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鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ

令和 4年 12月号  228

トクビレ ハッカク

トクビレの刺身と鮨


その異形に驚いた

トクビレ ハッカク

筆者は齢七十を超え、鮮魚コンサルタントの仕事で三十数年、会社員の時代も魚に関係していたので、合計するとほぼ五十年ほど魚の仕事をしてきたことになり、普通の人に比べるとかなり数多くの種類の魚に接してきたのは間違いない。

しかし、福岡県で生まれ、二十歳前後の若い時に7年ほど東京に住んでいたものの、その後はずっと福岡県に在住してきたことから、ある意味で地域性に偏りがあることは否めず、どちらかと言えば九州から西日本及び南日本の魚には強いけれど、東日本から北の地域の魚の知識と経験には弱みを持っていると言える。

実はこの画像のトクビレのことは、鮮魚コンサルタントになるまで、食べたことはもちろん、見たことも触ったこともなかったのだ。この魚を初めて見た時の印象は「何じゃこれは・・・、エイリアンか・・・」というもので、触るのも恐る恐るという風なへっぴり腰だったのを覚えている。

見た目の特徴として、先ずは「長い鼻(吻部=口の先から眼の前縁までの部分)、鼻先のヒラヒラ、大きな盛り上がった黒目」であろう。特に長い鼻先のヒラヒラは何のために存在しているのだろうと思う。アンコウの提灯のようなものでもなさそうだし、もしかすると触覚のような器官かもしれない。

トクビレ ハッカク

そして、頭部とのバランス的には異常に大きい眼球は、まるで威嚇するような存在感がある。

その口も異様である。

トクビレ ハッカク

トクビレ ハッカク

口元をよく見ると、髭状の器官が何本も並んでいるのが確認できるが、極端な形で上顎が被さり、下顎は小さく、鋭い歯のようなものは外側から目視できない。この口の形状は海の底の底生生物を捕食するのに都合良く、髭状の器官は触覚として獲物を探るのに適していると推測できる。それにしても、この画像にあるように、唇の赤っぽく艶めかしい色についても、筆者はそれが気色悪いと感じてしまうのだ。

次は魚体表面である。

トクビレ ハッカク

トクビレ ハッカク

トクビレの魚体表面は硬く、そして鋭くて硬いトゲが無数にあり、それらは左右4列ずつの合計8列並んでいて、まるで鎧を着た戦士のようである。これはアジのゼイゴのようにウロコが変形してこのような形になったものらしいが、一般的には魚体の中央部を水平に走る側線の上に1列に並んだ鱗を側線鱗(lateral line scales)といい、その数は魚類の分類に重要な鍵となる。

このトゲの突起の列は、トクビレのもう一つの特徴である八角形の魚体を形作っていて、この形から北海道などでの別名はハッカクと呼ばれている。

トクビレ ハッカク

そして、何と言ってもトクビレをトクビレらしく特徴づけているのが、背ビレと尻ビレである。

トクビレ ハッカク

背ビレと尻ビレが、まるで蝶々の羽のように極端に大きく「特別に大きなヒレ」を持っている魚ということでトクビレという和名になったらしい。

ヒレが特別に大きい魚と言えば、皆さんもよくご存じの下画像のホウボウがいる。

ホウボウ

ホウボウの場合は、胸ビレが大きく発達していて、トクビレとは全く違うことがこの画像でお分かりだと思う。ホウボウは全体の色が鮮やかで、商品にする時も下画像の姿造り刺身などのように(FISH FOOD TIIMES No.206 ホウボウ姿造り 令和 3年 2月号)絵になるが、トクビレは見た目として、とても姿造りにしてみようとは思わない。

ホウボウ


まだまだ、未知のことが数多く残る魚の世界

トクビレはカジカ亜目トクビレ科トクビレ属であり、ホウボウはカサゴ亜目ホウボウ科ホウボウ属なので、同じように上から押しつぶされたような縦扁型の形をしているものの、基本的には近縁種とかではなく別種の魚と見るべきである。

