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令和 5年 4月号  232

サメ

シロザメ刺身&湯引き


長く待ち焦がれていたラウンドのサメ

まだ見ぬ恋人を待つように、魚売場でいつかは出会いたいと思っていた魚に出会うことが出来た。それも、抜群の鮮度ながらも飛びっ切りの格安価格で手に入ったのだ。

それがこれである。

サメ

サメ

魚名はシロザメ。ドチザメ科ホシザメ属に属していて、これに良く似たホシザメは表面に白い斑紋があるけれど、シロザメにはそれがないことで区別できる。

FISH FOOD TIMES のWeb版はもうすぐ20周年を迎えることになるが、いつかそのうちに必ずサメをテーマとして扱ってみたいと思い続けてきた。そしてそのために、こんな本も以前から準備していた。

サメ

一つは2015年発行のサメガイドブック(第14刷)で、アンドレア&アントネッラ・フェッラーリ夫妻共著の本、二つ目は2018年発行のサメ図鑑(第3刷)であり、シャークジャーナリストの沼口麻子氏が著されたサメに特化した本である。

本を購入してから何年も経ってやっと日の目を見る場面が来たぞ・・・、これらの本に書かれているサメの知識を色々と引用させてもらうことにしたい。・・・そう思ったのだが、残念ながらドチザメ科ホシザメ属シロザメに関する記述は、これらのサメ類の専門分野に特化した本でさえ、ほんの一行たりとも記述はなかったのだ。

シロザメについての記述はどちらの本にもなかったが、シロザメが属するホシザメ属についてはサメガイドブックに記述があった。それによると、ホシザメ属には約20種がいて、回遊性でサメとしては小さな体である。肉が美味しいことから漁獲圧力が高く、世界各地で大量に捕獲されているため、種の維持保存が懸念されているとのことである。またホシザメ属の特徴の一つは、底生の軟体類や甲殻類を捕食するために都合よく出来ている「モザイク状の歯並び」だということだ。

以下の左画像は筆者が撮影したシロザメの歯並びで、右はサメガイドブックの中に掲載されているメジロザメの歯並びであり、シロザメの歯はメジロザメのそれと比べると、なんとまあ可愛いものだ。

サメ    

サメ類はおよそ4億年前に誕生し、魚類で最大のジンベイザメから、手に平サイズのツラナガコビトザメに至るまで、世界で509種が確認されていて、それらは非常に多様性に富み、まだ分からないことだらけのミステリアスな存在ということである。

筆者はそのミステリアスなサメの奥深い知識を持つ専門家の情報を活用させてもらいながら、一人の水産物販売関係者として、魚売場で販売されているサメを美味しく食べるにはどうすれば良いかに焦点を絞り、以下に記述を進めていきたいと思う。


サメの食文化

もしかして、読者の中にはまだサメを一度も口にしたことがない、という方がいらっしゃるかもしれないと下手な想像をしているが、実際どうなのだろう。筆者が在住する福岡地方を含む九州地方には、昔からモダマという食べ物がある。これはシロザメやホシザメなどの小型サメを湯引きした商品であり、昔から普通に魚売場で売られているのを購入し食べてきた。このモダマのように湯引きしたのは別として、サメを生の刺身で何の抵抗もなく普通に食べてきたという話は、筆者が居住してきた地域であまり聞いたことがないし、自分自身もこれまでの食生活のなかでそういうことはなかった。

しかし日本において、サメは東北地方で最も多く食べられていて、実は刺身を始めとして、煮物、焼き物、汁物など、昔から様々な料理で食べられてきたのである。この他に中国地方でもその食習慣があるけれど、日本列島の中央に当たる地域では全くその食習慣がないということだ。

以下は、香川大学の畝 五月教授が就実論叢という学会誌に発表された資料による情報である。

 

上の図は、就実論叢誌の中で畝教授が発表されている資料である。これによると、広島県の山間部に位置する庄原や三次の地方では昔からサメを刺身で食べてきた歴史があり、中国山地沿いの広島県庄原や三次(ミヨシ)では、サメを「ワニ」と称して、コールドチェーンなどの仕組みが存在しない古い時代から、サメを主に刺身にして食べてきたとのことだ。

山間部でサメの刺身を食することが可能だったのは、サメは腐敗するのが遅いからだ。サメの体内にはトリメチルアミンオキシドと尿素を非常に高い濃度で含有していて、鮮度が低下するとこれらはトリメチルアミンとアンモニアに変化する。この現象によって、サメは鮮度低下が原因で腐敗するのが遅くなり、常温での保存性が高まることになるのだ。それは何と漁獲から2週間経っても冷蔵しない状態で腐敗しないことも有り得るとのことであり、サメを刺身などで生食することが可能となっていたのである。

