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平成22年 3月号 No.75


アバサー薄造り



普通はこの魚を刺身では食べない。

しかし、生の刺身で食べてみたかったのだ。

だから、上の写真のような薄造りの刺身を造ってみた。

この魚は独特の臭みがあったので、これを打ち消すための工夫が必要となり、薄造りにしてから、比較的長い時間「あらい」にしたものだ。あらいにしては時間が長かったからだろうか、臭みはとれたけれども、旨味が感じられず、食感としてはパサパサとしたものになってしまい、結局は「刺身では美味しくない」と結論づけることになった。



その魚の正体は、これ。

この大きな目で睨みつけられると、こちらもタジタジとなる凄みがあるのだが、これが何とも「張り子のトラ」みたいなもので、本当に見掛け倒しで困ったものだったのである。


魚の正式名称は「イシガキフグ」である。

フグ目ハリセンボン科イシガキフグ、という系列で、ハリセンボンの仲間だ。

南西諸島から沖縄では、これらはまとめて「アバサー」と総称され、主にお汁で食されるのが普通である。


この魚をヒックリ返すと、こういう風に大きな腹が現れるのだが、これは本当に「見掛け倒し」という奴で、本当に、呆れてしまったのだった。



刺身を食べるのが目的なのだから、とりあえずは「トラフグ解体」と同じ要領で皮を剥ぐことにした。


トラフグ解体の定石通りに、先ずは両胸ビレを除去した。

トラフグのように、口先を落とす作業は必要なく、ヒレの切り口から、口のほうへと切れ込みを入れた。

次に、ヒレの切り口から尾ビレの方へ切れ込みを入れた。

この後、皮を剥ぐ段になって考えた。

皮を剥ぐ場合、トラフグは尾の方から頭に向けてが原則だが、イシガキフグの場合は、背の皮がとんでもない硬さであることや、棘(トゲ)が尾の方に向いていて、少し危険なものを感じて、アンコウと同じように、頭のほうから引っぱがすことにした。


そして、その次は反対側の腹側の皮を引っ剥がす番だ。

腹側も頭のほうから引っ剥がすことにして、硬くてゴワゴワした背腹上下の皮を除去すると、イシガキフグは下のように丸裸になった。

写真の右の方にあるのは、裏返した棘だらけの背と腹の皮なのだが、これは使い道が分からないので、廃棄処分してしまった。

内蔵を確認してみると、とても面白いものが出てきた。

真ん中の白い物体は、指で触ったり、押したりしたくらいではとても破れない、硬くて白い繊維状の膜で出来ていて、パンパンに膨れた浮袋だった。

(上下を裏表にした同一の写真)

深海魚が釣り上げられた時、浮袋が膨れ上がるけれども、これは、とてもそういうような状況ではないのは間違いなく、元々この形に出来ているようなのだ。

 喩えとしては、少し無理な表現を許してもらうとすると、柔な風船ではなく、大きな硬いバレーボール、の違いを思い浮かべて欲しい。

浮袋としては、その喩えほど硬くて丈夫なものだったのである。

こういう浮袋がなぜ必要なのか、非常に不思議だった。


今回筆者は最後に、ある密かな楽しみを残しておいた。

最後の段階で、この浮袋に穴を空けるのを楽しみにしていたのだ。

誰でも緩衝材の膨らみを、プチッと潰したくなる、あの心境だ。解体の最後の最後に、お汁用の商品化をする時、ワクワクして、包丁でプシュッとやったのだが、こんな硬い浮袋を、包丁で破るのは初めてだった。


これはイシガキフグ解体後の、

トラフグならば、いわゆる「ミガキ」の状態なのだが、頭と胴体のバランスの悪さは、いったい何ということか。

トラフグのミガキを知っている人ならば、あまりにも胴体の身の割合の少なさに驚かれることだろう。

名誉の為に付け加えておくと、解体を失敗して身の部分が無くなった、ということは断じてない。

本当に、胴体の身の部分はこれだけしか残らないのである。

刺身にはあまりにも歩留りが悪い、というのが見ただけで判ると思う。


一般的に刺身用として扱っている普通の魚であれば、歩留り率は最低でも35%から48%くらいは、だいたい誰がやっても期待出来るのだが、イシガキフグは、何と「12%」にしかならかったのである。

ボールに入っているのは、可食部分を氷水で「あらい」にしたもので、イシガキフグ1尾分全ての正身である。

あらいにする前に、一切れだけ「つまみ食い」をしているので、その分は少なくなっているけれども、それは大勢に影響ないだろう。

あとの残りの大半の部分である骨や皮と一部の内蔵は、写真のように「お汁用」の商品化をした。

中に入っている「肝臓」はトラフグのように毒はないので、これをすり潰してお汁に入れるのが「料理の味噌」だそうである。

それにしても、同じフグはフグでも、トラフグを大皿に薄引きにした、あの「繊細な世界」と、イシガキフグのように、大半の部分は叩き切る「大雑把な世界」とは、あまりにも違い過ぎるというのが感想である。

トラフグは真冬が旬なのだが、イシガキフグはどうなのだろう。

きっと、トラフグとは大きく違って、真夏なのかもしれない・・・・知っている人、教えて下さい。


更新日時 2010年 3月 1日 (月)


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