SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
https://secure02.blue.shared-server.net/www.fish-food.co.jp/ |
ようこそ FISH FOOD TIMES へ
鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ
令和 5年 1月号 229
ミニマム刺身盛り合わせ
輸入魚・冷凍魚・養殖魚の価格高騰に悩まされた
随分前のことで申し訳ないが、筆者が「ミニマム刺身盛り合わせ」という言葉を造語し、初めて使用したのはちょうど30年前の1992年(平成4年)FISH FOOD TIMES(紙版)2月号でのことだった。この巻頭画像のミニマム刺身盛り合わせはその当時のものではなく、8年前の2014年6月に筆者が作成したものなので、これは30年前のものと比べると比較的新しい(?)と言えないこともないだろう。新年の1月号でこういう新鮮味のない画像を巻頭に持ってくることに、自分の気持ちとして躊躇がないわけではなかったが、今月号のテーマを象徴するものとして敢えて最初に持ってきた。
昨年から続いている諸物価の値上げラッシュは水産物も例外ではなく、仕入れ原価が高くなった水産物の影響を受けた魚売場は値入率の確保に苦心することになり、荒利益率を下げてしまった店も少なくないようである。そこで、荒利益率ダウンを避けるにはどうすれば良いのか水産担当者の皆さんはそれぞれ頭を使って対処されていると思われるが、30年前のことを温故知新と表現をするのはあまりに大袈裟だとしても、少なくとも何十年か前のアイデアを思い出して活用するということは、現今の環境にあっては多少役に立つかもしれないと考えた。
12月20日(火)に日銀が金融緩和政策の一部見直しを発表したことで、円安の状況は多少円高状況に転じ、12月下旬は1ドル133円前後になっているけれど、今後米国FRBが更なる利上げ発表をすれば再び円安になるかもしれない。だが水産物の値上げはこのような円安の影響だけに留まらず、ウクライナ戦争など世界情勢が複雑に絡み合った結果なので、仮に多少円高の状況に戻るとしても水産物の価格がそのまま直ぐに安い価格で手に入るようになるとは思われず、当面は現時点の高い水産物の仕入れ価格を受け入れた状況で魚売場を運営していかなければならないと覚悟をしていた方が良いと思われる。
実は昨年の後半、筆者は魚売場の運営責任者が荒利益率の確保にとても苦労しているということを象徴的に表している出来事に遭遇した。それは、筆者のある指導先で生じたことであり、大きなショックを受けた。具体的な企業名と店名は伏せておくが、筆者がその店の水産部門改善指導をして9年目であり、その会社の社長と筆者の考え方は付加価値路線という方向性で一致し、その方向性を揺らぎなくコツコツと積み上げてきた結果、魚売場の評価は順調に高まることになっていた。特に生本マグロを活用した鮨と刺身の品揃えは他社がなかなか思うように扱っていく術を持たない中で、その店の特徴を示す独壇場として大きな差別化の武器となっていたのである。
ところが・・・、である。その店の強い武器として存在していた生本マグロを使うべき一部の定番商品は、解凍のバチマグロやキハダマグロに切り替えられていたのだ。それだけではなく、生本マグロの大トロなどの部位を使い切れない時、それらを超低温ストッカーに入れ込み、それを少しずつ取り出して解凍し、なんとそれを「生本マグロ」と称して商品化をおこなっていたのである。このような耳にしたくもない、あってはならない事実を知って、筆者は「それは、違うだろう・・・」と言わざるを得ない、大きな衝撃を受けたのだった。
その店の水産部門は、前年度に部門経常利益の伸び率でトップとなり、社長表彰を受けていたほど順調な業績を誇っていたのに、そういうことをするほど利益面で追い込まれていたのだった。全国のスーパーの水産部門の中には部門経常利益などはかつて一度も出したことがないという店も多い中で、毎年当たり前のように経常利益を出し続けてきたこの店の水産部門は、前年以上の経常利益をだすためのハードルがどんどん高くなっていたに違いない。
そして2022年に生じた水産物だけではなく関連する資材なども含めた全般的な仕入れ価格の値上げは、部門の値入率と荒利益率の維持を難しくさせていったようだ。そして追い打ちをかけるように、競合店が改装オープンしたことで客数減となり、水産部門の責任者はますます追い込まれ、絶対にやってはいけないことに手を出したのだと推測している。