サメの尿素とアンモニア

尿素とアンモニアはサメの一大特徴となっている。タイやマグロなど一般的な魚は硬骨魚類と呼ばれ、その中の海水魚は自分の体よりも海の塩分濃度が濃いため、何もしないと浸透圧作用で体内の水分が抜けていってしまう。このため水分が抜けてしまわないように、水を飲んだり、尿をだしたりすることで体内の塩分濃度を維持している。

いっぽうサメなど軟骨魚類は、硬骨魚類とは違う方法で体内の塩分濃度を維持している。軟骨魚類は体の中に硬骨魚類の2,000倍も存在している尿素を活用することで、海水と同じくらいの体液や血液を作り出している。このため浸透圧による濃度調節の必要がなく、軟骨魚類はほとんど水を飲まないとも言われている。 他にも尿素にはメリットがあり、それはサメなどの軟骨魚類は浮き袋を持っていないが、海水よりも比重の軽い尿素があることで、浮き袋がなくても水に浮きやすいのである。浮き袋がないということは、水圧の変化にも強いことになり、サメは浅い海と深い海を自由に行き来して索餌活動をすることも可能なのである。

 

中国地方における昔からのサメの食習慣は、特に岡山県と広島県の県北部が中心である。昔山陰で漁獲されていたサメは、ヒレを清にフカヒレ用として輸出するために除去した後、残りの肉は用のない不要なものとして捨てていたらしい。しかし、その廃棄されていたサメ肉に目を付けた行商人が中国地方の山村へと運搬して販売するようになった。これは山間村においては無塩(ブエン)の生の鮮魚への憧れがあったからであり、こうして塩をしていないサメはハレ食として食べられるようになった。このことは、サメという腐敗しにくい生魚が行商人によって運搬され、帰り荷として山間部で収穫された米などの農産物を沿岸部に運搬するという商業の営みから実現していたのである。

このように、サメは保存性があるために長時間の輸送に耐え、時間が経過しても生での食用が可能ではあるのだが、その日持ちとは裏腹に日数経過に伴いアンモニア臭がする。しかし、このアンモニア臭の強力さがかえって食欲を誘うとも言われ、生姜醤油につけたり、あるいは臭い除去のために湯引きにする例もある。

いっぽう、東北地方では中国地方のような内陸部のみならず漁獲地の沿岸部でもサメは利用されているが、調理法は加熱調理法(煮物、焼き物、汁物)が多数を占める。もちろん生の調理例もあり、これらの地域の生食は刺身の他に、酢味噌和え、鱠(ナマス)などである。加熱したサメ料理の方が多い理由として、東北地方ではハレ食にサメの煮物(焼いたものを煮る場合も含む)が使用されることが関係するのかもしれないとのことだ。

東北地方でサメ肉消費量日本一と言われているのが新潟県上越地域がある。やはり、この地域もサメ肉を食べる食習慣が根付いたのは中国地方と似たような理由があるようだが、主な食べ方が生の刺身よりも煮物や煮こごり、そして雑煮などに幅広く活用され、サメ肉がないと正月を迎えられないと言われるほどの存在ということだ。


シロザメの商品化

このように、サメを昔からよく食べてきた地域がある一方、長く魚を販売する仕事に従事してきていても、地域的にはサメがラウンドで店に入荷することはほぼないので触ったこともない、という水産物販売関係者が少なからず存在することを筆者は職業柄から知り得ている。

これは需要と供給の関係で、サメの需要がない地域にサメは供給されないのだから、こういうことは当然ながら生じることになる。筆者もモダマは食べたことはあっても、サメを解体して刺身を作るという環境の店で働いたことはないので、サメには縁が薄い人間の一人である。このため、サメとの接触濃度が濃い人からすると、今月号は物足りないというよりも読むに値しない内容となるのかもしれない。だが、サメ料理とは縁が薄い人には新しい発見もあるのではないかとの思いでサメの記述を進めていきたいと思う。

シロザメは以下のようにして解体した。

シロザメの腹出しまでの工程
サメ サメ
1,第一背ビレを除去する。 5,逆手包丁でアゴの付け根まで切り進める。
サメ サメ
2,第二背ビレ、胸ビレ、尻ビレ、腹ビレなど、ヒレの全てを除去。 6,大きな肝臓を取り出す。
サメ サメ
3,尾ビレを除去。 7,肝臓を分離した状態。
サメ サメ
4,肛門から逆手包丁で切り込みを入れる。 8,内臓を除去した状態。

 

