株式会社 構造ソフト

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■偽装事件とその後の新法の運用について


構造技術者の業務報酬のゆくえは?

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2007年3月1日(木)
株式会社 構造ソフト
代表取締役社長 星 睦廣




1.始めに

 偽装防止策の運用が、法令改正を伴ってまもなく始まります。
 これにより構造技術者を取り巻く環境が激変し、その責任も重くのしかかりますが、その責任に見合った報酬向上の動きは見えません。このままでは、職能の確立の第一歩でつまずきそうで、この業界の将来が危いところです。  
 その原因の多くは、この重要な局面で構造技術者の役割と責任、その報酬について、当事者が前面にでて語っていないところにあります。


2.業務報酬規定が出せない

  「構造技術者」と呼ばれる構造設計業務を専業としている方が、全国で約7千名から8千名いると個人的に試算しています。その状況下で構造技術者だけでも3500名近い会員を要しているのがJSCA(社団法人 日本建築構造技術者協会)で日本最大の建築構造技術者の団体といえます。

 JSCAは業務報酬規定を作ろうと動いた時期が何度かありました。しかしいつも一歩踏み出すまでに至らないで終わっています。近年の例でいうと、「報酬が大きくなればそれに見合って責任も大きくなるから、現状の報酬でよい」との意見が少なくなかったとの結論で、具現化されるに至りませんでした。

 業務報酬規定がうまくまとまらない理由はこのような表面的な話だけでなく、建築業界の下請け体制と係わる話も存在しています。構造技術者の団体とはいえその構成員は、下請け的立場の専業構造事務所の所長さんが多数おりますが、一方社会的地位が確立している有名な構造家と呼ばれる方や、元請的立場の大手企業の部長さんが理事としており、それぞれの立場により報酬規定の捉え方がかなり違うと言えましょう。

 構造技術者の報酬を、十把一絡げに論じられない理由がここに存在します。



3.日本建築学会と国交省の報酬に関する会話

 以下に日本建築学会の先生と国交省の方との間で交わされた構造技術者の報酬に関する前向きで興味深い会話を紹介します。
この会話は偽装防止策をどのように捉えて対処すべきかとの意見を、国交省が日本建築学会に求めたときの話で、その内容は当事者である構造技術者を凌駕する迫力あるものでありました。

報酬に関する会話部分抜粋 (平成18年11月9日 議事メモより)
 (日本建築学会から)2000年の法改正の際も民間(審査機関)で確認を行うとなった時に、実際にかかるコストと価格が全く違っていたため、民間に無理がかかった。今回もチェックさせたが、ただ働きのように構造技術者を使っていた。ちゃんとした報酬を払うということを言っていくということが大事。

 (国交省の回答)建築生産の問題で、なぜ構造技術者のみが犠牲になるのかと思っている。今回の問題を構造設計の問題に留めるとますます構造設計者が苦しくなる。そうではなく、元請け設計の問題であり、発注主の問題であり、ゼネコンの問題もあるのだということを構造全体として生産システムの問題だと声を上げていかなければならないのではないか。この問題を設計のあり方の問題、設計と施工の関係の問題であると構造の人たちがどれだけ言えるかが大きいのではないか。

 この会話は短いが、この偽装事件の背景となる建築業界全体の問題を凝縮して語っており、構造技術者ならどのような立場の方でも、うなってしまうような重い言葉です。


4.報酬の確立と性能責任

 偽装防止策のもと2007年6月20日には、法令・告示が施行されます。
 それに伴って、多くの資料が作り出されていますが、構造技術者にとって最も重要な2点、つまり報酬規定と住民が望むところの耐震性能をどう作り出すかについて何も語られていません。
 この2点に関しては国が直接的に規定する問題でないために、一切の資料は出されていません。しかし、偽装事件の本質のところで係わっているものだけにその方向性が示されても良かったわけですが、この2点は法令と切り離して当事者(構造技術者)が考え築く問題であるとして、皆さんへ委ねられてしまったようです。

 今後の動きとして構造計算適合性判定員(以下適判員と呼ぶ)の報酬が決まり、次に構造設計一級建築士における報酬が決まることになります。

 そのような中で、構造技術者に課せられた役割と責任を理解し、それに見合う報酬とはいくらかを明らかに示す必要があります。
 時給換算にしたら、5千円なのか、1万円か、はたまた2万円なのか・・・。 

 しかし、適判員の報酬は、(人のよい)構造技術者が何も語らないうちに、なし崩し的に決められようとしています。そしてこの結果は次の構造設計一級建築士の報酬にも引き継がれ影響を受けます。その意味では、適判員の報酬が今後の構造技術者の報酬を決めてしまうと言っても過言ではありません。 

 2点目の性能に関する責任を述べるなら、今後建てられるマンションが大地震に遭遇して、阪神大震災のような損壊をしたら、当時のように天災だとして住民はあきらめてくれません。
あちこちで訴訟事件が起こり、(法令を満足していても民・民の問題は残り)構造技術者の信頼は地に落ちてしまうでしょう。

 今後は下請けという一歩引いた立場の責任ではなく、刑事・民事の責任を大地震直後に問われるため、施主や設計者を納得させるだけでなくマンションの住民をも満足させる性能を造り出す責任を担うことになります。

 このような役割と大きな責任を、好むと好まざるとに係わらず課せられましたので、役割と責任を全うできる報酬を自らの手で明らかにするときが来ています。


5.若い構造技術者が増える活力ある未来を

 構造技術者の職能の確立は、後にも先にも今しかないということを、構造技術者の誰もが認識していることでしょう。
 ここは元請けだ!下請けだ!との意識から脱却して、構造技術者の活力ある未来を造り出すために、様々な立場を飛び越えて構造技術者の皆様が一丸となって動き出すときではないでしょうか。

 JSCAがあなたに何かをしてくれると期待することより、まずあなたが、構造技術者のために、そしてこれから建築構造を目指す若者のために、今何をしてあげられるのか、この辺から考え始めて行動に繋げて頂きたいと願います。

 JSCA会員であるなら、各支部で話をまとめれば、支部長さんは理事会でそれを報告しますので、新しく選任された理事の皆さんへも充分伝わります。
 木原副会長さんは、こまめに通信を出し良い意味で革新的ですので、皆が動けばそれに応えてくれるのではないでしょうか。

 JSCA頑張れ!  
 FASA(日本建築構造設計事務所協会連合会)の皆さん頑張れ!

株式会社 構造ソフト
代表取締役社長 星 睦廣




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