そういう小手先でお客様を誤魔化すようなことをやって魚売場はどうなったかと言えば、競合店の改装オープンで影響を受けていた店の売上は、精肉や青果がほぼ3ヶ月で売上前年比100%に戻る中、水産部門だけが95%と低迷したまま他部門に置いていかれたのだ。何故そんな数字になったのかを考えてみると、たぶん客離れ現象を起こしてしまったのだと思われる。つまりこの店の魚売場のファンである固定客ほど生本マグロを使った鮨や刺身の商品グレードを良く知っていて、そういうお客様の頭の中には舌の感覚イメージが形成されているのであり、何度もそういう商品を購入したことのあるリピーターほど「何? これ・・・、今までのと違う・・・」と感じていたのではないだろうか。こういう今までの商品とのギャップを感じたお客様は少なくないはずであり、そのギャップが大きければ大きいほど落胆の度合いも大きく、その中の少なからずのお客様が「もうこの店では買わない」という反応につながってもおかしくないのである。
筆者が思い出したのは「信用を築き上げるには何年何十年とかかるが、信用を失うのは一瞬である」という商売訓だった。上記した一連の出来事は、目先の利益を追うためにお客様を騙したりすると、そのしっぺ返しも大きくなるという典型例であり、本来のあるべき姿に戻す努力は早急にしなければならないとしても、お客様が元のような購入姿勢を見せてくれるまでどの位の期間が必要なのか、これからの数字を見ていくしかないと思っている。
変化適応
こういうことに遭遇し、あらためて2022年に生じた諸物価の値上がりが商売に大きな影響を及ぼしていることを痛感させられた。全国の店の中には、仕入れ価格の値上がりをそのまま売価に転嫁できる店と、売価を値上げすることが出来ず利益低減に結びついてしまう店とがあり、こういう環境変化にどう対応していくのか、今は商売人としての力量が問われていると言っても過言ではないだろう。
「小売業とは変化適応業である」と述べていたのは、確かダイエーを創業した故中内功氏だったと筆者は記憶している。世界的な観点で見ても、2020年当初から世界を混乱に陥れた新型コロナウイルスに始まり、2022年にはウクライナ戦争などもあって、この3年ほどの期間は歴史の転換点とも言えるほど、世の中は大きく変化してきたと思うが、そういう大きな環境変化に対して我々はどのように対処していかなければならないのか、2023年は色々な意味で個々の対応が問われている。
2022年のFISH FOOD TIMESでは、7月号(No.223)と8月号(No.224)で旬鮮刺身盛り合わせをテーマとして扱っていたが、これは水産部門が水産物の仕入れ原価高騰に対処する一つの方法として有効だと考えたからである。その考え方と方法についてはそこで詳しく述べているので、読者の皆さんは出来ればそこにアクセスし参考にしてほしい。
そして、もう一つの方法として提案したいのは、今月号で採りあげたミニマム刺身盛り合わせである。2022年のFISH FOOD TIMES7月号(No.223)では、この二つの方法がドッキングした「旬鮮ミニマム刺身盛り合わせ」というのも提案していたけれど、今月号ではミニマムという考えの方に焦点を当てて記事を進めてみたい。
上記しているようにミニマム刺身というテーマは、30年前の 1992年(平成4年)2月号 の紙版で採り上げていたので、Web版では敢えてテーマとすることを避けていたのである。しかし2022年の大きな環境変化に否応なく巻き込まれてしまうことになったことで、その苦境を脱出するにはどんな方法があるかを手探りしていくと、もう一つミニマム刺身盛り合わせという手法もあるではないかと気づいたのである。
以下はスキャン画像なので、文字が鮮明ではなく読みにくいとは思うが、拡大すれば全く読めないことはなく、これを読めば当時の筆者がどういう思いでこれを提案していたのか、多少は理解してもらえるのではないかと思う。
ここに記している文章はもちろん筆者の手によるものだが、この考え方がそのまま100%同じというわけではなく、部分的に変化しているものもあるけれど骨子としては大きく変わらない。
発想の原点は「色々な刺身を少しずつ賞味したい」というニーズに応えることを目的としたものであり、その中身は30年後の現在となって、少しは変わらざるを得ないものがあると思われる。それは、昨年から急激な形で高騰してきた輸入魚・冷凍魚・養殖魚を主な材料としてきた水産物による売上維持と利益確保の難しさを我々は突きつけられており、この局面を打開するためには発想を転換する必要性に迫られているからである。