次は三枚おろしの工程。

シロザメの三枚おろし工程
サメ サメ
1,頭部を除去する。 6,中骨の下に切り込みを入れ、下身と中骨の間を切り開く。
サメ サメ
2,上身の尻ビレの際を尾ビレ方向に切り開く。包丁は肛門の切り口から逆手包丁にして、皮の裏側から切り進める。 7,中骨の両側を切り開き、皮と中骨の間の肉だけがつながっている状態。
サメ サメ
3,中骨の上を切り開きながら、頭部側へ切り進める。 8,尾部側の中骨の下に切り込みを入れ、中骨を持ち上げながら頭部側に向けて切り離していく。
サメ サメ
4,皮の寸前まで切り開く。 9,中骨を切り離した上身と下身の間に沿って、二つに分離する。
サメ サメ
5,上身側の中骨の上を切り開いた状態。 10,三枚におろした上身側の身。

 

上の作業工程を見て、三枚おろしの作業をなぜ普通にブリやタイのような方法でやらないのかと不思議に思った方もいらっしゃるのではないかと思う。

その理由は「包丁のため」なのである。実はこの時、上の工程1と工程2の作業を少しだけおこなっただけで、良く切れる出刃包丁が「あまり切れ味の良くない包丁」に変化してしまったのである。これは鮫の皮にある専門用語で「楯鱗(じゅんりん)」と呼ばれるウロコが原因なのだ。サメのウロコは、その構造や形成過程が歯と全く同じで、エナメル質に覆われており、硬くて「皮歯」とも呼ばれるほど、ものすごく硬いのである。楯鱗というウロコは、鱗の楯(たて)というよりも、全身を防御する鎧のようなもので覆われているので、ほんの数十pの皮を切っただけで出刃包丁1本の切れ味をひどく悪くしてしまったのだ。

本来は作業2の工程で尻ビレの際に切り込みを入れる時、本当は逆手包丁にして、皮の裏側から刃先を入れなければならなかったのだが、ついうっかりして普通の方法で刃先を歯のように硬いウロコがある皮側に当ててしまったのだ。つまり、普通の魚を解体するような方法を執ったら、包丁は万事休すとなるのである。

次に料理用途別に部位別カットをしていく工程に移っていこう。

シロザメの皮引きと部位別カット
サメ サメ
1,小さな細い腹骨を除去。 6,上身の尾部側を切身用に切り分ける。
サメ サメ
2,背ビレ下にある固めの筋肉部位を除去。 7,尾部側だけが切身にされた状態。
サメ サメ
3,腹部の端部を分離する。 8,皮目を上にした切身
サメ サメ
4,外引きで皮を除去。 9,頭部側は刺身や鮨に使うことを想定し、背身と腹身に分離する。
サメ サメ
5,皮を剥がした状態。 10,用途別に切り分けられた状態。

 

次はシロザメの湯引きを作る工程である。

シロザメの湯引き工程
サメ サメ
1,皮なしの身を一口大にカットする。 5,鍋から取り出して氷水に入れる。
サメ サメ
2,カットしたシロザメの身 6,軽く塩を振って、しっかり水気を取る。
サメ サメ
3,薄い塩水を沸騰させた湯に入れる。 7,上から辛子酢味噌をのせて完成。
サメ サメ
4,2〜3分間茹でる。 8,腹身の薄造り刺身とコラボした商品。

 

背身の方は以下の画像のように、にぎり鮨にしてみたがこれはとても美味しいと大好評であり、その表現としては「とても、サメとは思えないほど美味しい」とのことだが・・・、これをどう受け止めて良いやら。

サメ

最後にシロザメのムニエルを作ってみた。

シロザメのムニエル
サメ サメ
1,フライパンにバターを入れる。 4,裏表が適度な色合いになって火を止める。
サメ サメ
2,小麦粉をまぶしたシロザメの切身をフライパンに入れる。 5,皿に盛りつけてから、レモンバターソースをトッピングする。
サメ サメ
3,蓋を被せ、火が通るのを待つ。 シロザメのムニエルが完成。

 

実はこのムニエルも実に好評で、料理が暖かい内はもちろん、冷めてからの味もなかなか良くて、シロザメが持っている料理素材としてのレベルはとても高いものがあると感じたのだった。


サメの需要とその価格

こうして、シロザメを刺身、鮨、湯引き、ムニエルと色々な料理にしてみたが、使ったのは可食の肉部分だけであり、サメを余すところなく使用したとは言えない。サメというのは、以下の図にあるように魚体のほぼ全てを有効活用出来る優れた素材となる魚である。

 

