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令和 6年 2月号 242
活き締めホッケ料理
活き締め生ホッケ
活き締めの生ホッケが手に入った。キタノホッケ(シマホッケ)ではなく、マホッケである。
マホッケはカサゴ目アイナメ科ホッケ属に属しており、同じホッケ属の縦縞があるキタノホッケ(シマホッケ)とは区別されなければならない。しかしホッケ開きとして流通している干し魚は両者の違いを明確に表現していることはほとんどなく、マホッケの開き干しはキタノホッケのそれと比較すると少ない量しか存在しない。
両者の区別としては、マホッケの産卵期は冬の時期であり、キタノホッケの場合は夏に産卵するという大きな違いがあり、また生息地域もマホッケは北海道の近辺の海域が中心で、キタノホッケはアリューシャン列島からアラスカにかけての北太平洋海域である。
マホッケの漁獲量は1980年代に30万トン以上漁獲されていたが、1990年代に20万トン台となり、それ以降は以下のグラフのように推移している。
ホッケの産地としては95%以上が北海道で漁獲され、その他の地域ではほとんど獲れない魚である。鮮度落ちが非常に早いので、基本的に北海道以外で刺身や鮨で食べることはほとんどない。しかも、ホッケにはあの嫌われ者のアニサキスが存在していることが多いということで、ホッケの生食は「アニサキス中毒の危険性大」との注意が呼びかけられることが多く、強い調子でホッケを刺身や鮨で食することへの警鐘が打ち鳴らされているのである。
ホッケのアニサキス
アニサキスは時間が経過して鮮度が落ちると、魚の内臓から魚肉の方へ移動することから、鮮度の良い内に内臓を除去することが一番大事なのだが、鮮度の良いホッケが手に入るはずの北海道においてもアニサキス中毒は例外ではないようで、札幌市ホームページでは以下のグラフを示して市民に注意を喚起している。
アニサキスというのは非常に厄介な存在であり、刺身を販売するスーパーの魚売場や魚小売店など水産小売の関係業界は、この寄生虫の影響によってどれだけの売上損失を被っているか、相当膨大な金額になることは間違いない。昨今のアニサキス中毒事件の頻発は、魚の小売関係業界だけではなく生の魚を刺身や鮨で食べてきた伝統的食文化を誇る日本において「生食文化の崩壊」をも招きかねない由々しき事態となっているのである。
この問題について、FISH FOOD TIMES では平成26年10月号と令和3年10月号でも記事として採り上げていたが、まだこのことへの抜本的な対策は存在せず、アニサキスが混入する恐れのある生魚の刺身はリスク回避を理由に魚売場からどんどん姿を消しているという寂しい実態がある。
FISH FOOD TIMES の読者の皆さん方はよくご存じの通り、アニサキスを死滅させるには、60℃以上の温度で1分間以上加熱するか、マイナス20℃以下で24時間以上冷凍する方法があるが、このようなことをしていたら生魚の本来の美味しさは損なわれてしまう。筆者は長い間にわたり加熱や冷凍ではない方法でアニサキスを死滅させる方法はないものだろうかという思いを抱き続けていたところ、そのことが現時点では工場規模のレベルという条件であれば、それが可能だという情報を得たのである。今月号ではホッケのアニサキスに言及したついでに、以下にアニサキスを死滅させる新しく出現した装置のことについて、ほんの少しだけ簡単に言及してみたい。
パルスパワー
実は「日本の生食文化を守りたい|新アニサキス撃退法の社会実装へご支援を」 というクラウドファンディングがあったことから、筆者はそのことに多少なりとも力になればとの思いでほんの僅かな金額の寄付をした。それは昨年12月26日に募金活動が終了し、目標金額4,000千円に対して14,125千円の金額が集まったとのことである。日本ではアニサキス中毒に対して、その大きな金額が示すだけの高い関心があるということであり、その取り組みに日本中が注目している案件だと評価してもよさそうである。
この新アニサキス撃退法の社会実装への方法は、熊本大学産業ナノマテリアル研究所(熊本市)の浪平隆男准教授と福岡市の水産加工会社ジャパンシーフーズ社員鬼塚千波里さんらが共同研究したものである。それは、パルスパワーという雷のような瞬間的巨大電力を使って、魚に潜んでいるアニサキスを殺虫する方法を使った装置であり、これを具体的な形として社会に実現していこうという試みである。