例えば以下の画像は「色々な刺身を少しずつ」盛りつけた10点盛りのミニマム刺身盛り合わせである。この商品を A としよう。
この中に一つだけ天然魚が盛りつけられているけれど、その他はすべて輸入魚・解凍魚・養殖魚ばかりであり、養殖生本マグロの大トロ・中トロ・赤身を2切れずつ中心的な位置づけとして使っている豪華な刺身盛り合わせである。この画像に使用している魚は1年以上前の頃からすると仕入れ原価がほとんど上昇しており、この作品をつくった2016年8月の当時と比較して、これと同じものを今作ればその時よりも売価を上げなければ十分な値入率を確保できないことは明らかである。原価が上昇した分をそのまま売価に上乗せして必要な値入率を確保しても問題なく売れていく店であればあまり苦労しないと思うが、まあ全国の大半の店が売価を上げた途端に売れゆきに影響するというのが一般的であろう。
そして、下の画像は18年前の2004年6月に作成したものであり、これを作るのは筆者の本音としてあまり望むところではなかったけれど、いかに安い原価と売価のミニマム刺身盛り合わせを作ることができるかという目的があったと記憶している。そのために、マグロは解凍バチマグロ、サーモンは解凍トラウト、ヤリイカは輸入解凍もの、そして当時はまだ安かった輸入の湯ダコ、さらに安い解凍甘エビなどを使用し、カンパチは薄く切った平造り、マダイは薄造りで重量を抑え、ホタテ貝柱は一つを三つ割りにしている。最後にアジは豆アジという安い魚を使って半身分を盛りつけている。
この9点盛りミニマム刺身盛り合わせは、上の A の9点盛りと比較すると魅力がないのは明らかであり、敢えて画像も小さく表示している。この商品は B とする。
そして次は巻頭画像の9点盛りミニマム刺身盛り合わせである。下画像の商品は C としたい。
この C の中身を左上から右へ順に説明すると、先ず春から初夏にかけて安くなる天然鯛。次は天然ヨコワの赤身、次に天然ヒラスの幼魚であるヒラゴ。二段目の左端からイシガキダイ、天然ヨコワ中トロ、生アトランサーモン。三段目は左からヤスミ(メナダ)、次にヤリイカ三段ものを四分の一、最後は中アジ3切れの順である。基本的に天然で手に入らないのは生サーモンのみであり、ヨコワが手に入らない時は天然バチマグロ中トロに替えるとして、それもなければ最終的に養殖本マグロ中トロの選択もあるが、方向性としてはいかにして天然魚を多くするかを工夫している。
上の A,B,C の3画像を比較してほしい。現在の自店仕入れ原価を当てはめ、そこから必要な値入率を前提に売価を導き出し、その結果としてどの商品が一番売れて利益が残せる可能性が高いかをシミュレーションしてほしいのである。ただし、天然魚については相場ものなので経験値で当てはめてもらうしかない。2022年のFISH FOOD TIMES 7月号(No.223)と8月号(No.224)では、表を使って刺身の原価計算をしていたけれど、今回は読者の皆さんがあの時の同じようなフォーマットを活用し、自分で計算してみることをお勧めしたい。計算をしてみてトータルバランスとして A,B,C のどれが売れそうかを推測してみてほしいのである。
国内鮮魚を見直すことが鍵
A,B,C を比較してみて、どういう結果になったであろうか。たぶんAは必要な値入率を確保すると売価が一番高くなって売りづらいだろう。そして、BはAよりも売価は安くなるかもしれないが、内容の点で積極的な売り込みは気乗りしないというのが筆者の気持ちである。やはり何と言っても、筆者が力を入れたいのは C である。この C であれば、やり方一つで色々と面白いことが出来そうな気がするし、その可能性はあるはずだと考える。
ところが、たぶん反論として出てきそうなのが「そういう安い天然魚はどこから仕入れてくるのか、いったいどこにあるのか」という主旨の発言と思われる。確かに普通のスーパーで一般的に見られる魚売場では、天然魚の存在が影を潜めるように希薄となっていて、輸入魚・冷凍魚・養殖魚を使った商品ばかり目立つのが普通の姿である。こうなってしまったのは、たぶん魚を販売してきたスーパーの水産部門が運営方法そのものをこういう姿へと意識的な形で変えていったからだと考えられる。こういう傾向が強まるごとに水産部門の店内売上構成比は下がり続け、今や惣菜部門にも売上は追い抜かれて全国平均は9%未満だというのだから情けないものだ。
