胴体の皮を切り口から引っ張り外す。 |
3,エラを外すために切り込みを入れる。 | 7,頭部と胴体を引き離す。 | 11,皮全体が1枚になるよう、尾ビレに向けて引っ張り外す。 |
4,包丁の切っ先近くをエラに当て、押さえつけて分離する。 | 8,頭部の方にある肝臓を丁寧に取り外し、内臓も除去する。 | 皮を剥がしたウスバハギ |
皮を剥ぐ作業はこれで終了したので、次は骨付きの切身に移ろう。
ウスバハギの切身作業工程 | |
---|---|
1,出刃包丁の刃元を首の付け根に打ち込み、背骨を頭部と胴体部に切り離す。 | 7,背骨を超えて、背ビレの方まで片面おろしの方法で切り進める。 |
2,出刃包丁の切り込みから、上身側下身側とも腹部へ斜めに切り入れる。 | 8,背ビレの際を切り開いたら、尾ビレの方へと切り進め、下身を分離する。 |
3,頭部を胴体から引き離して分離する。 | 9、切身にする前に注意しなければならないのは、丸で囲んで画像を強調している「非常に固くて丸い骨」だ。 |
4,頭部と胴体に分離された状態。 | 10,この丸い骨は出刃包丁を跳ね返すほど固いので、出刃包丁の切っ先を使って掘り起こすようにして除去する。 |
5,下身側の尻ビレの際に切り込みを入れる。 | 11,固くて丸い骨を除去した状態。 |
6,尻ビレの際から背側に向けて切り進める。 | 12,中骨付きの上身を料理に適切な大きさにカットする。 |
ウスバハギの切身 |
ウスバハギにだけある「固くて丸い骨」は何のために存在しているのか、それはどんな役割を果たすのか、筆者は非常に気になっているのだが、これを説明してくれる資料にまだ出会えていない。ご存じの方がいらっしゃればご教示願いたい。
身皮をどう処理するかが大事
次は刺身と鮨である。ウスバハギはフグ目というフグ家系の血筋にあたるので、トラフグなどと同じように皮の下の皮である「身皮」が存在している。ウスバハギに限らず、カワハギの仲間を刺身や鮨に調理するに当たってはこの作業が非常に重要な工程であり、もし失敗するとその修復作業が厄介であり、その後の商品の仕上がりに大きな影響が出てくる。
ウスバハギの身皮と身を分離する作業工程 | |
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1,片面おろしの方法で三枚おろしする。 | 4,身皮側から見た上身。 |
2,三枚おろしにした上身。 | 5,身皮を除去する時、筆者は内引きの方法でゆっくり慎重に柳刃包丁を動かすことで失敗しないようにしている。 |
3、腹骨を欠き取る。 | 6,身皮を分離した状態。 |
こうして、刺身や鮨にする身の部分とそうしない身皮に分離することができたので、それぞれを活かす形へと変化させていく。
ウスバハギの刺身と鮨商品化工程 | |
---|---|
1,右の姿勢の薄造りをする。 | 1,鮨ダネにカットする。 |
2,左の姿勢のそぎ造りをする。 | 2,何枚か重ねたウスバハギの鮨ダネ。 |
ウスバハギ薄造り刺身 | ウスバハギのにぎり鮨 |
1,身皮を軽くボイルする。 | 1,丸薄皿にウスバハギを薄造りで盛りつけていく。 |
2,ボイルした身皮を千切りする。 | 2,丸皿を右に回しながら、左回りにウスバハギ薄造りを盛りつける。 |
ウスバハギ薄造りのボイル身皮添え | ウスバハギ薄造りの丸皿盛り |
肝なしでも美味しい
カワハギの仲間は肝が注目される傾向があるけれど、何と言っても肝は添え物の位置づけであって中心的な存在ではない。肝を裏漉しして「肝醤油」をつくり、刺身をそれに浸して「肝のとも和え」で食べる機会のある人が一般家庭にどれだけ存在しているのかも疑問である。また、肝は魚体の大きさ、季節などによって大きさは様々であり、腹を切り開いてみて肝臓が大きければ幸運だったといった当たり外れがあり、必ずしも大きな肝が手に入るとは限らない不安定さがある。さらに内臓の一つである肝を食べるとなると鮮度も重要で、臭いを放つような鮮度の肝を食べることは出来ないのは当然であり、魚の腐敗は内臓から進行するので、そういう意味では一番危険な部位でもある。
ウスバハギの販売をする上で、肝はあくまでも「付け足し」の位置づけで捉えるべきであり、それよりも刺身や鮨にする時に必ず出てくる「身皮」を調理した後に残った不用な部位として捨てるのではなく、しっかりと商品の一部として組み込んでいくことの方がよほど重要なことではないかと思える。ウスバハギを商品化する際に肝は付加価値を高める意味で重要ではあるけれど、仮にそれはなくても充分に商品として通用するのだから「肝なしでも美味しい夏のウスバハギ」をしっかり売り込んでほしいものである。
さて、今月号はそろそろ終わりにしたいと思うが、今回の主旨でもある「15年前の平成18年1月号での手抜き記事の汚名挽回」という目的は達せられたであろうか。このことは読者諸氏が判断されることになるのだが、10年前平成25年5月号No.113でのウマヅラハギの記事でカワハギの仲間の特徴などは記していたことから、今月号でそのあたりの知識について触れることは敢えて避けているので、不足している知識はその記事と併せて読んでもらえれば良いのではないかと思う。コロナ禍が終息に向かうはずのこの夏に、ウスバハギがどんどん売れて魚販売の業績が上がることを願いたいものである。
SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 3年 7月 1日