そのプロトタイプ機は、冷塩水生成装置、パルス電源、処理槽の3つで構成されている。塩水で満たした処理槽の中に魚の身を浸し、パルス大電流を繰り返し印加して殺虫することで、例えば3キロの生アジフィレは約6分で処理できるそうである。
以下の画像を含む実験装置の説明図は、熊本大学産業ナノマテリアル研究所(熊本市)浪平隆男准教授とジャパンシーフーズ社員鬼塚千波里さんが発表された論文の中の一部資料である。
この装置での「感電」によるアニサキスを殺虫する方法を確立したことで、ノンフローズンの生食用刺身へのアニサキス食中毒リスクがゼロに近づいたとのことである。
筆者は今年の1月4日にクラウドファンディングサービス会社のREADY FORからメールを受け取った。そこに「博士論文公聴会 アジフィレへ潜むアニサキスのリスク排除を目指して研究開発を進めてこられましたジャパンシーフーズの鬼塚千波里さんが、学位取得過程の一環として公聴会へ臨みます。 鬼塚さんによる博士論文内容の発表及び参加者による質疑にて構成され、一般の方でも無料で参加可能ですので、ご興味のある方は是非ご参加ください」と記されていた。
筆者はその内容にとても興味があったので、公聴会が開催される1月22日(月)に熊本大学へと向かった。
上画像は公聴会の様子だが、筆者のような博士論文とは縁のない人間は一人だけだったようで、多少は門外漢の孤立感を感じたけれど、どうしても質問したいことがあったので、場違いだとは感じながらも最後の質疑応答では意を決して質問をした。
現時点においても、上画像のような相当大きな装置が必要とされているようだが、公聴会で発表の内容をよく聞いていくと、基本的にジャパンシーフーズのような食品メーカーや大手スーパーのプロセスセンターなど、工場で使えるような装置を今後更に大型化して効率化すること目指している方向性が感じられた。
だが筆者がこれまでアニサキス中毒で感じてきたことは、中毒事件が多発しているのはスーパーの魚売場や中小飲食店などが主な場所であり、そういう現場で使えるような小型機こそが必要とされているのであり、そのニーズを満たすような方向性での装置の開発計画はあるのかどうかを聞きたかったのである。
筆者の質問に対して、鬼塚氏はそういう計画がないこともないが検討中という表現であり、あまり積極的な取り組みの姿勢は感じられず、今は小型化よりも大型化によって何十倍も効率化できる装置を開発することによる成果を方向性として重視しているとの発言だった。そして鬼塚氏のそういう発言を補足するような形で、浪平隆男准教授が「小型機の必要性は感じているけれど、店などの現場では価格面でどの程度まで受け入れてもらえるか分からず、そのことが一番悩ましいところであり、これから関係する業界の方々に意見を頂戴し参考にしていきたい」という主旨の発言をされたのだった。
筆者の質問に関して、お二人の返答は小型機の必要性を感じて装置開発の計画はしているけれど、それはコスト面からすると工場用の大型機より更に実現するのは難しく簡単ではないことを理解してほしい、と発言されていると筆者は解釈し、それ以上の質問をすることはしなかった。
つまり、現段階では「大型機レベルでも、今後ブレークスルー的な展開が求められる」と鬼塚氏が発言されるくらいだから、小型機に関しては優先順位としてその後の順番だろうから、この先早い段階での大きな期待をすることは出来そうもないと筆者は感じたのだった。
それにしても、現時点でのパルスパワー装置を使い、雷のような大電力でアニサキスを死滅処理させたアジやサバなどの生魚は、いったいどの程度に身質が変化するのか、それともまったく変化はないのか、筆者の舌や目視など五感で感じ取る経験をしてみたいと思った。結局パルスパワー装置で処理したアジやサバは、魚売場の商品として販売する刺身や鮨の材料として実際に使えるのかどうか、その辺が一番気になるところなのである。
現在アニサキス対策の装置や器具としては、アニサキスが波長365nm付近の紫外線に反応して光るという現象を利用したブラックライトを使用する方法がある。しかしこれは家庭の台所で1尾や2尾のアジやサバを刺身にする時には有効かもしれないが、魚売場の作業場で桁違いの数の魚を扱う現場感覚からすると、これらはハッキリ言って使い物にならないのである。