天然生魚の扱いに力を入れなくなったスーパーの水産部門の間隙を突くようにして、天然生魚の扱いに力を入れているのが全国各地の居酒屋チェーンや回転寿司チェーンなどの外食企業であり、今もその方向性には並々ならぬ力の入れようを感じられ、天然生魚の取り扱いについてはスーパー水産部門のお株を奪い取ってしまったような勢いを感じる。
筆者のような立場からすると、こういう現状は本当に情けなく悔しくてたまらない。この現実をそのまま放置しておけば、ますます水産部門は生鮮部門の重要な位置づけから追いやられ、その存在感はどんどん薄まっていくであろうことが予想され、その危機感を感じざるを得ない。しかし筆者のような危機感を抱いている人がスーパー業界にどれだけ存在しているのだろうかという疑問もある。スーパーの水産部門が2022年に留まらず今年も引き続き売上や利益を下げ続けることになっていくと、スーパー経営者がそのことに業を煮やし「これから先、別に魚売場はなくても良いのではないか」といった極論に走るようなことがないことを願うばかりである。
筆者のこれまでの経験からして間違いなく言えることは「国内鮮魚の扱いに長けている魚売場はお客様からの評価も高く業績も好調」という紛れもない事実である。筆者が関係するある企業では「どんなに高い仕入れ価格の鮮魚が入ってきても何ら怖くない」と豪語する魚売場がある。何故そんなことが言えるのかと言えば、その魚売場は刺身と鮨が非常に良く売れるからであり、その店の刺身や鮨の中には積極的な姿勢で仕入れられた鮮魚がしっかりと組み込まれて商品化されており、そのことによって毎日商品の中身が変化し、お客様を飽きさせない魅力ある刺身や鮨が販売されていく仕組みが出来ているからなのである。
店内の売上構成比を下げ続ける水産部門を抱えるスーパーは、ちょうどそれとは逆に鮮魚の仕入れが希薄となって存在感がなく、刺身や鮨は養殖魚や解凍魚ばかりを使った毎日同じ顔ぶれの定番商品ばかりなので、お客様からの評価も低く売上が上がることはないのだ。つまり、もし会社として水産部門の売上改善を望むのであれば、国内鮮魚の取り扱いを見直して、そこに力を入れることで頭打ち業績の突破口を開く鍵が見つかるのだ。
スーパーの経営者や営業責任者がその方向性に納得できるのであれば、改めて全国の産地漁港やそこの水産関係者と結びつきを強め、そこから鮮魚の仕入れを強化して魚売場を変えていかなければならない。しかし絶対にやってほしくないのは、商品部長や水産バイヤーが勘違いをして、仕入れてやるという上から目線の取り引き姿勢を持つことである。今やこういう環境に至っては、ある意味「仕入れをさせてください」というお願いの方が正しいのかもしれない。なぜなら現在の沿岸漁業は高齢化が進み、世代交代の人材も不足して、日本の沿岸漁業そのものが衰退し、思うように漁獲を上げられないという現実があるからである。つまり、鮮魚がこれだけほしいと伝えても、必要なだけ渡してくれるとは限らないのである。
沿岸漁業を衰退化させた遠因の一つには、スーパーの魚売場の在り方が鮮魚を敬遠して、外国産の輸入魚や冷凍魚などの方に力を入れ、外国産の魚の販売の方を重視してきたことも挙げられると思う。沿岸漁業は歴史的に魚食の特徴を持つ日本の食文化の根幹を支えてきた産業であり、日本らしさを保つためには決して衰退させてはならない産業である。そのことを支えるための一翼を担うのは、スーパーの水産部門もその一つであるという意識を持ってほしいものであり、そのために必要な行動を示してほしいと筆者は考える。
沿岸漁業の生産力復興に協力していこう
衰退を続けているスーパーの魚売場が再び活性化して魅力を取り戻すためには、国内鮮魚の扱いが肝になるということを上記してきたが、その国内鮮魚を豊富に扱うためには沿岸漁業の復興も大事なことである。
日本の漁業生産量の実態は、以下の図のようになると農水省は発表している。
このグラフを見ると、遠洋漁業や沖合漁業の生産量が極端に減少したなかで、沿岸漁業は大きな変化がないようにも見えるが、生産量そのものは年々漸減しているのが見て取れる。沿岸漁業生産量の減少の要因としては、海洋環境の変化も大きく影響していると考えられており、具体的には磯焼けの発生による藻場の減少や沿岸開発による水産生物の減少、そして稚魚育成適地の減少などが挙げられている。
その幾つかの要因の中で、特に藻場の減少について言及してみたい。日本はかつての高度成長期に沿岸域の開発などが盛んとなり、そのことによって藻場が大幅に減少した。その原因となったのは、まず沿岸の埋立であり、そして工業廃水による海水の透明度低下、さらに化学物質の流入などが挙げられ、瀬戸内海では30年間で藻場の一つであるアマモ場が7割も減少したということである。藻場は多くの水生生物の生活を支え、産卵や幼魚仔魚に成育の場を提供し、水中の有機物を分解し、栄養塩類や炭酸ガスを吸収し、酸素を供給するなど海水の浄化に大きな役割を果たしていて、陸地を囲むように繁茂する海の森である藻場の存在がなかったら、豊かな水産資源の恩恵を享受することはできないのだ。