トクビレ ハッカク

魚の形というのは、トクビレやホウボウのような背腹の方向に扁平になっていて、水底に定着して生活するのに適している縦扁型の他に、カツオやブリなど遊泳中の水の抵抗が少ないように中央部付近が太く、頭端や尾端へ向かってしだいに細くなる紡錘形、更にタイやヒラメなど左右に著しく扁平で、岩の割れ目や海底に体を接し、外敵からの食害を防ぐうえで効果的な体形の側扁形、そしてウナギやハモなどの水底にいて細い穴の中に潜入するのに都合の良い細長型などがあり、これらが代表的な四つの基本形である。

上の図にあるように、魚類は大きく分けると四つの形に分類されるが、科学的に正確な表現をすると、この「魚類」という名称は海や川を泳ぐ魚を指す時の便宜上の呼び方にすぎないということだ。

地球の7割を占める海にはまだ多くの未知の部分が多く残っていて、分からないことや見つかっていない種類が数多く存在し、現在魚に付けられている「類」や「目」という分類はあくまでも暫定的なものであり、将来大きく変わる可能性がある。

かつて、魚類は「脊椎動物門」の下に置かれた魚綱(ぎょこう)と魚上綱(ぎょじょうこう)に分けられ、これらは顎の有無によってさらに区別され、顎のない無顎口綱(円口綱)と顎を持つ顎口類に分類されていた。

そして、現在「魚類」という厳密な分類は難しいものの、種の特性によって顎口類(がっこうるい)という分類で大まかに分類することはできる。顎口類は硬骨魚類と軟骨魚類に分けられる。

硬骨魚類は、文字どおり硬い骨で構成される魚類であり、頭蓋骨を初め、各部位の骨は小骨が接合して構成され、その種類は、2万6,000種以上いるとする説が有力である。この硬骨魚類は、さらに条鰭類(じょうきるい)と肉鰭類(にくきるい)に分類される。

硬骨魚類のほとんどは「条鰭類」に属し、胸びれから放射線状に骨の束が伸びており、肩甲骨とつながっているのが特徴である。サケ・ウナギ・トビウオ・フグ・アンコウ・コイなど、一般的に「魚」といわれるものはほぼ条鰭類に属する。次に、肉鰭類は 胸ビレが一対の骨で肩甲骨部分とつながっていて、ヒトや動物のような「四肢動物」に近い骨の構造があり、四肢動物は肉鰭類から進化したと考えるのが一般的で、この種に分類されるのは、シーラカンスや肺魚の仲間である。

次は軟骨魚類だが、これらは柔らかい弾力性のある骨(軟骨)で構成されている魚だ。 硬骨魚類よりも原始的な種と考えられており、「エラ穴を複数対持つ、歯が生え替わる、浮き袋がない」などの特徴がある。これらの代表的な魚は、エイやサメである。世界中のいたるところに生息し、淡水や海水を問わず、エイは500種類以上、サメも500種類以上いるといわれる。

そして最後に 無顎(むがく)魚類である。その名のとおり、顎を持たない魚である。ヌタウナギ類、ヤツメウナギ類などがその種であるが、それらは一般的に認知されるウナギとは別物でである。この種は顎がないため咀嚼できず、食事をするときは相手に取り付き、口から肉や体液を吸引する。近年の研究により、これらの生物は、全ての脊椎動物の祖先に当たる動物と同じ特徴を持っているという仮説が立てられている。

さて、上記したことを科学的に系統立てて言葉で説明するのは簡単ではないが、以下の図は上智大学理工学部進化生物学研究室が発表している資料であり、これを見ると少しは整理して理解できるのではないだろうか。

上智大学の概要説明によると、魚類は脊椎動物の半数を占める多様なグループであり、その系統関係は複雑なことから、馴染みのある元素周期表に分類・系統をあてはめ、その多様性に少しでも親しんでもらおうとして考案したとのことである。名づけて「おさかな周期表」というもので、この表の見方は左上が分岐の古い魚類、右下が分岐の新しい魚類となっている。