出来ればというか、理想としては今時の魚売場が魚市場から仕入れる魚の平均的な箱単位である5kg前後の魚を、店の作業場に入荷した丸魚のまま、箱ごとパルスパワー装置の中に入れ、機械のボタンを押したら一瞬で箱に入った丸魚のすべてがアニサキス死滅状態になるという形である。
こういうことが可能になれば、インストアでの商品化作業に力を入れていて、先進的な考えに意欲的であり繁盛している魚売場を持つスーパーなどは、この機械に興味を抱くのではないかと予想している。そして、例えば先進的で意欲的なスーパーが常備することが多い、移動式真空装置や超低温ストッカー並の価格でパルスパワー装置が手に入るのであれば、店舗単位での装置導入ということに前向きな姿勢を示す経営者は少なくないと筆者は思っている。
ホッケ料理
さて、パルスパワーの話題はこれくらいにしてホッケのテーマに戻ることにしよう。ホッケにはアニサキスが潜んでいる可能性があるので生食は避けた方が良いとされていることから、アニサキスを死滅させる方法へと話題がずれてしまったのだが、筆者はせっかく活き締めの鮮度の良い生ホッケが手に入ったのだから、これを刺身や鮨にしないなんて、そんなもったいないことはしたくない思った。
ホッケを購入する時、その魚体を手で触り、エラの色を目視で確認し、腹部の張りも確認したが、まあ死後硬直のピンピンとしたものではなく、軟化状態の一歩手前のようにも感じた。しかし北方海域に生息する脂肪分の多い魚というのは概して柔らかく感じる魚が多く、この状態は既に鮮度劣化が進んでいる状態だとは判断しなかった。
先ずはホッケを三枚におろすことにした。
ホッケの三枚おろし工程 | |
1,比較的柔らかい腹部を縦に切り開く。 | 5,下身の尻ビレの際に刃先を入れ、山高骨まで切り進む。 |
2,内臓を取り出し、アニサキスが潜んでいないか、注意深く点検する。 | 6,下身の背ビレ際から切りいれ、山高骨まで切り進む。 |
3,水をかけながら、道具を使って血合いを掻き出し、この時もアニサキスが残っていないか、注意して作業する。 | 7,尾部から山高骨に沿って頭部へと切り進み、下身を切り離す。 |
4,魚体の水分を拭き取り、包丁で活き締めをした切り跡の部分から頭部を切り離す。 | 8,中骨から上身を切り離す。 |
9,ホッケを三枚おろしにすると、その身全体が白っぽく脂肪分が豊かなことがよく分かる。この状態で再度アニサキスが潜んでいないかを目視で確認した。 |
この三枚おろしにしたホッケをどう扱っていくかを考えてみて、今回はひと味違う変わった方法を試してみることにした。それはホッケに潜んでいるアニサキスが内臓から魚肉の方に移動すると仮定して、その移動する行き先を予想してみると、たぶん内臓周囲の部位への方と行くはずだと想定した。つまり調理の方法として、内臓周囲の魚肉は刺身や鮨にせず、火を通す料理に向いた切身にすれば良いと考えたのである。以下の画像は頭部側の内臓周囲だけを切身にする作業工程である。
ホッケの頭部側切身作業工程 | |
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1,切身を使った料理はポワレにすることを決めたので、上身のカマ部を除去。 | 5,下身のカマ部を切り外す。 |
2,上身の腹骨を包丁で欠き取る。 | 6,下身の腹骨を欠き取る。 |
3,上身を頭部側と尾部側の二つに切り分ける。 | 7,下身を頭部側と尾部側の二つに切り分ける。 |
4,上身を二つに切り分けた状態。 | 8,1尾のホッケを頭部側二つ、尾部側二つの合計四つに切り分けた状態。 |
切身はソテーに都合良い形であり、今回はポワレにすることにした。 |
ホッケの切身をソテーなどの料理にする際は血合い骨を抜いた方が良いのだが、今回は抜き忘れてしまっていた。出来上がった料理を食べてみると、細くて長い血合い骨は意外に存在感があって気になることが分かり注意すべき点だと感じた。以下はホッケのポワレを料理した工程である。
ホッケのポワレ料理工程 | |
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1,フライパンにバターを入れる。 | 3,ホッケの切身が丸まらないようにフライ返しで軽く押さえる。 |