しかし筆者は、ヒレも肝臓も骨も皮も、これら全てを捨ててしまった。全身を活用出来るサメを活かすためには、こんなことをしていてはいけないとは思うけれど、まあ時間をかけた「費用と効果」のバランスを考えると、こうならざるを得なかったと言い訳をしておこう。

実は、今回購入した約120pの長さのシロザメは、もともと店頭で1尾の売価は580円のシールが付けられていたのだ。筆者はその安さに惹きつけられたのではなく、ラウンドのサメを購入する機会に恵まれたことで「今日は店にやってきて良かった・・・!」と幸運を喜んでいたところ、親しくさせてもらっている馴染みの魚売場責任者は、そこから更に安い売価に値引きして私に渡してくれたのである。

このシロザメが幾らで仕入れられていたのか知らないが、その鮮度から推測すると叩き売りの処分価格ではないと推測され、あくまでも自分の想像でしかないが、たぶんそれほど高い仕入れ価格ではなかっただろう思われ、筆者がこのサメに出会えて喜んでいるのを見て、責任者の方は損をしないレベルの価格でサービスをしてくれたのだと判断している。

つまりこれも需要と供給の関係で言えば、福岡の地でサメというのはどんなに鮮度が良くても需要は高くない地域であることから、ラウンドのサメが鮮度の良い状態で店に入荷しても、あまり強気の価格設定は出来ず、結局はこういう価格レベルに落ち着くことになるのだと思われる。今回購入した鮮度の良いシロザメが広島県庄原市などの中国地方山間地に近い都市に入荷していたら、たぶんもっと高い価格で取引されていたかもしれないが、運悪くサメを高く評価してくれない福岡の地であったことで、こういう価格になってしまったのだ。

シロザメの実際の購入価格は伏せておくとして、巻頭画像の刺身と湯引きのコラボ商品は、資材費を除外した計算をすると約100円ほどにしかならないのだ。この刺身と一緒に盛りつけている湯引きは、これほどボリュームをつけなくても良いのだが、あまりに安いのでこれでもかと盛りつけてしまい、後で見た目に少し品がなくなってしまったと反省したのだった。

サメの価格は、日本でサメの取扱量が一番多い宮城県気仙沼魚市場の相場によって大きく左右される。以下の円グラフは気仙沼魚市場の発表資料であり、令和3年度は年間でサメ類が9,144トンも扱われている。

そして以下の表は、直近の令和5年3月27日の気仙沼市魚市場の発表資料である。

吉切と表示されているのがヨシキリザメであり、毛鹿と表示されているのはモウカザメ(ネズミザメ)である。この日の価格は、ヨシキリザメが264円〜190円/kg、モウカザメが194円〜139円/kgであり、この価格は同じような用途で似たような大きさのカジキ類などの10分の一程度で取り引きされていると見て良いだろう。

3月27日に気仙沼市魚市場に入荷したサメが刺身に出来る鮮度なのかどうか判断できないが、なんとも安いものである。こんなに安い魚は料理して不味いのかと言えば、全然そうではないのである。世の中でサメの料理と言えば「小便臭い」という表現が最悪であり、そのアンモニア臭が必要以上に誇張されていて、本当のサメの美味しさを知らないで、頭から毛嫌いしているだけだと思われる。

今回筆者が扱ったシロザメは漁獲されてから何日経過していたのか分からないけれど、調理をしていてアンモニアの臭いは全く無かったことを強く言っておきたい。そして、生の刺身も鮨もアンモニア臭は無くて、サバやイワシなど青魚の方が間違いなく魚臭いと感じた。つまり、サメは臭くて不味い魚ではないのだ。

日本でサメは捨てるところがないとして、昔から様々な形で活用されてきた歴史があるが、これを魚売場に置き換えてみると、一部地域を除いた日本全国の大半の地域では「鮮魚」として全く扱ってこなかったと言えるだろう。つまり、そういう意味では未利用魚の一つなのである。サメを原料として利用した蒲鉾、はんぺん、竹輪、さつま揚げなど、それらにサメが使われていることもあることを全く知らない人たちがいる。そういうサメを原料とした魚加工商品は普通に食べていても、「サメは臭いから食べたくない」という消費者に、サメという未利用魚を鮮魚の一つとして販売するのは間違いなく難しいと思う。

しかし、少なくとも魚を小売りする立場の人たちは、サメという魚を頭から毛嫌いするようなことはしない方が良いだろう。まだラウンドのサメを扱ったことがない人は、その仕入れ価格もあまり高くないはずだから、是非一度仕入れて商品化の実験をしてみてほしい。サメに対する偏見がなくなるかもしれない。


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更新日時 令和 5年 4月 1日