哺乳類や鳥類の研究はすでにかなり進んでいて、新種が発見されることは非常に稀である。ところが、魚類は毎年数十から数百もの新種が見つかっていて、新たな発見がこれまでの常識を覆すこともあり、魚の分類は非常に流動的なのだ。近年はDNAの検査によって遺伝子レベルで種の類似性・共通性をチェックできるので、意外な種族同士がつながっていたり、全くつながっていなかったりしていたことが分かるようになってきている。

以下の図はサンシャイン水族館ホームページに載っている資料である。この表現によると、魚類というのは「魚っぽいものをひとまとめにした呼称で便宜上使われているだけ」ということになるのだ。

考えてみれば、自然生物学的にこれほど奥深い世界が他にあるだろうか。魚類は毎年数十から数百もの新種が見つかるというのだから、その最終的に行き着く先は、いったい何処にどれほどの規模として存在するのかと思ってしまう。

筆者は魚の研究者ではないけれど、魚の仕事に長く従事してきたことから、一般の人に比べると魚の知識は多少豊富なはずだと自負している。しかし、そんな魚類に関する筆者の知識レベルなど、魚の世界を知れば知るほど「蚤の糞」ほどでもないことが自覚できる。

筆者は「人間が食べるための魚(FISH FOR FOOD)」に範囲を絞ってTIMESの記事にしてきたので、その対象となる魚種は限られることになる。しかし、そんな限定された世界でも、今月号のようにエイリアンのような魚も扱うことになるのであり、本当に魚の世界は広大であり、奥深い深遠さを感じざるを得ない。


エイリアンの美味しさは異次元

さて、エイリアンに話を戻そう。筆者はトクビレの姿形は異次元のものと感じるが、実はその味も異次元レベルの美味しさだと思う。残念ながらトクビレのメスは扱ったことはないが、情報によると背ビレ尻ビレはオスのように大きくならず、魚体も小さくて脂も乗っていないので、オスとは別格の安さで取引されているということだ。つまり、筆者が言うところの異次元レベルの美味しさとはオスのことであり、メスのことは知らないのでコメントすることが出来ない。

以下にトクビレのオスを刺身と鮨にする作業工程を紹介しよう。

トクビレの刺身と鮨
トクビレ ハッカク トクビレ ハッカク
1,顎の付け根を切り離す。 8,頭部側の皮を指で掴み、そのまま尾部側へと引っ張り、皮を剥がす。
2,腹部を縦に開き内臓を除去する。 9,上身側の皮を剥がした状態。
トクビレ ハッカク トクビレ ハッカク
3,頭部を切り離す。 10,下身側も皮を剥がした状態。この皮は唐揚げで美味しいとのことだが、筆者は料理する気にはならなかった。
トクビレ ハッカク トクビレ ハッカク
4,広くて大きい尻ビレを切り離す。 11,大名おろし技法で三枚におろす。
トクビレ ハッカク トクビレ ハッカク
5,同じく大きな背ビレを切り離す。 12,皮側を下にして、そぎ造り技法で切り入れる。
トクビレ ハッカク トクビレ ハッカク
6,腹ビレの際に、包丁の刃先で浅く切り口を作る。 13,皮側を切り離す一歩手前で、包丁の峰を直角に起こし、切角をつける。
トクビレ ハッカク トクビレ ハッカク
7,背ビレの際にも、包丁の刃先で浅く切り込みを入れる。 14,最後に切り離したら裏返して、刺身に盛りつけ、鮨ダネにも使う。
トクビレ ハッカク

 

トクビレ ハッカク

 

 