2,塩コショウをした切身を、皮側を下にしてフライパンに入れる。 | 4,皮の焼き目が出て、パリパリ感がでるまで、しっかり加熱する。 |
5,切身を取り出した後のフライパンの中に、ブイヨンと白ワインを入れてソースの味を調え、このソースを皿に盛りつけた切身の上にかけ、付け合わせを添えて完成。 |
ホッケのポワレを食べてみて、これはなかなか上出来の料理だと感じた。その身は柔らかく、脂肪分を適度に含んでいて美味しく、特に皮の優しく歯応えもある食感は絶妙であり、レベルの高い料理に仕上がったと思った。
次はいよいよホッケの刺身と鮨である。北海道においてさえ生食は避ける方が良いとされているホッケを、遠く離れた九州福岡の地で生食するのである。もちろん筆者はアニサキスを避ける見極めは出来るとの自信はあったけれど、何しろ開きにした干物を焼いて食べたことはあっても、生で食べるのは初めてのことである。ホッケを購入した時、魚体はあまり硬くはなく柔らかい感じだったので、もし魚体に活き締めをした切り口がなく、血抜きもしていない状態だったら刺身や鮨にしたかどうか分からない。
以下はホッケを刺身と鮨にする前段階までの作業工程である。
ホッケの刺身と鮨の準備作業工程 | |
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1,1尾のホッケを頭部側二つ、尾部側二つの合計四つに切り分けた状態。 | 5,皮下脂肪が身の方に残っている。 |
2,尾部を選び出し、刺身と鮨に使う。 | 6,半身で刺身と鮨にするので、小骨を除去する目的で、小骨の両脇をV字に切り込みを入れる。 |
3,皮を引く。 | 7,V字に切り込みを入れても、骨が細いことから途中で切れることが多い。 |
4,皮下脂肪がタップリで皮を引きやすい。 | 8,V字に切り込みを入れて小骨を抜いた状態。 |
刺身と鮨を作業している工程の画像は省略した。刺身と鮨にした結果分かったことは、ホッケは基本的に柔らかい身質の魚であることを前提に商品化すべきということだった。つまり、刺身は薄造りをおこなっているが、反省点として刺身はすべて身を厚くする平造りにした方が美味しいことが、実際にホッケの刺身の厚いのや薄いのを比較しながら食べてみて分かったのである。また鮨についても、鮨ダネにする時は生マグロを扱う時のように、あまり薄く切らずに少し厚めに切ることで食感を残すような感覚で切ると美味しく食せると思ったのだった。
生のマホッケ
生のマホッケは柔らかい身質の魚である。だが生食でも加熱した料理にしても、どちらでもとても美味しい魚であることを確認することが出来た。今時はアメリカ産の冷凍のキタノホッケが干し魚の「ホッケ開き」として幅を効かせており、ホッケとはもっぱら開き干し用の大衆魚としてしか見られていないようである。だが生のマホッケというのは、そういう一面的で単純な見方で括ってしまうのはもったいない、様々な可能性のある美味しい魚なのである。
以下のグラフはホッケの主な漁獲地の一つ北海道羅臼漁協におけるホッケ漁獲高の年度別推移である。これを見ると、2016年を底として、その後ホッケの漁獲高が漸増しているのが示されている。ここ最近の状況はデータが無く分からないけれど、このような形でまだ少しずつでも漁獲が増えているとすれば朗報だ。このような良い流れが、これからも途絶えずに続いていてほしいものだ。
今後生のマホッケの全国的なニーズと販売展開がどうなっていくのかを占う上で、イメージとして障害となりそうなことは、一つ目に柔らかい身質故に必要以上に鮮度落ちが早いと見られることであり、二つ目はアニサキスが多く潜んでいる魚という見方をされていること、などではないかと思われる。こういうマイナスイメージをどうやって乗り越えられるか、その辺が生のマホッケがその美味しさに相応しい評価を受けられるかどうかのポイントとなりそうである。
少なくとも福岡に居住する筆者が、北海道で漁獲された生のマホッケを購入し料理した結果感じたことは、生のマホッケは間違いなく美味しい魚であることを確信したということである。これから、生のマホッケが正当に評価されていくことを願いたいものである。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 6年 2月 1日