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平成23年 10月号 No.94



ゼンゴ背越し造り


ゼンゴとは小アジよりも小さいサイズの真鰺のことである。

豆アジという呼び方をすることもあるが、ゼンゴの方が一般的のようだ。このゼンゴよりも小さな稚魚レベルのサイズは、ジンタとかアジコとも呼ばれる。ゼンゴはサイズが10pから15p位のものを指し、それ以上のサイズは15pから20pを小アジ、20pから25pを中アジと呼ぶ。ゼンゴとは小アジの大きさにもならない15p以下のサイズと思えば間違いない。


このような極小サイズの魚というのは、あまりにも小さくて調理もしにくく価値が低いので、仕入れ段階の取引価格は非常に安いのが普通である。このため、どんなに鮮度が良くても店で売られている売価は、下のようにこのボリュームでもせいぜいこんな価格が精一杯である。

 

お客様の基本的料理方法は、そのまま唐揚げにするのが一般的なようで、これをわざわざ三枚おろしにして刺身にするようなことは、あまりにも煩雑なので、普通は敬遠したがる作業である。


またゼンゴだけではなく、下の画像のような魚も小さすぎて、唐揚げ以外の料理では面倒な大きさなので、価値は低く価格も安い。

 

 

アメタと印字された名称は大分地方の地域名称であり、全国的に通じる名前はシスであるが、モチウオとか他にも様々な呼称がある。この魚はもう少し大きければ、価値を付加出来る商品化への道も出てくる。例えば、ずいぶん昔になるが幣紙平成17年10月号はその一例である。しかし同じシスでも上の写真のような小さなものだとその方法も難しくなる。


そこで、この魚もゼンゴと同じような調理をすることにした。

 

 

左側のシスと右のゼンゴもそれぞれの頭を落とし、内臓を出す。

 

シスは背ビレ腹ビレを除去するが、小さなゼンゴはそこまでやる必要はない。

 

 

 

そして、どちらの魚も出来るだけ薄く「背越し」にする。

左がシス、右がゼンゴの背越し。


そして巻頭写真がゼンゴで、シスを商品化したのが下の写真だ。

 

ゼンゴの場合は頭の方から薄く胴切りにしているが、シスは縦に二つ切りして胴切りしているので、巻頭写真と同じ容器に入れると、大きさ的にシスとゼンゴとは簡単に見分けが付かなくなる。


「背越し」という食べ方は一般的にあまり馴染みがない。実のところ全国の魚関係者でもこういう食べ方を良く知っている人は少ない。しかし「海に近い海岸地方の魚処」では昔から普通の食べ方だった。「だった」という過去形で表現しなければならないけれど、これは言わば「今でも現存はしているが衰退した料理法」だからである。


一般的に背越しで一番名が通っているのは「鮎の背越し」であろう。だが鮎の背越しも、今では特定地域の料理屋でしか味わえない。鮎の背越しは酢味噌や蓼酢(たです)などで食べるのが普通だが、ゼンゴやシスの背越しはポン酢と紅葉おろしで食べると美味しい。美味しくたべるコツは、大量の大根おろしにポン酢と紅葉おろしを入れて、

背越しの身を絡めるようにして豪快に3〜5切れを口に入れるのだ。当然のことだが、噛むと小骨が歯に応えるので、普通の刺身とは違う食感である。柔らかい骨なので普通の健康な歯ならば、骨を噛み切れないことはないので、この部分的な固い独特の食感を楽しみながら噛んでいくと、今度はその内に新鮮な生魚の味が骨の中からも一緒に滲み出てくる。


昔から何故わざわざこんな食べ方をしてきたのかを考えてみると、基本的な発想は「もったいない精神」ではないかと推測される。ゼンゴやシスといった新鮮な小魚が大漁に獲れた時、これらの魚をどうやって無駄なく残さず食べ切るかに知恵を巡らした時、思いついた一つの料理方法が、小魚にしては簡単な調理作業で済む「背越し」という方法だったのではないかと想像出来る。


刺身を食べる部分は、元の魚体の30%から40%しかないのが平均的な姿だが、その理由は頭、内臓、骨、皮などを除去した残りしか刺身にならないからである。

その点「背越し」という食べ方は違っていて、頭や内蔵を除去するとしても、骨や皮はそのまま残して食べるのだから、可食重量はだいぶ増えることになる。また骨や皮というのは、身の部分だけの刺身では味わえない奥深い旨味があり、価格が安いからといって小馬鹿には出来ない存在感があるのである。


現在、日本語の「もったいない」という言葉が日本だけでなく、世界の各地でも注目されるようになってきているようだが、日本における「もったいない」精神というのは、小魚の背越しという食べ方にも、象徴的に表されているのではないかと思う。

巨大な本マグロの大トロばかりに目を向けるのではなく、小魚を活かす「背越し」にも目を向けてほしいものである。


  更新日時 平成23年10月 1日


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