その藻場は、アマモ場、アラメ・カジメ場、ガラモ場、コンブ場に分けられ、沿岸域には海域や水深、底質によって異なる様々なタイプの藻場が立体的に存在している。ところが全国各地で大きな問題となっているのが、藻場の海藻を食べる魚であるイスズミやアイゴ、そしてウニなどが増えすぎて生態系バランスが崩れ、藻場の消失をまねく「磯焼け」という現象である。なかでもウニの食害による磯焼けは沿岸漁業の生産量衰退の大きな原因の一つとなっている。
ところが朗報がある。この磯焼けの原因の一つであるウニの食害に画期的な対策が考案され、これがビジネスとして軌道に乗りつつあるようなのだ。その一つは2017年に株式会社大分うにファームの代表である栗林正秀氏が磯焼けの原因となるウニを畜養するノウハウを持つ会社であるウニノミクスのことを知り、ウニノミクスをパートナーとして、株式会社大分うにファームを2019年に設立した。そして藻場を食い尽くして身が空になったムラサキウニを、食用昆布の端切れを使った旨味成分たっぷりの独自の餌で10週間陸上畜養によって育て、その結果ムラサキウニがまるで赤ウニのように美味しいウニへと成長させることに成功させ、世界初のウニ畜養ビジネスがスタートしたということだ。
その成功を踏まえ、今度は山口県長門市で水産加工会社のマルヤマ水産が同じウニノミクスと協業して、世界最大規模の閉鎖循環式陸上養殖システムを使って本格的なウニ畜養事業を2022年11月から開始したととのことである。またこれだけではなく、2018年頃から廃棄する前のキャベツを使ってウニを育てた横浜丸魚と神奈川県水産技術センターとの共同プロジェクトで生産された「キャベツウニ」と命名されたウニや、小田原漁協、青森県、宮城県、広島県などでも同じような取り組みが開始されているようである。
このような取り組みや事業化に筆者は高い関心を持って注視している。それは磯焼け対策に有効だということはもちろん最大の魅力だが、それだけでなく高級水産物の国産ウニが生の状態で手に入り、しかも美味しいとなると、これはまさに一石二鳥の快挙だと評価できるからである。
国産のウニ生産量は全国で7,000トン前後、輸入量は10,000トン前後のようだが、上の表で直近の生ウニ価格が発表されているように、生ウニは価格が非常に高く、比較的安価な輸入ウニはミョウバンで処理されていて、独特の臭いと渋みや苦みが生じて不味いという側面がある。もしウニの畜養事業が軌道に乗ることになって「美味しくて手頃な価格の国産生ウニ」が手に入るようになれば、嬉しいと思うのは筆者だけでなく水産業界の関係者は心から望んでいることだろうと思う。
このように、国産生ウニが畜養事業で生産拡大することを歓迎するのはもちろんだが、筆者が注目しているのはそのことよりも、この事業が軌道に乗って磯焼けの原因であるウニの食害が低減し、沿岸魚の生活の場である藻場が日本全国で森のごとく大きく復活し、沿岸漁業が昔のように復興していくきっかけになる可能性の方である。
さて、そろそろ今月号もまとめに入ることにしよう。上記してきたように、魚売場が再び存在感を示すようになるためには「国産の新鮮な生魚が豊富に手に入るようになることが重要」だと筆者は考えている。その鍵は「沿岸漁業の復興」であり、我々水産物を販売することを生業としている関係者は、そのために出来ることを自ら進んで協力していかなければならないのである。
生産者と販売者、売り手と買い手のどちらが儲かるかなど、狭隘な心で利益を奪い合う関係ではなく、お互いが協力して日本の魚食文化を守っていかなければならないと考える。最後に、近江商人の商いの神髄である「三方良し」の言葉を記して、今月号は終わりにしたい。
三方良し「売り手に良し、買い手に良し、世間に良し」
SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
https://secure02.blue.shared-server.net/www.fish-food.co.jp/ |
水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
このホームページへのご意見やご連絡は info@fish food times
更新日時 令和 5年 1月 1日