トクビレは外観の異様さとは裏腹に、その身はしっかりとした白身で弾力性もあり、身崩れもしにくく包丁を使って切りやすい。その身を噛むとほんのりとバランスの良い脂を感じ、それが旨みに感じる上品な味である。今月号でトクビレをエイリアンと表現したので、敢えてそれらしい言葉を使わせてもらうとすると、それは「異次元の美味しさ」とでも表現しておこう。異次元の美味しさというものをどのように捉えるか、これは読者の皆さんそれぞれの想像にお任せしたい。


未知の魚と国内の水産業

トクビレは12月から2月までの寒い冬の3カ月間が年間の中で一番脂がのっていて美味しいということだが、これだけ質の良い脂を持っている魚なので、その時期外れでもそれなりに美味しいということである。しかし、この魚はやはり地域性が強く、東北から北の地域は別としてもそれ以外の地域では簡単に売れない魚だと考えられる。

トクビレが漁獲される北海道近辺の魚の中には、FISH FOOD TIMES で採りあげたことのない魚がまだ幾つも存在しているが、冒頭に記したように筆者は北に棲息する魚のことについてはからっきしダメであり、実際のところ魚を見ても名前が分からないことが多いのである。

例えば、自分で写真を撮り、自分で扱った、以下のトクビレと同じ縦扁型の魚の画像である。上の魚はカジカということなのだが、これは実際のところ「何カジカ」なのかが自分では明確に判断できず、推測でシモフリカジカだろうと見ているのだが、どこでどう違いを判断するのか自分では分かっていない。

カジカ

アイナメ

そして上の下画像も自分で撮った写真であるが、この魚はアイナメと言われて、筆者が昔から知っているアイナメとは姿形が微妙に違っていて知識に混乱を生じるのだ。実はこれも北海道に多いエゾアイナメという種類らしい。

これら二つの魚も、そのうちにFISH FOOD TIMES のテーマとして採りあげたいとは思っているが、これらの魚について筆者の知識に広がりがなく、記事の内容をどのようにして面白いものにするかを考えると、そのことになかなか踏み切れないでいる。

例えば、アイナメについては画像のエゾアイナメではなく、筆者が知っている本アイナメを扱いたいと思っているが、昔から西日本及び九州にたくさん棲息していたアイナメは、今時そう簡単には手に入らなくなっているのだ。魚の購入で世話になっている魚屋さんに「アイナメがほしい」と伝えても、了解しましたと応えてくれるだけで、入荷しましたとの連絡はないことが続いて、とうとう諦めてしまったことがある。

鮮魚の扱いでは相当な力があることで評価の高い店でこうだから、そういう力を持ち合わせていない店では最初からアイナメの入荷は無理だと断られるのが落ちであろう。このことは、アイナメの資源枯渇が原因なのか、それとも漁師さんの意欲の問題なのか、その辺のことはよく分からないが、日本の沿岸漁業が昔とは様変わりしてきているのを肌で感じるものがある。

このところ1ドル140円台の円安状況が続いているが、この円安の流れはこのまま定着すると考えられ、昔のような円高で外国産の魚をどんどん仕入れて売るという時代ではなくなっていくと思われる。時代がこのように変化してきている時、沿岸漁業を始めとする国内水産業が再び隆盛となるよう、改めて我々水産関係者は力を注いでいくべきではないかと思う。

今月号で扱ったトクビレに限らず、アイナメも日本近海に数多く棲息している魚ではないかもしれないが、これらは需要と供給の関係で言えば、これまでは漁師さんが価格面で漁獲と供給に力を入れる意欲を無くしてしまっていただけかもしれないのである。この他に、未利用魚と呼ばれている取り引き価格が低迷していて、漁船では採れた側から捨てられている魚も多数存在している。

これまで我々は外国の安い魚ばかりに目がいって、国内水産業を本気で育てようとしてこなかったという側面は否定しがたいものがある。この点、我々水産小売関係者は反省すべき点は反省し、もう一度国内の水産業の発展に目を向け直さなければならないのではないか、と思う今日この頃である。


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更新日時 令和 4年 12月 1日